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優真の過去1



 愛美と付き合いだして1ヵ月半が過ぎ、6月も終わりに近い時期になった。

今では愛美という彼女が傍に居る状態での安定した日常が続いている。


愛美と付き合いだして何が変わった?…と聞かれても実際はそれまでの生活とあまり変化はない。

付き合う前から座席は隣、お昼ご飯を食べるのも一緒なので、学校生活における1日のほとんどを愛美と過ごしていた。だから付き合うようになってもその辺は全く変わらない。


それに平日は部活動があるので放課後特に一緒にいるということもない。

学校生活で変わったことと言えば、周りの奴らが俺と愛美をカップルだと認めたことと、愛美が堂々と傍で居るようになったことだけ。



 そして二人の関係も全然進歩はしていない。いわゆるプラトニックな関係のまま。

この辺は愛美にも了解してもらっている。とにかく今は思いっきり体を動かして気持ちをすっきりさせたい。


それに愛美も今の関係で満足してくれているみたいなので、今は凄く毎日が穏やかであり充実している。

時折部活ばかりしてないで相手しろと言ってきたり、朝一緒に登校したいから駅まで迎えに来いだの言うのはご愛嬌ということで…。



 一方、俺と麗美との関係なのだが、ほぼ毎日電話やラインでの会話を行っている。

中学の時はお互いにスマホを持っていなかったが、今は持っているのでその機能を麗美はフルに活用する。


会話もTV電話で行ってみたり、新しい服を買うと自撮りした画像を送ってきたり、たまに夕食のおかずの写メまで送ってくる。麗美も向こうで元気にやっていることが分かると俺の心も凄く落ち着く。



 ただ、麗美とスマホを使ってTV電話などをしたときによく思う。

――――これが中学生の時にあれば俺達は違ってたのか…

伝えたい気持ちをいつでも顔を見ながら直接伝えることができていたら、たとえ遠距離でも…

そう思うが、結局は「たら」「れば」であり、今の現状が変わることもない。



 そして変化というか何というか… 愛美は麗美と連絡を取り合っている。しかも頻繁に…

この前麗美に電話をしたら通話中… もう一度かけても通話中… やっと繋がって聞いてみると愛美と話していたとのこと。話の内容は凄く気になるが、聞くと墓穴を掘りそうで怖くて何も聞けない。ただ、やたらと仲がいい。



 そして入部したサッカー部だが、うちの高校はそこまでの強豪校でもないので部員もさほど多くはない。俺と静城がいた中学は結構強くて県内でベスト4に入ったこともあった。特に静城は長身のFWでおまけに無限の体力を持つ本当のサッカー馬鹿。なので1年生ながらもすでにレギュラーとなっていた。


俺は当然控え選手で地道に下働きとトレーニングに明け暮れる毎日だ。ただ、先輩方は皆親切で仲良くしてくれるので本当に有り難いと感じている。

もう直ぐ3年の先輩にとっては最後の大会、そのため練習にも熱が入り土、日も関係なく練習に明け暮れているが、俺にとっては充実した日々が過ごせている。



 今日も授業が終了し、静城が迎えに来たのでこれから部活へと向かう。


「優真、今日も練習行くぞー!」

「わかってるから… いちいち声がでけーんだよ」


毎度のことながら静城が拡声器でも使っているように声を響かせて誘いに来る。

そしてクラスに残っている奴らの注目を浴びる… いい加減ボリューム調整しろ。


ただ、俺がサッカーを再開してから静城はサッカーへの情熱をさらに倍増させている。


「というわけで… 今日も行ってくるわ」

「うん、頑張ってね」


 隣の愛美に部活に行くと告げて今日も愛美と別れる。形式的に付き合いだしたのはいいが、はっきり言って二人で会っている時間は今が一番少ないと思う。


愛美には申し訳ないと思っているが、俺としては今はこの状況がベストだと思っている。

部活もしないで暇を持て余すと愛美と一緒に居る時間が必然的に長くなる。冷静になって二人と向き合うにはそれでは不味い。だから暇な時間ができないぐらい部活動がある今の状況が丁度良い。


「静城、頑張ってね… 優真も」

「おう、頑張って来るわ… 芽生」


最後は芽生に見送られ俺と静城は部活へと行った。




 優真と静城が去った後は愛美と芽生で教室でお喋りした後に帰っていく… これが最近の日課である。

今日も愛美と芽生はお互い彼氏を部活に送りだした後、暫く教室で話していたが、芽生がちょっと寄り道でもして帰ろうと言い出したので二人はドーナッツ屋さんに行くこととなった。



