3人で
麗美が部屋から出て行ったあと、服を着替えて一階のリビングへと降りていった。
リビングに近付くと愛美と麗美がキャッキャ言いながら騒いでいる声が漏れ聞こえてくる。
「おはよう、愛美、…母さんも…」
「おはようじゃないでしょ? もうお昼よ。愛美ちゃんも麗美ちゃんもとっくに来てるのに…」
「騙されたんだよ。知ってたら流石に起きて迎えに行ってたよ」
「優ちゃん、おはよう… ぐっすり眠れた?」
愛美はそう言ってクスクス笑っている。「どう? びっくりした?」とでも言いたげな顔で…
「………おかげさまで」
「そう言えばさ、麗美さんが起こしに行ってもなかなか戻ってこなかったんだけど、…何かあったの?」
ギクッ…(汗) 会話なのに思わず(汗)なんて使っちまった…。
―――寝起きで思わずラブシーンになってね、もうちょっとでキスしちゃいそうになっちゃった(てへぺろ)
言える訳ないよな。 それに愛美の顔をなんか直視出来ない、…麗美のやろうめ…
「べ、別になにもないよ。…うん、何にもない」
「…ええッ!…酷い、優真… いきなり抱きしめてあんなことしたくせに… 何もないなんて、…ぐすん」
俺の言葉を訊くと急に泣き出しそうな顔をして麗美がそう言った。 猿芝居はやめろ…
「………ゆうちゃん…」
愛美は楽しそうだった表情を一気に曇らせ、悲しそうな眼で俺を見る。
「優真! どういうこと? 麗美ちゃんの言ったこと本当なの!」
母さんはいきなり怒り出して俺を問い詰める。
「ちょ、ちょっと待て、… 俺がそんなことする訳ねーだろ!」
俺がそう言うと、…何故か全員が押し黙ってやたら白い目でじっと俺を見詰める。
―――そうか、…こうやって冤罪はつくられるんだな。
俺が悟りの境地に達して諦めの表情をしていると、急に全員が笑い始めた。
「冗談よ、優ちゃん。優ちゃんはそんなことしないよね… クスクス…」
「はいはい、優真にそんなことする度胸がある訳ないよね。だって優真だもんね…」
そう言って母さんは大笑い。
「やぱり優真ってさ、みんなにそう思われてるんだね…」
最後に納得というか、呆れると言ったような感じで麗美がそう言った。
まるでこの場の空気を和ませるための生贄のようになって弄られた俺。
…みなさん、楽しんでいただけましたか?… 楽しんで頂けたのなら幸いです。
俺の尊い犠牲のおかげで、母さんや愛美と麗美は笑いながら仲の良い感じで楽しくやっている。
特に母さんは本当に楽しそうだ。元々もう一人子供が欲しかった母さん、特に次は女の子をと思っていたけど、結局出来なかったと訊いたことがある。だから引っ越す前も麗美のことを実の娘のように可愛がっていた。
そして今は麗美にそっくりな愛美まで傍にいる。まるで双子の姉妹を持つ母のような気分になっているのかもしれない。
取り敢えず俺がテーブルにつくと愛美がオムライスを俺の前に運んできてくれた。
「はい、優ちゃんのお昼御飯。皆はもう食べ終わってるからね」
「ありがとう、愛美。美味しそうだな~。…そう言えば誰が作ったの?」
「そんなの決まってるでしょ?」
「まさか麗美、お前が作ったのか?」
「お母さんに決まってるでしょ…」
「だよな…」
「…何か言いたそうね、優真… 何が言いたいのかな… 言ってごらん?」
「母さんすっごく美味しいよ今日のオムライス。もう最高~…」
こんな感じで絶賛して褒めたのに母さんは俺のほっぺをつまんで限界まで引っ張った。
痛かった、…凄く。
それから母さんと愛美と麗美は3人でソファーに座って麗美のスマホを見ながら騒いでいた。
麗美が住んでる町の風景が沢山撮られていたみたいで、母さんはそれを感慨深そうに見つめていた。愛美もその写真を真剣に眺めながら、何やら想像を膨らませているような感じだった。
