「ミルクティーをおかわり」
男なら、誰かのために、強くなれ
(ああ……思い出しちゃったよ、畜生。心が折れるまでボコボコにされたのはいつぶりかなあ……)
悪夢のアミ公訓練の光景がフラッシュバックし、俺の顔には乾いた笑みが浮かぶ。
最初の内は俺の攻撃が殆ど通用せず、逆にアミ公の攻撃は一発一発が致命傷レベルだった。曰くその強さでも精々50%程度の再現度らしく俺の精神は瞬く間にズタボロにされた。たった30秒の攻撃を凌げるようになるまで何時間かかっただろう。おっぱいが無ければ本当に死んでいた。
「でも、倒さないとみんな死ぬんだよね?」
これから俺が戦う相手とはそんな化け物だ。
「え、ええと……」
フリスさんは思わず俯いてスカートをギュッと掴む。うーん、可愛いな。やっぱりアミ公が変身した偽物よりも本物のフリスさんだよ。顔と身体を同じでも中身が違うだけでここまでの差が出るとは。
『……』
おう、アミ公。もう少し待ってね? 今からちゃんとカッコイイ台詞言うから、俺を軽蔑するのはその後にしてくれ。
「じゃあ、やるしかねーよな(ずずず……)」
「で、でもっ! でもタクロウさんは……!!」
「何とかなるさ……あ、このミルクティーうめえ。ありがとー、フリスさん」
「タクロウさんは……!!」
「だから、少しだけでもいいから……応援してくれると嬉しいな」
「えっ?」
「俺は君のタクローくんじゃないから、応援するのは嫌かもしれないけどさ。君に応援されると……少しだけ強くなれるんだ」
俺はフリスさんに向かってこんな情けない事を言ってしまった。
はい、正直に言うと今……めっちゃくちゃ不安でございます……
50%くらいしか力を再現出来ていないアミ公との戦闘訓練でも俺は殆ど手も足も出なかった。しかもアミ公が再現できたのは〈世誕〉の身体能力と武器だけ。本物は〈終末〉よりも強力な特殊能力まで備えているとか何とか。勝てる気がしない……
でも不安そうなフリスさんに、もうタクローくんの体でビビってる姿は見せられない。
『……貴方に対する評価を改定します』
どーも、存分に軽蔑してくれていいよ! でも別に言わなくてもいいからね!? 聞きたくないから!
「……」
「……スンマセン。気持ち悪かったよね、ハイ。スンマセン……今の、聞かなかったことにして」
ガバァ!
「ふぉおっ!?」
すると突然フリスさんが俺に抱きついてきた!
精神状態:『@@』→『注意』→『平常』
俺は熱い紅茶の入ったティーカップを床に落とし、美味しかったフリスさん特製ミルクティーは見るも無残な床の染みになった……。
「え、ええと……フリスさん?」
「……負けないで」
「……」
「……負けないで、タクロウさん!」
「……うん」
「……絶対に、負けないで……戻ってきて……!!」
「負けないさ、絶対に」
抱きついたまま震えるフリスさんに俺はそっと触れようとしたが、指先が触れる寸前で止めた。ああ、畜生。本当に、この世界に来てから辛いことばっかりだ。
「だから、後でまた紅茶を淹れてくれるかな?」
でも約束は守らなきゃ……元の体に戻るまでは、俺がこの世界を守る。それがフリスさんからコバヤシ・タクローを奪った俺にできるたった一つの償いなんだから。
「……ふふふ」
「……ん?」
「タクロウさん、少し無理してますね」
「……バレた?」
「鼓動が凄く伝わってきますから……」
頑張ってカッコつけたけどバレバレだったようだ。だってそりゃー……ね? ドキドキするよ。ドキドキしなかったらもう人間卒業だと思うよ。いやもうとっくに肉体は人間卒業してるけどさ!
だってフリスさんの柔らかい おっぱい がめっちゃ当たってるんだもの!!
精神状態:『平常』→『絶好調』……絶好調。心拍数が大幅に増加。大変な興奮状態。
「怖いなら、言って下さい……。こんなに……こんなに鼓動が凄いのに」
怖くないです。これはね、心臓が大喜びしているんです。
「怖くないよ」
「……そういうところ、あの人と同じですね」
「どういうところかな?」
「言葉と心が別々になっちゃうところ……本当に……同じ」
むしろ未だかつて無いくらいに正直です。貴女のおっぱいのお蔭で恐怖心はとっくに霧散しました。
「でも、今は言ってくれてもいいじゃないですか……私は……私は」
「怖くないよ、君のお蔭でね」
「……ふふふ」
「……ははは」
その代わり今の僕は申し訳ない気持ちで一杯です。
彼女は多分、今の俺は精一杯強がりをしていると思ってるんだろう……でも違うの。これはね、強がりじゃないの。マジで強くなってるの。もう負ける気がしないわ、絶対に負けられねえわ。今日の相手が〈終末〉よりもヤバい奴だろうがもう関係ない。
この俺が、美少女のおっぱいに勝るものなど無いことを教えてやる!!
「それじゃ……おかわり頼むよ」
「はい、タクロウさん」
「勝つよ、俺は。絶対に勝つ……だから、安心して待っててくれ」
「……はいっ!」
フリスさんは本当に素敵な笑顔を見せてくれた後、嬉しそうに紅茶のおかわりを用意してくれた。
『……貴方に対する評価を改定します。評価『C-』→『B-』。知り合い未満から おっぱい星人 に』
やめろぉ! それだけはやめろぉ!! ふざけんなよ、何だそのあだ名は!? お前、どこまで俺を馬鹿にするつもりだぁ!!
『問題ありません。今日の戦闘も貴方は勝利出来ると私は確信しています』
大問題だよ! 大体、俺はお前にも一回しか勝てなかったんだぞ!? 再現率低めの仮想敵にも禄に勝てないのに本物が倒せるわけ……
『貴方は私に一度、完全に勝利しました。かつてない進歩です。今まで〈仮想世誕形態〉の私にコバヤシ・タクローが完全勝利した事は一度も無かったのですから』
アミ公はハッキリと言った。その声はどこか誇らしげで、初めて彼女がコバヤシ・タクローではなく俺を評価しているような気がした。
『そして〈世誕〉と戦うのは貴方だけではありません。今、アメリカに集った終末対抗兵器が一団となって戦います。彼らは皆一人ひとりが世界最強の戦力です。全員が今の貴方に迫る力を持っていると判断して良いでしょう……これでも敗北すると思いますか?』
「……」
『貴方に敗北は許されていません。必ず勝利し、帰還してください……コバヤシ・タクロウ』
アミ公の言葉で胸が高鳴るのを感じた。自然と表情に笑顔が浮かび、俺の口から無意識の内にこんな言葉が出てきた。
「任せろ、俺は絶対に勝って戻ってきてやる! そんで勝ったら思う存分、乳揉ませろよ!!」
「……はい! 信じて待ってます!」
「あっ、今のはその……」
「ふふふっ」
「ち、違うからね? 今のはっ、今のはねっ!?」
「帰ってきたら……好きなだけ揉んでいいですよ? タクロウさん」
俺の言葉を本気にしたフリスさんはそっと自分の胸を撫でて物欲しそうに言った。
「ミルクティーをおかわり」-終-
\KOBAYASHI/旦\Frith/




