大会の始まり
麗美が実家に戻り残り少なくなっていた夏休みも終了し、学校が再開される。
9月に入り日差しも少しは和らいだがまだまだ暑さは残っている。だが9月はサッカー部にとって一大イベントが始まる時期でもある。
―――『全国高校サッカー選手権』
高校サッカーでの一大イベントであるこの大会の予選が9月から始まる。
通常、3年生も多く参加する大会なのだが、優真たちの高校は進学校であるため3年生の参加は自主制…一般的にこの大会前の段階で引退するのが慣例となっていた。他の高校は3年生が参加する中、優真たちのチームは1年と2年のみ。
だが、実力から言うと3年生の抜けた現在のチームは格段にチーム力が上がっていた。
県でベスト4になった中学校のレギュラー選手が3名いる、…この事もあり、他の部員たちも自信をつけて日々練習に汗を流して努力していた。
先ずは地区による一次予選、そこでベスト4に入れば4チームでリーグ戦、そこで2位までに入ればようやく県大会の本選に進むことができる。9月が予選、勝ち進めれば10月に本選が待ち構えている。
現在のチーム力で言えばまず一次予選突破は固いといえた。司令塔の礼二も正確にチーム力を分析してその辺りには自身を持っている。問題は何処までいけるか…。
優真たちは少しでも上を目指して日々練習に明け暮れていた。
だがしかし、こんな状況になると…こっちはこうなる。
「愛美ちゃん、私たち暇だよね~ あいつらは彼女がいるってこと忘れてんじゃないの…」
「そうだよね~ ちょっとはかまってくれてもね~…」
そうして地区予選が開始される。
強豪校は全てシード、…このため一次予選ではさほどの実力程度しか持たない学校が多い。
こうした中、優真たちのチームは順調に勝ちを進めて取り敢えずの第一関門であるベスト4に入ることができた。
ただ、この間は週に1、2回のペースで試合が行われる。試合→練習→試合の繰り返しで、さすがに優真たちはサッカー以外のことに気を配る余裕もない。
ベスト4のリーグ戦で勝てたら一息つけるから、…優真や静城はそう言って芽生や愛美を宥める毎日。だが、一生懸命サッカーに打ち込む彼氏の姿をみて芽生も愛美もある意味満足する部分もあった。
「また次も一緒に応援に行こうね、愛美ちゃん」
「そうだね、芽生ちゃん…」
一生懸命頑張る彼氏を応援する健気な彼女… そう考えると俄然やる気が出てくる二人であった。
そしてリーグ戦も始まる。計3試合の合計ポイントで上位2チームの選抜となる。即ち、一戦目と二戦目に勝利すれば勝ち残れる可能性が非常に大きくなる。このため一戦目にかける意気込みはどのチームもかなり高い。優真のチームもこの一戦目に照準を合わせて念入りな調整を行い万全を期して試合に向かった。
「今日は何が何でも勝つぞ!」
「オォーッ!」
優真たちのチームは円陣を組み、2年のキャプテンの掛け声とともに気合を入れてからグランドに向かう。
愛美と芽生もグランドのサイドで試合に向かう皆を励ましていた。
そしてボールの権利を得た優真たちのチームからのキックオフ。
礼二がボールを蹴りだすとともに試合が始まる。
序盤はゆっくりとしたパス回し。各選手が自分のポジションに移動する様子を礼二はよく見て短いパスを繰り返しながらゆっくりと相手陣地へ進んでいく。この辺りはサッカーにおける試合開始時の定石。相手の選手もいつものことのようにゆったりとした動きで移動している。
すると突然礼二が一気にドリブルを加速させて相手ゴールに向かい迫っていった。
慌てた相手の選手は礼二にむかって集まってくる。単独で突っ込んできている礼二さえ押さえれば危険はないとの判断だ。
やがて礼二への囲みが完成しようとしたとき、礼二は左サイドに向かっていきなりパスを出す。誰もいないサイドエリア…