テーブルで食事をしている俺から見えるその風景はとても自然であり何の違和感もない。今日初めて出会った筈の愛美と麗美が、ここまで仲良くしているのを不思議に思う方が普通なのだろうが、なぜか俺はそれを見ても当たり前のような感じしかしなかった。
二人とも同じことを言っていた、…一度会ってみたいと。 そして実際に会ってみた感想がこれなんだろう。
俺を媒介とした繋がりではなく、多分麗美と愛美はお互いの直接的な繋がりで互いに何かを感じていると思う。
暫くして食事を終えてキッチンへ行き、コップにジュースを注いでいると母さんが近付いてきた。
「本当に似ているわね、…麗美ちゃんと愛美ちゃん…。麗美ちゃんとは2年以上会っていなかったけど少し大人っぽくなった姿が愛美ちゃんそっくりなんてね…」
「俺も麗美に会いに行ったときにビックリしたよ。学校で見ていた愛美そっくりに大きくなっていて…」
「…でも、本当に大丈夫なんだろうね、優真…」
「ああ、ちゃんとけじめつけて付き合っていくから大丈夫。それに、…今はまだその時でもないし…」
「その時って?…」
「…口では言いにくいんだけど、…まだもう少し愛美を見ていたいっていうか…」
「友達としてなら友達らしい付き合いでね。母さんはね、世間体とかじゃなくて、…そういったことで優真に判断を誤まって欲しくないから言ってるのよ」
「それは本当によく分かってるから… 心配しないで」
自信を持って言った俺の言葉で母さんは幾分か安心したようで、それからは麗美と愛美が可愛くてしょうがないと嬉しそうに話していた。それから母さんは夕方から用事があるので夕食は麗美と愛美に頼んであると言い残して家を出て行った。
「麗美、そういえばどうするんだ? 折角だからどこか行きたいところとかあるのか?」
麗美の実家は相当な田舎、せっかく都会に出てきたんだから行きたいところがあれば連れて行ってあげたい。
「う~ん、一応希望はあるんだけど、…またあとで相談しよう。それよりさ、久しぶりにアルバムでも見ない?」
そう言って麗美はキャリーバッグを開けて一冊のアルバムを取り出した。
「愛美ちゃんにちっちゃな頃の優真を見せてあげたくて…」
麗美は愛美の方を向いて微笑みながらアルバムを一緒に見ようと誘う。
「うん、見る見る!… 凄く見てみたい…」
「だったらみんなで見よう。優真もこっちへ来て…」
そうして俺達3人はソファーに座り麗美が持ってきたアルバムをみんなで見た。
麗美のアルバムには俺が持っているものとは異なる写真も多くある。写っている俺自身がこんな写真もあったのかと驚くようなものもあり、懐かしくてつい写真に見入ってしまった。
そして麗美は、…アルバムに写っている写真について1枚1枚丁寧にどんな時の写真なのかを愛美に伝えていた。まるで俺の小さかった頃がどのような感じだったのかを説明するように、…俺と麗美だけが知っている昔のことを愛美にも伝えようとするかのように…。
訊いている愛美も表情を様々に変化させながら楽しそうにしていた。麗美の話に訊き入りながらも時折麗美に思ったことを尋ねたりしながら熱心に写真を見ていた。
そんな楽しそうに話している二人の姿を見ると二人には申し訳ないが本当に思ってしまう。
―――こんなに素敵な二人の女の子に好きだと言ってもらえる俺は本当に幸せ者だ。
こんな状況を楽しむなんて不謹慎ではあるが、幸せかと訊かれれば幸せだとしか答えようがない。
この一瞬、ほんの一瞬だが今はこの幸せを感じていたかった。
………多分この先には必ず辛い未来が待っている。
3人の仲が良くなればなるほどその辛さも大きくなるだろう。
そして俺が誰を選んだとしても3人全てが傷つく。
―――選んだ俺も、選ばれなかった者も、そして選ばれた者も。
それを承知の上で俺はやっている。多分それは麗美も同じ…。
だが、愛美はどうなんだろうか?… それを本当に分かっているのか…。
そこだけが唯一の心配だった。




