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初恋の物語



これは俺と俺の幼馴染である麗美との物語、俺の初恋の話…。


 俺は生まれて直ぐに親の転勤で、ある田舎町に引っ越した。俺の人生の記憶はその町から始まった。そこは水と空気の美味しい町ですぐそこに自然が溢れているようなところだった。


 俺の家族はその町で親が務める会社が借りてくれた一軒家に移り住んだが、その一軒家の持ち主の娘が俺の幼馴染である『山鹿麗美(やまがれみ)』だった。


 持ち主である山鹿家もその家の近くにあり、子供も少ない田舎なので俺達は幼いころからずっと一緒に遊んでいた。



 田舎は総じて人の繋がりが強い。隣近所の子供でも自分の家の子供のように扱ってくれる。

俺と麗美は互いの家に自由に出入りして遊び、一緒にご飯を食べたりするのが日常だった。


「ゆうま、あそぼ~」「ゆうま、ごはんだよ」


物心がつくころから麗美はいつも俺の傍にいて何をするにも一緒だった。

そんな生活は幼稚園の時も小学校に入っても何も変わらなかった。

一緒に学校へ行き、一緒に帰ってくる、帰ってきてから遊ぶ時も勉強するときも俺たちは離れることがなかった。



 そんな俺達にも変化が起こる。

小学校高学年になると周りが俺達を冷かしてくる。

「いつも手を繋いで学校へ来てるぞ」なんて言われて、俺も恥ずかしいという気持ちを憶えてくる。

そんなことがきっかけで、俺は麗美と少し距離を置くようになった。


「どうして前みたいに一緒に学校へ行ってくれないの?」


 麗美はそんな俺の様子をとても悲しんでいた。

今思えば小学生のくだらない意地だったと感じる。

でも離れたがゆえに感じることができることもあった。


 少し距離を置いて冷静に麗美を見てみると麗美がどれほど綺麗な女の子なのかがよく分かった。

一緒にいつもいたので気づけなかったのかもしれない。

それにどれほど俺の世話を焼いてくれていたのかがよく分かった。

そんなことに気づいて麗美の傍に戻ろうかと思ったが、何か恥ずかしくて傍に行きにくい。

多分俺はそのあたりから麗美のことを幼馴染ではなく女の子として意識するようになっていたと思う。



 あるとき俺は風邪をこじらせてひどい状態になってしまったことがあった。

熱もかなり高くまで上がり、意識も朦朧とする。学校を休みずっとベッドで寝ていても一向に具合は良くならなかった。


どれくらい寝ていたのか分からないが、ふと目を覚ますと俺は誰かの手を握っていた。その手の先を見るとベッドに凭れ掛かるようにして寝ている麗美の姿があった。

麗美は学校から帰ってくるとすぐに俺の家に来て俺の傍で居たいと言い出し、そのまま泊まり込んでいたらしい。


 俺が起き上がると麗美も目を覚まし、少し寝ぼけた顔だったが心配そうな表情をして俺に言った。


「優真、大丈夫なの? 私、優真が心配で、心配で…… 」


そう言った麗美の瞳からは涙が零れ落ちていた。


「優真、早く良くなってね」


 祈るような表情で俺を見つめる麗美を見ると何故だか俺の心は温かくなり、なんだか安らいだ気持ちになれた。麗美の柔らかく温かい手の感触が握られている俺の手に伝わってくる。それはとても心地よかった。


 そのとき俺は初めて麗美のことを愛おしいと感じた。

それから俺の麗美に対する思いはどんどん深いものとなっていった。




 病気が治ってから俺は以前のように常に麗美と一緒にいるようにした。周囲から何を言われてももう気にしない… 俺と一緒にいる時間が増えた麗美は凄く喜び、いつも明るい笑顔を俺に見せてくれていた。


 小学校を卒業する頃には完全に麗美のことを女の子として俺は好きになっていたと思う。

幼馴染で友達としてではなく、一人の女の子としての山鹿麗美を好きになっていた。

俺にとって山鹿麗美は初めての友達であり、大切な幼馴染であり、初めて好きになった女の子、そして俺の初恋の人…。


 自分の気持ちに気づくとやはり麗美の気持ちが知りたくなる。麗美は俺のことをどう思っているのか? それを考えると不安になることもあったが、麗美の態度はそんな俺の気持ちを安心させてくれるものだった。


いつも一緒にいてくれる、いつも俺のことだけを見てくれている… そんな彼女の態度を見ていると聞く必要もない…


 中学生になり、だんだん男女の関係が変化してくる。みんなそれぞれ互いを意識し始めるようになる。

ただ、俺と麗美の関係はなにも変化しなかった… いや、既に完成していたのかもしれない。

ただ、今までぼんやりしてた感情がだんだん明確なものに変わってきた。

一緒にいたいという気持ち… それはその相手の人を好きだということ… そのことに二人とも気付いていた。


俺が麗美を好きであること、麗美が俺を好きであること、俺達はお互いにそれがわかっていた。


 周りからは二人でいちゃついているとか冷やかされることも多かったが、皆はなんとなく暖かく見守ってくれた。俺たちはみんなが認める公認のカップル… そんな感じになっていた。



 中学1年も中ごろを過ぎると、俺達以外にもちらほらとカップルが誕生するようになってきた。

俺達は別にお互い告白したわけでもないが、事実上のカップルになっている… ただ、他のカップルは互いに自分の気持ちを伝えあって付き合うようになっている。俺はそんな周りを見て一度ぐらいは好きという思いを麗美にはっきりと伝えるべきか… そう考え始めた。


 何を今更って感じだったが、その方が麗美も喜んでくれるかなと思い、どうやって告白しようか考えた。そんな気持ちであらためて麗美のことを考えると物凄く意識するようになる。意識しながら麗美の顔を見ると彼女の美しさが際立って感じられる。おかげで俺はおどおどした態度となり落ち着きがなくなる。

そんな俺を見て麗美は「どうしたの?」と言ってクスクスと優しく微笑んでいた。


 俺はいつどこで告白しようか悩んだが、中学2年生になる前の春休みに告白することに決めた。

場所は二人が大好きな場所、町はずれの丘にある古くて大きな桜の木の下。

小学生の時から春になると毎年欠かさず二人でこの桜を見に行っていた。

ひらひらと舞い散る桜の花びらを見ながら二人でお菓子を食べたり遊んだり… 楽しい思い出が詰まっている場所だ。 


 小学校を卒業した時も二人で見に行ったが、麗美がそのときぽつりと言った言葉を覚えている。


「来年も再来年もずっとずっと一緒に二人でこの桜を見れるんだよね?」

「あたり前だよ、そんなこと」


その時の俺は何も考えずにそう言った。俺もずっと麗美と一緒に見れると思っていた…。


 今年はあの桜を見ながら今まで言えなかった麗美への思いをはっきりと打ち明けよう… 

その時麗美は何て言うかな? 喜んでくれるかな? 今更って呆れられるかな?


 そんなことを想像すると胸がドキドキとして緊張するが、それはとても幸せな気持ちを感じられる時でもあった。


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