だがそこに猛烈な勢いで走り込んできた選手が一人いた。礼二のパスを受け取ると、サイドからゴールめがけて一気に駆けあがる。慌てた相手の選手は礼二の囲みを解いてゴールに向かって突進してくる選手を潰そうとした。
礼二からのパスを受け取ったのは当然優真、…優真は一気にゴールを目指す。そして………
優真は相手の選手を引き付けるだけ引き付けると速いパスを中央へ送る。そしてそこにいるのは礼二。
礼二は少なくなったガードを振り切り一気にシュート…。僅か開始3分で1点目をゲットした。
夏休みの合宿で散々優真を走らせて訓練した攻撃方法は見事に決まった。
試合開始直後でまだ気が緩んでいた相手チームの選手たちは呆気にとられたような感じで1点を失った。大事な試合でのいきなりの失点、…当然相手チームは焦りを覚えながら攻撃に打って出ようとする。そうするとどうしてもガードが甘くなる。
それはまさに礼二の思い描いた通りの試合展開。前半終了間際に甘くなったガードの隙をついて今度はエースである静城が堂々と2点目を挙げた。
そして前半終了…。
「後半早い段階でダメ押しの3点目をとりに行くぞ。今度は優真と俺と静城の3人で一斉に前に出ていくからな…」
「了解…」
「おっし、…ダメ押しの3点目は俺に任せろ…」
優真は礼二の作戦に静かに頷き、静城は3点目を狙う気満々で気勢を上げた。
前半を観戦していた芽生と愛美はハーフタイムに入るとグラウンドの側にある適当な日陰に入り寛いでいた。
お互い彼氏がしっかりと活躍しておりチームも優性なので二人とすこぶる機嫌がいい。
それにサッカーに関して素人の愛美でさえ気付くほど、優真たちのチームは強くなっている。
礼二が加入してから静城本来の豪快なシュートも見れるようになり、愛美は皆の実力を見て驚く思いだった。
「やっぱり静城君のシュートは凄いね… 他の人に比べて凄く速いや…」
愛美が見たままの感想を素直に述べたが、芽生はちょっと意外な答えを返してきた。
「そうかな?… 中学の時のエースは静城じゃなかったしね…。静城よりも背の高い男の子がいてね、…その人のシュートはとんでもなく速かったよ。多分チームの総得点の半分以上はその人の得点だったはずだし…」
「そんな人いたんだ…」
さっき見た静城の豪快なシュートより凄い… 愛美には想像がつかない。
「じゃないとベスト4なんて絶対にいけないよ…」
県内でトップの4チームに入る、そう考えると優真たちのチームは相当な実力があったのであろうということは今の試合を見ていて実感できた。今更ながら優真は凄かったんだと思わず実感してしまう。
そして後半がスタートする。
最初は守り気味だった優真たちのチームだったが、味方のDFが敵のパスを奪い取ったところから礼二は一気に仕掛けていった。
―――みんな上がれ!
礼二のサインをきっかけに数名のDFだけを残して一気に全員で敵陣へと攻め寄せていく。
礼二と優真で小刻みなパスを出しながら静城を一気にゴール前まで走らせ……それを囮にしてもう一人のFWである2年の先輩へとパスを回す。
そして殆んどノーマークに近かった状態でパスを貰った先輩は見事にゴールを決めた。
これが駄目押しとなり、その後はこれといった展開もなく時間を消化していき試合は終了した。
試合が終了し、ミーティングを終えると解散となり優真と静城は愛美と芽生の元へやってくる。ここ最近でのいつもの風景である。
そして2組のカップルは仲良く手を繋いでのんびりと歩いて帰って行く。
歩きながら今日の試合のこと、最近クラス内であった出来事、今度何処かへ遊びに行こうという話、…そう言った他愛もない話をしながら4人で愉快に家路へ着く… 何のことは無い風景だが、愛美はこの一時を凄く気に入っていた。
試合が終われば真っ先に自分の元へ駆け寄ってきてくれる優真、…最後には必ず私の所へ戻ってきてくる。そんな優真を見る度に愛美は実感することができた。
―――優真は私の彼氏なんだ…と。




