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「ロスト・チャイルド」

意地があんだよ、男の子にはな!

「ふふっ、冗談です」


 生意気に揺れるたわわを両手で抑え、フリスさんは挑発的に笑った。


「……そういえばさ。フリスさん……その」

「はい、何でしょうか」

「あの時……その、初めてメンテナンスしてくれた時……覚えてるかい?」

「はい、覚えていますよ」

「俺が……」

「……『貴方がタクローで居てくれるなら、私は貴方のモノです』と言いました」

「……俺がタクローじゃないと知ってて、あんな事言ったんだね」


 フリスさんは少し困ったような表情を見せる。でもすぐに照れくさそうな顔に変わって……


「……はい。でも、あの時はまだ……私を忘れてるだけだと、心の何処かで思っていましたから」

「……そっか。じゃあ今は……もう」

「それでも、私は貴方のパートナーです」


 そんな殺し文句を言い出しました。


「えっ?」

「貴方は確かに今までのタクローとは違います。でも……でも、きっとあの頃に出会ったのが貴方だったとしても……私に声をかけてくれたと思うから。私を助けてくれたと思うから……」

「……」

「そ、それに……私が調整(メンテナンス)をしなければ貴方の身体は大変なことになります……! そ、その、その為にも貴方とは出来るだけ親密な関係を築いたほうが……!!」

「た、確かにそうだけど……! で、でもフリスさん……」

「わ、私はっ」

「俺はっ!」

「……私では、貴方のパートナーにはなれませんか?」


 >K.O<


 本当にさー、この娘はさー……人間じゃねぇ! この娘こそが>突然変異<だよ!! 人間からこんな大天使が産まれるわけねぇよ!!!


【……報告。コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ】

「も、もし……このままタクローが貴方のままでも……」

「……」

「私は、私は貴方の……ッ!」


 本当に……彼女は何処までも天使だよ。


 本当は俺がタクローじゃないとわかって泣き出したいくらい傷ついている筈なのに。それなのに本気で俺の事を心配して、俺を想ってくれている。


 いや、俺の事を好きになろうとしてくれている。


「じゃあ、俺が元のタクローに戻ったら俺のことは忘れるんだね?」


 ……そんな大天使に向かって、俺はこんな事を口走った。


『……今の発言は撤回するべきです』


 うん、そうだね。この場に親父や明衣子がいたら間違いなく殺されてたね。でもね……そんな俺でも、意地ってものはあるんだよ。


「……酷いです、タクロウさん」

「ごめんね、フリスさん。でも、こうでも言わなきゃ……諦めが付かねえんだよ」

「……」

「だってさ、この体はタクローくんの物なんだろ? 君のパートナーは……あいつなんだよ!!」

「……ッ」

「そのくらい言わなきゃさぁ……! 俺、君がッ……君のことが……ッ!!」


 好きになっちまうだろうが!!


「だから、頼むよ。君は、君のパートナーのコバヤシ・タクローが戻ってくるように祈ってくれ」

「……タクロウさん」

「……俺も、元に戻れたら君のことを忘れるからさ」


 でもな、駄目なんだよ! それだけは駄目だ! フリスさんのパートナーは、彼女が本当に好きなのはタクローなんだ! 俺は小林拓郎だ……俺には俺の帰るべき場所があるんだよ!!


『……』


 ……おう、アミ公。今は空気を呼んで黙っとけよ! 頼むよ!?


「ふふふ……わかりました。私も貴方が、元の身体に戻れるように……」

「……それまでは、俺がこの世界のみんなを守るよ。俺がタクローの代わりに戦う」

「あの人が戻ってくるように……お祈りします」


 これがこの天国みたいな地獄に、今の俺が出来る最後の悪足掻きなんだから。


「……それでも、()()()の時が来たら……」

「……」

「……許してくださいね?」


 だがしかし、フリスさんが涙目になりながら発した言葉に俺は撃沈した。


 あーもー、可愛いなぁー! 羨ましいなぁー! ホンッッットーにコバヤシ・タクローって奴はよぉお────!!


「もし、そうなったら……」


 でもなぁー! 俺にもお前に負けないくらいに可愛い妹が居るんだよなぁ! おっぱいが大きくて優しい沙都子先生が待ってるんだよなぁ! だから我慢してやんよぉ……


 お前の天使(フリスさん)には手を出さないでいてやるよぉおお────っ!!


「……よろしく、お願いします」


 >って、違ぁぁぁぁぁーう!<


 何を言っているんだ小林ィィー!? 違うだろ、そこは違うだろぉ! そこはクールにお断りするところだるるぉ!?


『……フフッ』


 !? 笑った!? ちょっとアミ公様、今笑ったね!? 笑いやがったね!?


『幻聴です。気にしないでください』


 嘘つけや!!


