「知らない幼馴染」
身に覚えなくても、彼女がヒロイン。
【……】
【……】
【……コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ。状態異常『混乱』から回復】
精神状態:『危険』→『要注意』。精神が危険値から要注意に回復。精神状態に異常アリ。
【……一時的な思考停止状態から回復。精神活動再開】
「……あ、おはようございます」
停止していた俺の思考は再び動き出す。
しかし短時間で連続して思考停止するとか今までにない経験だよ。やべーよ、今日の小林君やべーよ。
「どうかしましたか? 顔色が悪いですよ、タクロー」
「あー、えーと」
えーと、聞き間違いだよね!? 今、顔も知らない女の子が俺を気安く呼び捨てにしやがったよ!?
「おはようございます」
「……ふふ、おはようございます。また寝坊しかけちゃったんですか?」
「うーん、そうでもないです。ちょっと怖い夢を見たけどフツーに起き……」
【……警戒】
!? 何だ、急に警戒の文字が……!?
【……警告。コバヤシ・タクローの記憶領域に存在しない未知の知性体を確認。警戒レベル3……】
【……接触対象を〈優先個体情報特定対象〉と認識……〈探求者の眼〉を作動……】
見知らぬ少女と目を合わせた瞬間、俺の視界に意味深な黄色い文字が浮かび、何だか目が一瞬だけピカッと光った気がした!!
【接触対象のサーチング開始……完了】
何だ!? サーチング!? WHAT!?
【対象の個体情報簡易出力開始……】
個人……いや、個体情報簡易出力!? 何それ、一体僕の瞳の中で何が起こっているの!!?
【……完了】
個体名:フリス・クニークルス
性別:女性
種族:人類種A型
年齢:16歳
対象との関係:幼馴染。
身長:155㎝
体重:48㎏
スリーサイズ:B88 W54 H 82......
危険度:『G』……危険ナシ。対象のコバヤシ・タクローに対する害意は皆無。
【……対象から〈調整者認証コード〉を確認……登録名称……】
はて、幼馴染? 何のことかな。
俺に幼馴染など居ないのだが……てか何だこの機能は!? スリーサイズ……はわわわわ、スリーサイズ!? ちょっと、待って。思春期真っ盛りの男子高校生にそんなの教えられたら……ッ!!
【……コバヤシ・タクローと接触対象との関係性に矛盾点を確認。記憶領域からの情報検索を開始……】
検索中……検索中……検索……
検索中……検索中……検索……
検索結果:該当ナシ。
【……問題発生、問題発生。コバヤシ・タクローの記憶領域に存在する情報と対象との関係性に大幅な齟齬が発生。記憶領域に存在する情報とxxxxの歴史的経緯に破滅的な相違点が発生。重大な問題発生。至急、記憶処置を】
な、何だ!? 何か視界に大量の〈問題発生〉とかいう文字が! 何!? 何が起きてるの!? 誰か説明────……
>パキィン<
【……】
【……ァ✛✛✛級>あ、tri,<処置によって問題解決。異常ナシ。問題ナシ】
「あ、あの……タクロー」
「……」
「大丈夫ですか?」
「はっ!?」
【……一時的な、✛✛✛✛状態から回復。精神活動再開】
「本当に、大丈夫ですか……?」
>大丈夫じゃないです!<
急に視界がおかしくなったと思ったらパキンっていう何かが割れるような音が聞こえて意識が……!
一体、俺に何が起きてるの!? もう僕の理解能力限界突破してるんだけど!?
「え、えーと……んーと……」
「た、タクロー?」
「うおっ!?」
……ちょっと! ちょっと君、近い! 顔近い! 待って! 俺、妹以外の女の子への耐性がまだ不十分で……!!
「か、顔……顔が近い……」
「えっ」
「ちょっと離れて! お願い! ちょっとだけでいいから!!」
「えっ、あっ……はい」
俺は息のかかる距離まで大接近していた女の子と少し距離を取る。
「……」
彼女と離れて改めて姿を確認してみたけど、この子……めっちゃ可愛い! めっちゃくちゃ可愛い!!
【……報告。コバヤシ・タクローのステータスに大幅な変化アリ】
精神状態:『要注意』→『不良』。精神が要注意から不調まで回復。安定剤の使用を撤回。
【……報告】
何だこのツインテール美少女、ありえねえだろ。
人類から生まれ出るわけねえだろ、神様本気出しすぎだろ。
それにもの凄くいい匂いがする。香水の匂いじゃない。はわわ、でもいい匂いがするよ!!
「……?」
「……ふむ」
さらにやや小柄な体格に似合わない 88㎝ のナイスバディ! コンパクトグラマー……いや、これはもう文句なしで巨乳!
ツインテール属性の巨乳外国人美少女です!!
「……あの、タクロー。そろそろ学校に行かないと……」
「……」
「ごめんねー、フリスちゃん。ちょっと今日の兄貴おかしいのよー」
「えっ!?」
「何か変な夢見ちゃったみたいでさー……あれ? どうしたの兄貴??」
ほう、妹よ。お前はこの女の子と知り合いか。
まるで小さい頃からのお知り合いみたいに気軽に声かけてますね。なるほどなるほど……この【対象との関係:幼馴染】はマジ情報らしいな。
でもな、これだけは言っておこう。
俺は彼女の事を知らない。というか、俺にこんな可愛い幼馴染が居た記憶なんてない。
「はっはっはっ」
「うわ、急に笑いだした」
「……あの、本当に大丈夫ですか? タクロー」
「明衣子」
「何よ」
「……この人、誰?」
この発言の直後、その場の空気が一瞬にして凍りついた……。
「……え?」
「誰?」
本当に誰なんですかね、知らないんですよ。
本当なんですよ。だから妹よ、そんな目で僕を見るんじゃない。お兄ちゃんをゴミを見るような目で見るんじゃない!!
「あ、あの……タクロー?」
「はい、拓郎です」
「あの、今の言葉は……」
「君は誰かな?」
幼馴染の顔がみるみる青ざめていく。あれ、何か悪いこと……言ったね。うん。
そりゃ、幼馴染からいきなり 君は誰かな とか言われたら困るよね。俺でも傷つくと思うよ。
でも俺は本当に君の事を知らない。
「あ……あの……タクロー。私何か貴方に悪いことを……」
「え、いや。そういうことじゃ」
トントン……
ん? 誰か俺の肩を叩────……
「タクロオオオオオオオ────!!!」
「ぐぼぁ!!?」
振り向いた俺の顔面にロボ親父の唸る鉄拳が炸裂した!!
「知らない幼馴染」-終-
KOBAYASHI \Frith/