見つめていた理由
今は入学してからちょうど2週間、同じクラスの生徒の名前と顔がようやく少しずつ分かりだしたころだ。
俺は今、麗美への思いを募らせて今度会うときに何を伝えるべきかを考えている。
そんなことを考えているので、今は新渡の顔を見るとなんだか麗美を意識して少し緊張してしまう。
遠くにいるはずの麗美に思いを伝えようと考えてるときに、近くに同じ顔があるというのもなんだか不思議だ。
芽生と新渡はあれからますます仲良くなり、今ではよく二人で喋っている。お昼の弁当も週の半分は俺達のところに新渡が混ざって食べるようになっていた。必然、俺と新渡が話す機会も増える。
そのおかげもあって、新渡とは気軽によく喋るようになっていた。
新渡のことも少しわかるようになってきたが、さすがに性格は麗美とは異なっていると感じる。
ただ、入学式の日のことを不思議と聞いてこないことだけが少し気がかりだ。
今日の6限目はLHR、入学してから初めての席替えを行うこととなった。
番号が書かれた紙が入った箱が順番に回されて一枚だけそこから引く。
俺も一枚引いて番号を確認した。すると芽生がこそっと俺に番号を教えろと言ってきたので、芽生とお互いに番号を教えあった。その後先生が番号の書かれた座席表を提示して、各自自分の席に移動するように指示をする。
座席表と照らし合わせると、俺の席は窓側の一番後ろ、所謂特等席と呼ばれるところだった。
それに芽生の番号を座席表で探してみると俺の隣だった。中学の時も俺は芽生と隣になった経験がある。
俺と芽生は隣となる運命なのかと可笑しくなったが、芽生であれば最高のお隣さんだ。
みんな席を移動し始めるなか、俺も新しい席に着き隣に芽生が来るのを待っていた。隣の席の椅子が引かれるのを見てようやく芽生が来たと思い、話しかけようとして顔を上げて見るとその席にいたのは新渡だった。
なんで?…
確かに芽生の番号を俺は覚えている。……あいつ、やりやがった。
多分、新渡と席番の書かれた紙を交換したんだろう…
そんなことをしても新渡が俺を気に入るわけもないし、俺も新渡とどうこうしたいつもりはない。
ただ、そんなことをした芽生の席は… 新渡の隣だった。
俺と芽生で新渡を挟むような感じとなった。芽生は「愛美ちゃんと隣になれたよ~」といって喜んでいたが、隣り同士で席交換して何がしたいのと言ってやりたかった。
芽生は俺と新渡をくっつけたいと思っているのかもしれないが、それは新渡にとって迷惑だろう。
新渡はこのクラスの女神様的な存在… 俺ごときが近づいたらみんなの恨みを一身に浴びてしまう。
それにしてもよく新渡は芽生との席交換を了承したな… どのみち隣同士だから軽くOKしたのかな。
俺は今、麗美に会いに行くことで頭がいっぱいだ。今は余計なことを考えないで集中したい。
「関都君、隣になったね。宜しく」
新渡が笑顔で俺に声をかけてきた。なんで芽生に乗せられて席を交代したのやら…
「こっちこそよろしく」
「芽生ちゃんも隣だしこの席は最高―だね、えへへ…」
新渡は本当に嬉しそうにしている… 本人が喜んでいるからこれでいいんだろう…
新渡と喋り終えて芽生の方を睨んでみると、芽生は舌を出して笑っていた。可愛くねーぞ…
その日は席替えが終わると授業は終了となるのだが、折角だから放課後4人でどこかに寄っていこうと芽生が言い出したので、静城のクラスが終了するのを待って4人で帰ることとなった。
「ねえねえ、駅前にお洒落なカフェがあるんだよ。行ってみようか?」
芽生がそう言いだすと「知ってる、私も行きたいと思ってた」新渡も乗り気となったので、俺達は駅前にあるカフェへと行くことになった。
カフェに着くと二人は店内を見回して
「わあ~綺麗、お洒落…」
そう言ってスマホで店内をパシャッパシャッと撮影、そんなに撮って後で本当に見ることあるの?