「で、でも……精一杯の抵抗はさせてもらう。俺には大切な人がいるからね……」

「ふふふ、わかってますよ……」


 ……盛大に手遅れな感じもするが、俺は最後の抵抗を試みる。そんな甘い事は起こるまい。フリスさんにもタクローの幼馴染であるという 女の意地 があるはずだ。


 日本の守護神タクローくんの幼馴染がそんなにチョロい筈がない。


「私にも、大切な人が居ますから……」


 ご飯をあーんしてくれたり、膝枕してくれたり、ギュッとしてくれたり、白ビキニ姿でうふふな事してくれるけど……決して俺個人に特別な感情が芽生えてる訳ではないだろう。


 そうに決まっている。


「……さて、何か食べようかな。ここまで全力疾走してきたから、お腹空いてきたよ」

「A棟の大広間で食事会が開かれています。そこで晩御飯にしましょう?」

「当然……みんな、そこにいるんだよね?」

「……はい。でも、大丈夫」


 皆の事を思い出して不安になる俺の手を、フリスさんはギュッと握ってくれた。


「……あっ」

「私が、決して貴方を一人にはしません」



 >>FATAL K.O<<



 ああ、駄目だ。墜ちた、完全に小林くん墜ちちゃったわ。はっはっ、別世界の(タクロー)に惚れてる幼馴染に惚れるなんて昼ドラも真っ青だよ! 自分で言ってて気持ち悪いわ!! 拒否反応出るわ!!!


 でもごめんなさい、本気で好きになりそう……


『……』


 おい、ちょっと! アミ公が後ろを向いて震えてるんだけど!? 貴様、今笑っているな!?


『……私に、そのような機能は搭載されていません』


 くそぅ、くそう! 凄いムカつく! 出来ることなら後ろから本気で乳揉みしだいて泣かしてやりてえ! 俺があそこまで追い詰められたのも半分くらいはコイツのせいなのに!!


「……と、ところでサトコさんは何処行ってるんだろ?」


 ……だが耐えろ! アミ公も悪いが残り半分は俺が悪い! コバヤシ・タクローを理解しようともしなかった俺にも責任がある! 今日はフリスさんに免じて、お互いにどうしようもないポンコツだったという事で水に流してやるよ!!


「あっ……そういえば……」

「ま、まずはサトコさんを探しに……」


 \デーデデッデーデーデー!/


「!?」


 \デーデデッデーデーデー!!/


「何の音!?」

「アメリカ支部の呼び出しコールですね……」


 あ、よく聞いたらこのメロディはアメリカ国歌じゃねえか! うわぁ、キツイ! こんなの鳴らされた後で呼び出されるとか嫌がらせにも程がある!!


 \デデデーデデーデー!! デデデッデンデーデーデッ/


『こちら、終末対策局アメリカ支部情報部です。アメリカ支部の全職員に緊急のお報せです』

「え、緊急?」

「何かあったんでしょうか……」

『我がアメリカ支部施設内にて迷子が発生しました』


 >ファァアアアアアアアーッ!?<


『迷子になったのは親愛なる日本の終末対抗兵器(OVER PEACE)であるKOBAYASHIです。施設内の職員で彼の姿を見たという方がおられましたら、大至急通信部までご連絡下さい』

「……」

『もしこのアナウンスを日本のKOBAYASHII様が聞いておられましたら、今すぐA棟1階の大広間までお越しください。繰り返します……』

「……ふふふっ」

「笑いごとじゃないよ? どうすんだこれ……もう日本さん全世界の笑いものだよ??」

「……そうですね、ふふふ。どうしましょうか」

「……ははっ」

「ふふふふっ」


 ああ、もうどうでもいいや。


【……報告、コバヤシ・タクローのステータスに大幅な変化アリ】


 日本のお偉いさんは顔真っ赤にするかもしれないけど……しょうがないね。んんー、明日の国際ニュースが楽しみですな! 天皇様は笑って許してくれるかもしれないけどなぁー!!


『……確かに、明星天皇は貴方がどんな失敗をしても許すでしょう。彼女はそういうお方です』


 アミ公は青い光の粒になって俺の中に戻る。コイツと天皇様がどのような関係なのか気になるところだが、どうせ聞いても答えてくれないだろう。肝心なことは絶対に教えてくれないのがアミ公クォリティだからな!


『……』

「じゃあ、とりあえず急いで大広間まで行こうか」

「はい、タクロー」

「……」

「タクロウ……さん」

「よし、行こう。フリスさん」

「……もう!」


 俺はフリスさんの手を掴み、走りながら大広間に向かう。


「Oh! KOBAYASHI!!」


 大勢の職員さんに二人で仲良く手を繋いで走る姿を見られたが、今の俺にそんな些細な事を気にする余裕はなかった。


「あっ! KOBAYASHI!!」

「いた! KOBAYASHIだ!!」

「ちょ、ちょっと待ってKOBAYASHI!! 今、君を皆が探して……」


 むしろ今は見せつけてやりたい気分だねぇ!


 はっはっはー! お前ら、もっと俺を見ろぉおー! この情けない日本のコバヤシさんの姿をその目に焼きつけろぉお───!!


「はっはっ、はーっはっはっは!」

「た、タクロウさん! 何だか楽しそうですねっ!!」

「ぐすっ! ぐすん!! ぶふふぅ!!!」

「えっ、泣いてるんですか?!」

「ぶぁあぁあーっはっはっー!! はーっはっはっはぁー!!!」


 そりゃ泣くよ! もう泣くしかねぇわ、こんな目に遭わされたら! 俺ぐらい強靭なメンタルしてなかったら恥ずかしさで今頃投身自殺してるわ! 実際に飛び降り自殺しかけたけどなぁー!!


「あーもー! やってらんねぇえー!!」


 俺は泣きながらフリスさんとアメリカ支部のだだっ広い施設内を駆け抜けた。



 精神状態:『好調』→『;;』……測定不能。判定不能。未知の精神状態。



「ロスト・チャイルド」-終-


>KOBAYASHI<\Frith/三   \USA/\USA/\USA/

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