「あ~あッ… 部活ばっかりで静城が全然遊んでくんない。 愛美ちゃん達はどう? 私達なんかここ1ヶ月ぐらいろくに二人で遊べてないよ」


大好きなドーナッツを頬張りご機嫌なはずの芽生だが、その表情は冴えないものだった。芽生は彼氏に遊んで貰えない不満を全く隠す様子もなくため息交じりで愛美にそうぼやく。


「私達も似たようなもんだよ、会ってもほんの数時間程度だし、…大会近いからしょうがないよ」


芽生を宥めるかのように優しくそう言った愛美だが、愛美の心境はもう少し複雑だった。たとえ部活が暇になっても私と一緒に居る時間を優真が増やすのか?…多少は増えるだろうがさほど今と変わらないだろうということを愛美はわかっている。


自分と麗美さんの両方と向き合うと言った優真が、自分とばかり馴れ合うようなことはしないだろうと愛美は理解しているので、たとえ優真に自由な時間が増えたとしても、それが二人で会う時間に必ず結びつくことにはならないだろうと思うと、どこか複雑な気持ちになってしまう。


「そう言えばさ、来週うちの学校で大会前の最後の練習試合するって言ってたんだけど、愛美ちゃんも見に行く?」


「うん、レギュラーじゃないし試合にも出れるかどうかだから見に来なくていいって言ってたけど、絶体見に行くよ」


「そっか、…優真は入ったばっかだもんね。静城はレギュラーだし、俺が出るんだから絶対見に来いってうるさくって…。彼女としては見に行かなきゃしょうがないよね…」


「うふふ… そうだよ。芽生ちゃんは静城君の彼女なんだからしっかり応援してあげないと。…でも、私も見て見たいな…サッカーの試合を頑張っている優ちゃんの姿…」


「サッカーをしている優真の姿か… そう言えば愛美ちゃんは見たことないんだよね」


「練習している所は何度かちょっとだけ見に行ったんだけどね… やっぱり試合の時はもっと違うのかなって…」


「試合の時の優真は全然違うよ。あれが優真なの?…って感じで。いつもボーっとして大人しそうなのに試合になると平気で相手を押し倒すし… それにね…とにかく愛美ちゃんは必ず見た方がいいよ… ムフフ…」



 そう言って芽生は意味ありげな含み笑いを浮かべる。愛美はそれを見て少し訝しい表情となった。


「最近の優真ってさ、変わったでしょ? 髪の毛を短くしただけじゃなくて、表情が明るくなって元気になって…」


「確かにそれは思ってるよ。何か生き生きしてて… 何て言うか…その… 凄く良い感じになった」


そう言い終わると愛美は少し目線を下げて羞恥の色を浮かべた。

愛美も雰囲気の変わった優真に今まで以上の好感を覚えている。



「だったら試合をしているところを見たらもっと優真に惚れちゃうよ。その時の愛美ちゃんを見るのが楽しみ…」


「そ、そんなに変わっちゃうの? 試合の時って…」


「そうだよ~ …優真ってさ、ああ見えて中学のときも結構女子に人気があってね… よくグランドにも女の子が優真を見に来てたりしてたんだよ」


―――そうなんだ、全然知らなかった。そう言えば中学の時の優ちゃんを私は全く知らない。



 そういえば、… 中1までの優ちゃんは麗美さんが知っている。高校に入学してからは私が知っている。


…………でも中学2年生と3年生の間の2年間は麗美さんも私も二人とも優ちゃんのことを知らない。


その時の優ちゃんを知っているのは静城君と芽生ちゃんだけだ。

どうしてもその2年間を訊いてみたい…そう思った。 あの麗美さんでさえ知らない2年間、その間に優ちゃんがどう変わったのかは知る必要がある。特に麗美さんから離れた中学3年生の1年間はどうだったのか?…


その1年間の後に優ちゃんは私と出会い、私と惹かれ合った。


………でもそれは麗美さんへの思いも消えていなかったから…



私の口からは無意識のうちにこの言葉が出ていた。


「芽生ちゃん、お願い …中学の時の優ちゃんのこと、…詳しく教えてほしいな」


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