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「喧騒晩餐会」

運命を感じたら即断即決即行動が基本。覚えておくと良い。

「うめぇえええー! ステーキうめぇえええー!!(もっちゃもっちゃ)」


 A棟1階にある大広間に叫びながら駆け込んだ俺は、驚く周囲の目線など知らんとばかりに大きなテーブルに並べられた料理を手当たり次第に皿に乗せて食らいついた。



 精神力:『;;』→『><』……判定不能。測定不能。未知の精神状態。



「ステーキうめぇえええー!(もっちゃもっちゃ)」

「ええと、タクロウさん。もう少し落ち着いて食べてください。皆さんが驚いてしまいます……」


 落ち着けるかァァァー!


 もう勢いで誤魔化さないと耐えられないよこの空気! 見てよ、あの人達の眼差し……完全に『珍獣』だか『UMA』に向けるそれだよ!!


『咀嚼回数が不十分です。摂取した食物が十分に消化されない可能性が』


 うるせぇぇー! そんなもん気にしてられるかぁ! とにかく今は食うんだよ、アミ公ゥー!!


「フリスさんも、もっとお肉を食べなさい!」

「え、ええと……私はお魚の方が好みで」

「じゃあ、もっとお魚を食べなさい! 沢山食べないといい女になれないよ!!」

「は、はいっ! じゃあ沢山食べます……!!」


 飯、食わずにはいられないっ!


 もう既に大恥かいてるんだ、今更気を使う必要はない! こうなれば美味い飯をたらふく食べて、明衣子や親父への自慢話作りだぁ!!


「……まるで豚の食事だな」


 見覚えのない黒スーツ姿のジェントルメンが俺に動物を見るような視線を向けながら何か言ってきた。ほう、貴様……黒髪高身長の イケメン だな。


【……コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ。隠された特殊技能が発現】



 精神状態:『><』→『A』。未知の精神状態から良好に変化。軽い興奮状態。特定対象への対抗心及び攻撃性が増加。

 特殊技能:『口巧者』



 よろしい、ならば戦争だ。


「そうか、アンタの国の豚は喋るんだな。凄いね! 僕の国には人語を解する豚を食べるなんて酷い真似はできないよ!!(もぐもぐもぐもぐ)」

「……」

「タクロウさん! それはちょっと……」

「ああ、申し訳ない。ちょっと言い過ぎたね……何せ今の僕は記憶を失っておりますので。()()()()()()()()()()()()()()()()()()も思い出せなくて……」

「……ッ」


 前のタクローくんならまず間違いなく謝っただろう。


 だが、この小林……容赦せんっ! 傷心中の少年に向かって豚なんてほざく輩にはこれくらい言って当然だ。


『問題ありません』


 ああ、はいはい! わかってますよ! 問題アリですよね! 相手は外国の……ん?


『問題ありません』


 はっ! 本当にアミ公の基準はよくわからんな!


「言われたな、哥哥(兄さん)。開き直った日本鬼子は手強いぞ? はっはっ」


 すると例のイケメンの背後からクーロンさんが笑いながら現れた。


「おっす、オラ小林! はじめまして!!」


 色々と振り切っていた俺は本気でふざけた調子で声を張り上げながら自己紹介した。


『その返事の仕方は問題です。訂正してください』


 本当にお前の基準がわからないよ! ええい、もういい! もうお前は黙ってろ!


『……』

你好(はじめまして)、小林くん。随分とまぁ、立派な食べっぷりじゃないか」

「そりゃー、もう気を使う理由がないからね! 親切なイギリスのお兄さんが僕の代わりに色々とゲロってくれましたからね!! いやー、本当の自分を出せるって幸せだわー!!!」

