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「ミューテーション」

「何だいきなり……本当に大丈夫か?」


「もう駄目だと思う。ほっといてごはんにしよーよ。いただきまーす」


「だ、だって変じゃねーか! 昨日までフツーに」


「そうだな、後は()()()に任せよう。いただきまーす」


「え、無視!?」


「……あっつ。ちょっとお父さーん、もう少しぬるめにしてよ……飲めないじゃん!」


「ああ、すまん。だいぶぬるめにしたつもりなんだが……メイコは猫舌だからもっと気をつけないとなー」


「えっ、あのっ」


 え、本当に無視しちゃうの!? 待って、おかしいよ! こんなの絶対おかしいよ! 二人共おかしいよぉ!!



【……注意。コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ】


 精神状態:『注意』→『要注意』……不安定。精神的な安定性に問題アリ。安定剤(エリクシル)の使用を提案。


【……注意】



「ごちそうさまー」


「ごちそうさまー」


「……ごちそうさまです」


 結局、俺はそのまま無言で朝ごはんを食べた。


 朝ごはん美味かったよ、うん。美味かったけどさ……何だろう、この違和感。


 確かに姿は変だけど、この二人は間違いなく俺の妹と親父だ。


 そしてこの俺も間違いなく小林拓郎だ……つまり、どういうことだ。



【発言の意味が不明。貴方はコバヤシ・タクロー】



 ついでにこの視界にちょくちょく浮かび上がる文字は一体何だ。


「なぁ、親父」


「ん? どうした、タクロー」


「母さんの写真、持ってる?」


「ああ、持ってるよ……何だ急に」


「見せてくれよ」


「突然どうしたの、兄貴?」


「いや、ちょっとな……」


「まぁ、タクローもお母さんが恋しくなる時があるってことだな。仕方ないな……」


 親父は額をコツコツと叩く。


 すると親父の頭から >ベベンベン、ベベンベン< とかいう意味不明なサウンドが鳴り出して頭がパカっと開く……


 いや待て、何処に入れてんだよ!?


「ほら、これが母さんの写真だ」


「……あ、ありがとよ」


「美人だろう? 間違えても惚れるなよ、俺の女だからな」


「息子に言う台詞じゃねえぞ親父」


 俺は親父にドン引きしながらも渡された母さんの写真を見る。


 うん、確かに母さんだ。やっぱり綺麗だなと思う。息子の俺が言うのもなんだが、何で親父とくっついたんだろ。絶対に釣り合ってないよ。


「……猫耳、だと」


 そして写真の中で幸せそうに微笑む母さんの頭には、ピコピコ動きそうな猫畜生の耳が生えていた。


 >俺の母さんの頭に猫耳が生えていた<


「……ありがとよ、親父」


「おう、母さんはいつも天国でお前たちを見守っているからな」


「ははは……」


 お母さん、さっきは死のうとか言ってごめんなさい。


 本当にごめんなさい。


 でも、正直に言います。


 ごめんなさい、また死にたくなりました。



【……警告。コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ】


 精神状態:『要注意』→『危険』。警告、精神に問題アリ。安定剤(エリクシル)の使用を提案。自殺の可能性アリ。



 ……とりあえずこの視界の文字は俺の精神状態や体調といった〈ステータス〉が変化した時に浮かび上がるのはわかった。それに何の意味があるのかは疑問が残るが。だってそんなの教えられても困るし……


 何とかこの文字を非表示に出来ないかな。


「でもさー、あたし今でも思うんだよねー」


「ん、どうしたメイコ」


「あたしらって本当にお母さんとお父さんの子なの?」


 おっと、明衣子ちゃん。俺が聞きたかったけど聞けなかった事をさらっと聞きますね。


 でもやっぱりそう思うよね。()()()()親父でもおかしいと思ってたのにさ。このロボと母さんがどう知り合ったとかはもういいとして、何をどうやったら子供が作れるんだよ。


「メイコ、よく聞きなさい。お前たちは本当に俺と母さんの子だ。君はお父さんとお母さんの想いが通じ合って生まれた、世界で一番大事な母さんとの愛の結晶なんだよ」


「……真顔で言わないでよ、恥ずかしいじゃん」


「その耳も、尻尾もお母さんが授けてくれたものだよ。怪しまれてもしょうがないと思うが、お父さんは」


「わかった、わかったから! もういいって!!」


 親父の思いが詰まった言葉を聞いて、明衣子は顔を赤くしながら会話を切り上げる。


 なんだよこのエプロンロボ……ちゃんと親父じゃねえか。


 こんなくさい台詞、俺の親父しか言えねえよ。そんな省エネ作画みたいなフザケた格好になっても立派に親父してるじゃねえか……。


「……俺も、母さんと親父から」


「当たり前だろ、タクロー。お前も俺の子だ、俺()()の自慢の息子だ」


 親父の温かい言葉を受け、俺はもう今の姿の事なんかどうでもよくなった。



【……報告。コバヤシ・タクローのステータスに急激な変化アリ】


 精神状態:『危険』→『良好』。精神状態が危険値から良好まで回復。安定剤(エリクシル)の使用を撤回。



 何でもいいや、もう……だってあんな台詞聞かされたらさ……ちょっと、うるっと来ちゃうよね。


「でも俺はどっちにも似てないんだな……せめてどっちかの面影残してくれても」


「お前は小さい頃に 突 然 変 異 したからな。面影なくても仕方ないな」



 _人人 人人_

 > 突然変異 <

  ̄Y^Y^Y^Y ̄



 ふざけんなァァァ────!!!



【……要注意、要注意。コバヤシ・タクローのステータスに急激な変化アリ】


 精神状態:『良好』→『要注意』。良好から要注意まで悪化。精神に大きな異常アリ。特定対象への攻撃性が増加。危害を加える可能性大。安定剤(エリクシル)の即時使用を推奨。


【……要注意】


「それが息子に言う言葉かクソ親父ぃぃいいいー!!」

「えっ、あっ……ごめん! 流れと勢いでつい!!」

「うわ、ひっど……でも突然変異って言われても仕方ないよね。あたしもちょっとおかしいなって……」

「納得しちゃうのかよ、明衣子ォォォオオオオオオ!?」


 \ピンポーン/


 俺が親父に掴みかかろうとした時、インターホンが鳴った。


「あ、来たよ。ほらほら兄貴が出てあげなきゃ」

「え、俺!?」

「当然だろ。お前以外に誰が行くんだ」


 さっきから長男の扱いがひでえなおい! 盗んだバイクで走り出すぞ畜生が!!


 \ピンポーン/


「ちょっと、兄貴ー? 早く行ってあげなよー」

「……ああもう、わかったよ! 行けばいいんだろ! 今日は本当になんて日だよ!!」


 俺は苛つきながら玄関に向かい、ピンポンピンポンうるさい来客に脅し文句の一つでもくれてやろうかと思って勢いよく玄関ドアを開けた。


「はいはい、どちら様ですか!!?」

「……おはようございます」

「……」

「ごめんなさい、少し用事があって……貴方を迎えに来るのがいつもより遅くなってしまいました」



 >本当にどちら様ですか!?<



【……警告、警告、警告。コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ。状態異常発生。状態異常発生】


 精神状態:『要注意』→『危険』……危険値。精神状態に多大な異常アリ。安定剤(エリクシル)の即時使用を要求。思考停止寸前。

 状態異常:『混乱』


【……状態異常発生……状態異常……】



 玄関先に立つ見知らぬ女の子を見て、俺の思考回路は少しの間停止した。



「ミューテーション」-終-


>KOBAYASHI<

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