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新渡愛美の接近



 入学して1週間が経過した。


 クラス内の雰囲気もやや落ち着いたものになり、休み時間や昼食時に集まる仲の良いグループなども出来てきている。


 1週間経ったが俺はたまに近所の席の人と話すぐらいでこれといって特別仲良くなった人はいない。

取り敢えずこのクラスには中学からの親友と呼べる芽生がいるので、俺は別段困ることもない。

昼食も芽生とその彼氏である静城と俺でいつも一緒に食べている。


 流石に高校生活スタートからボッチと言う亜空間に入り込まずに済んで助かった。

失恋の痛手を引き摺りながらさらにボッチなんて… 思わず屋上からダイブしたくなってしまう。


ボッチ… それは人が迷い込むと二度と出られないと言う恐怖の亜空間、2.5次元の世界…


 だが、新渡の周囲は凄い。新渡の周りには休み時間や昼食時に多くの人が集まってくる。

彼女の美貌に惹かれた男子生徒だけではなく、女子生徒からも絶大な人気を得ている。

芽生もかなり可愛い女の子で中学でも人気があったが、新渡の人気は別次元のようだ。

あれだけの美貌で尚且つ明るくて楽しく話せるのだから人気者になるのも当然と言えば当然だな。

お陰でこのクラスだけ周囲のクラスとどこか違った雰囲気を持つようになっている。



 この一週間でクラスの雰囲気も変わったが、それ以上に俺の心境は大きく変化した。

毎日、否応なしに新渡の顔は目に入る… 当然麗美のことを思い出す。ただ、そのとき辛い気持ちになると同時にもう一度麗美に会いたいという気持ちが湧き上がってくる。


 麗美とは1年前に別れた。でも今でも大好きだ… いや、前よりもっと好きになっている。

そんな自分の気持ちを抑え込んで俺は無理矢理麗美を忘れようとしていた。

そして新渡の顔を見て麗美を忘れることなどできないと悟った。


…だったら麗美に会いに行けばいい…


 その言葉が俺の頭に思い浮かんだ。もう自分の心を偽るのはやめよう…。

俺の心には麗美への未練がある。伝えたかった言葉もある。それを封印しようとしても結局できなかった。だったら未練が残らないようにそれを行動に移し、本当の気持ちを麗美に伝えたい。


 たとえそれが悪い結果を招こうとも今の状況よりも後悔することは無い。

そう考え始めたとき、俺の心から陰鬱な気持ちは吹き飛び、久しぶりに軽やかな気分になれた。

そんな心境の変化もあって、今は新渡の顔を見ても心を痛めることは無い。



 そんなある日の朝、俺はいつもの様に登校し、教室に入り鞄を机に置いていったん席に着いた。

HRまでまだ時間もあるので、芽生とでも喋ろうかと思い芽生の姿を探すと誰かと楽しそうに話している。

まあ芽生にも当然新しい友達が出来るよな… 彼女は明るく元気なので昔から友達も多かったし…。


 そう思って人影でよく見えなかった芽生の喋り相手をよく見て見ると新渡だった。

俺は一瞬驚いたが、その時はそういうこともあると普通に感じて何も思わなかった。

暫くして芽生は新渡との話を終え、俺の近くにやってきた。


「いや~ 新渡さんって美人なだけじゃなくて喋っててもすっごく楽しい。ホントいい子だよ」


「そう言えば芽生もやけに楽しそうだったな」


「話が合うっていうか、話を盛り上げてくれるんだよね。これからは愛美ちゃん、芽生ちゃんだよ」


「そんなに仲良くなったの?」


「そりゃ~も~ね… 優真も話してみれば? 新渡さん、優真の事も聞いてたし」

どうして俺の話が出るんだろうか?


「新渡さんて芽生と接点あったっけ?」


「それがさー、今朝学校に来たらいきなり新渡さんから話しかけてくれたのよ。彼女、優しいね」


 何でいきなり芽生えと二人だけで仲良く喋っていたのか…

俺に関係がある? 考えすぎだな…。


 ただ、新渡が俺に尋ねたいことがあるのは知っている。それに最近新渡が俺のことをチラチラと見ていることも…。


 初めて会ったときに俺はどんな感じで新渡を見てたんだろう?