「ふっ……はっはっ! そうだな、あいつは嫌なヤツだからな!! 俺も嫌いだ!!!」


 何故か知らないが、俺の発言にクーロンさんは大笑いする。


「あ、あわ……」


 フリスさんは何故か盛り上がる俺とクーロンさんの顔を交互に見ながら、あわあわと困った顔をする。周りの人はもっと困った顔をする。


「ここまで喋っといてアレだが謝っておく! ごめんね、俺は君のことなんにも知らないから!!」

「はっはっ、知ってるよ。だってお前は俺を『九龍さん』と呼んだろ? コバヤシは俺を九龍と呼び捨てにするんだ……さん付けなんて初対面の時からしなかったさ」


 クーロンさんは笑顔でそう言った。


 ……という事は、この人は初対面の時にもう気付いていたのか? そういえば俺がさん付けで呼んだ時に怪訝そうな顔をしたな。


「じゃあ、俺は君の知ってるコバヤシよりも礼儀正しいんだな!」

「……くくっ!」


 俺が真顔で発した言葉に、思わずクーロンさんは爆笑した。


「はっはっ……はっはっはっは! はっ、その通りだ。お前はあいつより礼儀正しい!!」

「そうかぁ! じゃあ俺は」

「あーもー! ちょっと何で二人だけで盛り上がってるの!? あたしも混ぜなーっ!!」


 楽しそうに会話する俺たちの間を遮り、特大ハンバーガーを右手に持ったキャサリンさんが参戦する。


「ハーイ、フリス! このコバヤシとの関係はどう? 記憶喪失って聞いたわよー!」

「え、ええと……それは」

「キャサリンさーん! いきなり何てこと聞くの!?」

「ハーイ、コバヤシ! ナイストゥーミーチュー!! あたしのこと忘れちゃってるんだってねー!?」

「……ハイ! 全然覚えてません!!」


 正直に言われるとは思っていなかったのか、キャサリンさんは大きく素敵な目を更に大きく見開いてガーンとでも言いたそうな表情になった!


「オーマイガッ! そこはちょっとぐらい気を利かせてよぉー!!」

「えっ!? あっ、ごめん! つい……」

「ブレーイクマーイハァートッ! いくらあたしでも傷つく時は傷つくのよー!?」

「今更だぞ、キャサリン。こいつの顔を見ろ、()()()のコバヤシと同じ顔だ」


 クーロンさんがそう言うと、キャサリンさんは一瞬キョトンとした顔になる。


「……くすっ」


 そしてクーロンさんと俺の顔を交互に見た後、何やら意味深な笑みを浮かべて俺に問いかける。


「うふふふっ、そうね。このコバヤシは、初対面だもんね……うんうん」

「な、何ですか」

「……じゃあ、あたしとサーシャのこと知らないのにあたしたちの喧嘩を止めてくれたんだ?」


 キャサリンさんは俺に思い切り顔を近づけ、上目遣いで言った。オォウ、ジーザス! やっぱりこの子も素敵だな!!


『彼女を選びますか?』


 いや、それはちょっとね!? 俺にはフリスさ……って駄目だ! 俺には沙都子先生がいるから!!


「……そりゃ、男なら止めるでしょ? 女の子同士の喧嘩なんて誰が見たいんですか」

「……」


 キャサリンさんが目を細めながらジロジロと見てくるので、元々感情が振り切っていた上に更に吹っ切れた俺は


「次に喧嘩しようとしたら、頭ぶっ叩いてでも止めますから安心して下さい! まぁ、もう喧嘩する理由ないけどねー……だって俺、コバヤシくんじゃないしぃいー!!」


 くわっ! とした迫真の表情で最低の開き直りを見せた。


『……』


 当然、アミ公は絶句。フリスさんも思わず口を抑える。ごめんね? タクローくんはこんな台詞言わないよね……でももういいよね?


 俺はもうお前のフリをやめるぞぉぉー! タクロォオオーッ!!


「……フフフッ」

「そうだな、誰も見たくないな」

「喧嘩……? お二人に何か」

「グーッド! ベェーリィーグーッド! ナイスな答えよ、ニュー・コバヤシ!!」

「ふおおっ!?」


 そしてキャロラインさんはいきなり俺に飛びついてきた! ぎゃぁああ! 乳が、乳がぁあああー!!



 精神状態:『A』→『*><*』。良好から未知の精神状態に変化。測定不能。判定不能。興奮状態。心拍数の大幅な上昇を確認。



「ぶぎゃああああああああー!」

「あーん! 忘れられたのは辛いけどー、やっぱりあたしコバヤシが好きー!!」

「ああーっ! キャサリンさん、駄目ですー!!」


 ムギューっ!