と聞きたいが、これが普通の女子高生のノリなんだろう…。
店員に席へと案内されて取り敢えず着席… その時に初めて気づいたが、静城と芽生は当然のように隣に座るので、俺と新渡も当然隣同士に座ることとなる。……しかもかなり近い。
ここまで近いと新渡のいい香りが匂ってくる。 なんか緊張する…
「関都君は何にするの?」
そう言って新渡はメニューを俺の前に出して顔を寄せてくる。新渡の髪がフワッっと揺れて甘い匂いがする。俺の頬と新渡の頬がくっつきそうになるぐらいに近づいている。流石にこれでは平常心を保てない…
それにこんなところをクラスの奴らに見られたら間違いなく抹殺されるという恐怖を感じ、俺は新渡にばれないようにジワリと離れるように横にずれながら「どれも美味しそうだね」と適当なことをぬかす。 …が、「本当にちゃんと選んでる?」と言いながらずれた分以上に新渡はさらに寄ってくる。
それを2、3度繰り返して俺はとうとう壁際に追い込まれた。
よく見ると新渡の横にもう一人座れるほどのスペースが開いている…
二人でゆったり座れるソファーになんでこんなに窮屈な感じで端っこに寄ってるの?…
取り敢えず俺と静城はコーヒーで女子はケーキセットということで決定…
「やっぱり3人より4人の方がしっくりくるね」
「そうだな、今までは俺達カップルと優真のおまけだったもんな」
今まで邪魔じゃないから気にするなと言っておきながら急に裏切るか? 静城…
「でも、私も芽生ちゃんたちの中に入れて楽しいよ」
「そう? 愛美ちゃんに喜んでもらえて良かった。」
「入学した時から芽生ちゃんと関都君仲良かったでしょ? 付き合ってるわけでもないのにあんなに仲のいい男の子の友達がいて羨ましいって思っちゃった」
「俺達3人は中学時代から仲良かったからね。俺と芽生が付き合えたのも優真の協力もあったし」
「なんかそういうのっていいよね…」
新渡はポツリと呟いた。
「でも、新渡さんって中学でもモテたでしょ? 男の友達なんていくらでも…じゃないの?」
不思議に思って俺が聞いてみると、
「男の子の友達が欲しかったんだけど… ちょっと仲良くなったらすぐに告白されちゃうんで…」
なるほど… 確かに新渡と仲良くなれたら告白もしたくなるよね。
「それで結局男の子の友達はいなくなっちゃうんだよね」
「だったらいっそ彼氏を作ったら良かったんじゃないの?」
「中学生だったし、まだ彼氏が欲しいとはあんまり…ね。それより友達が欲しかったな」
「だったら、静城と優真と友達になったらいいんじゃない?」
「え、いいの?」
「いいよね、静城も優真も」
「俺は芽生がいいならそれでいいよ」
「優真は?」
「俺も別にいいよ」
「だって… それじゃみんなで友達になろうね。愛美ちゃん」
「うん。ありがとう…あはは」
新渡は嬉しそうに笑っていた。あんまり美人すぎるのも大変なんだな…
「それじゃ、アドレス交換とかしよう」
そんな感じで俺は新渡と連絡先の交換をした。
それから皆でわいわい騒いでそろそろ帰ろうかとなった。
「俺達ちょっと寄るとこあるから先に帰るわ」
静城と芽生がそう言って先に帰って行ったので、俺と新渡は二人で帰ることになった。
「関都君、今日はなんかごめんね。無理に付き合わせちゃったみたいで…」
「別に気にしないで。芽生はいつもこんなんだし」
すると急に新渡は真面目な顔になって俺に言った。
「関都君、無理に答えてくれなくてもいいんだけど… 入学式の日に私を見てたよね、どうしてあんなに見つめてたの? 良かったら教えてほしいな…」
やっぱり新渡は気になってたんだな。でも、新渡と出会ったおかげで、新渡の顔を見て俺は
もう一度麗美と会いたいと思い、会う決心ができたから… ちゃんと理由を話そうか…
「わかったよ。ちゃんと話すけど… ちょっと時間かかるかもしれないから…」
「それじゃ、あっちに公園があるからそこで話そ」
新渡にそう言われ俺達は公園へと歩いて行った。
麗美と別れたいきさつも話さないといけないけど、なんかその話を麗美本人に話すような気になるし…
新渡にこの話をするのはなんか複雑な気持ちになる。