逆に俺の方が気になる。あれだけ新渡が気にするんだから尋常ではなかったことは分かるが、もしかしてかなりヤバい目つきで見ていたのかも…

それを新渡は不審に思って怖くなって聞きに来ている… ありうる。


 何か余計に新渡と話したくなくなってきた。かといって本当のことを言っても仕方ないし…

それにあまり芽生を気に入って新渡にとられるのも困る。

俺が本当にボッチになってしまう。


 その日の授業も始まり1限目、2限目と過ぎていくが、休み時間になると新渡の方から芽生に会いに行くのを見かけた。今まで新渡は休み時間も殆ど自分の席から動かなかったのに珍しい。

おかげで新渡目当てに集まる男子は行く宛を失いゾンビの様にその辺をうろうろとしている。



 4限目も終わり、これから昼食。昼食の弁当はいつも隣のクラスから静城がやって来て芽生と3人で俺の席付近で食べている。新渡の方は皆が集まって来て大きな塊での昼食…


 トイレに行こうと思って歩きはじめると芽生が何やら言ってきたが、早くトイレに行きたいので適当にはいはいと答えておいた。

トイレから帰ってくると俺の席付近に静城と芽生が座っているのだが… 何故かもう一人いる。

新渡が俺の隣の席に座っていた。俺が目を点にしていると、


「今日せっかく仲良くなったからお昼も一緒に食べようってことになってね」


さっき芽生が何やら言ってたのはこの事だったのか…


「新渡さん、何時もの人達と食べなくてもいいの?」


新渡目当ての人達を放っておいて大丈夫なのかと普通に思った。


「別に決まってるわけじゃないから大丈夫。私もいろんな人とお喋りしたいし」


 新渡はニコニコしながら楽しそうにそう言った。

芽生と意気投合したのならそうかもしれないが、俺的には非常に気不味い。

このままでは、新渡は俺にあの時の真相を聞いてくるに違いない。

まだ上手い返答を考え付いてないので今は聞かれたくない…。


「優真、お前はクラスに恵まれてるな。中学では芽生と一緒だったし、高校ではこんな綺麗な新渡さんと一緒になれてるし。俺なんか今はクラスでボッチだぞ、はっはっは…」


 相変わらず静城はそう言って楽しそうに笑っている。俺はこいつの笑ってない顔を見たことが殆どない。


静城、そんなに明るいボッチはこの世にいねーよ。お前は真のボッチを冒涜してるぞ…。


 さて、さて …… どうしよう? なんで俺の隣に新渡がいるの?ってな感じだな。

取り敢えず弁当をゆっくり食べて… 静城と二人でまったり語り合って…

出来るだけ時間を無駄に潰そうと思っていたが、世の中そんなに甘くない。


「相馬君と芽生ちゃんは付き合ってるんだよね?」


「そうなんだよ~ 芽生は俺の愛する大切な彼女なんだ~」


「いいな~ 私、彼氏とかできたことないし…」


「うそ! 愛美ちゃんって付き合ったことないの? こんなに美人なのに…」


「なかなかいい人と巡り合えなくてね… えへへ」


「だったらここにちょうどいい格安物件があるよ。今なら無料で御進呈OK」


芽生、誰に向かって指さしてんだよ… 余計なこと言わずにさっさと飯を食え!

冗談で言ってるつもりか知らないが、俺には冗談にならねーんだよ…


「そんなこと言ったら関都君に失礼じゃない… ね、関都君」

「芽生はいつもこうだから、気にしないで…」


だからこんな話をして、しかも俺の名前を出すんじゃない。新渡の横にいるだけでも結構気不味いのに…


「でも優真もそろそろ新しい彼女を見つけないと… 終わった恋は早く忘れてね」


芽生が真剣な表情で俺に言ってくる… 悪気はないんだろうがタイミングは最悪だ。

俺は終わった恋を復活させようとしてる最中だよ!


「関都君って彼女いたんだ…」


 新渡が含みのある表情でポツリと呟いた。新渡が何を思っているのかは分からないが、何かしら俺に関係することがあることだけはなんとなく分かる。


「でも今はいないからね。愛美ちゃんが良かったらいつでも貰ってやってね… へへへ」


芽生の言葉を聞いて新渡はクスリと笑って何も答えなかったが、俺の方をチラリと見て俺の様子を伺っていた。



 入学当初だったらこんな状況で俺がここにいることは不可能だったと思うが今は違う。

俺はもう新渡の顔を見ても苦しくなることはない。むしろ離れたところから新渡の顔を見ていたいときもある。


 初めて新渡を見てから1週間、毎日いろんなことを考えたがようやく一つだけ答えが出てきた。

もう一度麗美に会いに行こう… やっぱり俺は麗美のことを忘れられない。

結果を考えずに自分の気持ちに正直に行動する… そうすればたとえ悪い結果が出たとしてもそれを受け入れられる。


 自分の思いを全て麗美に伝えたほうが結果がどうであれ変なわだかまりもなくなり先に進めると思う。


 そんなことを一人考えてボヤっとしている間に昼の休憩時間は終了した。


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