「やめてやれ、キャサリン。その技は人が死ぬ」


 キャサリンさんの豊かなボインが俺の顔面をホールドする!


 ふおおおっ、デカイ! 柔らかい! あったかい! 駄目、コレは駄目! 小林くんの大事な何かが危ない!!


「駄目ぇーっ! その人から離れてぇーっ!!」


 むにゅっ


 俺に抱きつくキャサリンさんを退かせようとフリスさんも抱きついてきた!


【……コバヤシ・タクローのステータスに大幅な変化アリ】


 びゃあああ! フリスさんのたわわがぁああー! フリスさんのたわわが俺の右半身を蹂躙するぅうー!!


「あばぁあああ────っ!!」


 キャサリンさんは俺に思いっ切り抱きついて離れない。そしてフリスさんもそんな彼女を引き剥がそうと必死になって身体を押し付けてくる!


「あはははっ! ハーイ! ニューコバヤーシ! あたしが未来のフィアンセのキャサリンよ! キャシーって呼んで!!」


 ムギュウウッ


「い、いい加減に離れてください! タクロウさんが困ってますー!!」


 むにゅむにゅっ


 ヤバい、これは死ぬ! おっぱいに殺されるぅううー!!


「……はっはっ、見ろよアレ」

「あの感じ……まさにコバヤシだね」

「もしかして、忘れたっていうのはレックスの嘘なんじゃない? イギリス人ってそういう嘘吐きそうだしー」


 殺意全開のおっぱいサンドイッチで死にかけてる俺の周囲から皆のヒソヒソ話が聞こえてくる。いや、本当に記憶無いんですよ。記憶無いというか別人なんですよ、ボインボイン。たゆんたゆん。



 精神力:『*><*』→『≧≦』→『^^』→『A+』。未知の精神状態から絶好調に変化。極度の興奮状態。心拍数が異常増加。特定対象への興味及び欲求が増加。



「……はっ! やるじゃねえか、コバヤシ! 改めて認めてやるよ、お前の魅力を!!」


 感心してねーで助けろや! 死にかけてんだよ、俺はぁ!!


「ははは、はっはっは! ははははははっ!!」


 死にかけている俺を見てクーロンさんは爆笑している! おい、助けろ! 目の前で人が死にかけてんだぞ!?


『……意識レベルが低下。酸素吸入量が不十分です。命に関わる可能性があります。早急に離脱してください』


 あ、やばい。意識が……! ここは何とか、キャサリンさんだけでも引き剥がさないと……ぐおおおおっ!!


「ぶるぁああっはぁ!」


 俺は根性でキャサリンさんのボインから顔をボインっと引っこ抜く。うめぇええー! 酸素うめぇええー!


「ハーイ! フィアンセのハグはどうかしら? これから色々とあたしのこと教えてあげるからね!!」


 だがキャサリンさんの可愛らしさに全振りしたラブリースマイルを間近で見てしまい、俺は再び呼吸が止まった!!


「キャサリンさん! いい加減に離れてください!!」

「ノーウ!」

「フィアンセって……気が早すぎんだろ! っていうかタクローくんから気移りすんの早すぎない!?」

「はっはっはっ! 頑張れ、小林。日米友好の鍵はお前に託された!!」

「ふざけんな、クーロン! てか笑ってないで助けろ!!」

「愛に時間なんて関係ないのよーぅ! アメリカ人はチャンスと思ったら即行動が基本ーっ!!」

「ぎゃぁあああああーっ!!」

「駄目ぇぇえーっ!!!」


 あばぁあああーっ! またおっぱいが襲ってくるうううー! 助けて、誰か助けてぇー!!


「でも……何だろうね」

「何でしょうね……」

「ふふふ、楽しそうですわねっ!」

「だなぁ!」

「あははっ、私も混ぜてもらおっとー!!」

「ていうか九龍のやつ何で助けねえんだ!? あいつ腹抱えて大笑いしてるぞ!!」

「やだぁ、珍しい! あの九龍が!!」

「あははははっ!」


 何か死にかけてる俺の周囲に、いつの間にか世界中のオーバー・ピースが続々と集まってきていた。



「喧騒晩餐会」-終-


>Frith<\Catherine/KOBAYASHI/\九龍/

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