「両手に最終兵器」
好かれたっていいじゃない。好かれてるのは別の人だけど。
「うーん、まぁ……そこそこかな? いつもどおりだよ」
……しかし、別世界の自分の振りをして女の子と仲良くするって冷静に考えると酷え字面だな。
「キャサリンさんも元気そうだね」
「うふふっ、元気よ! またコバヤシに会えて嬉しいわ! キスしちゃいたいくらい!!」
「えっ?」
ほほう、いきなりキスとな? 流石はアメリカン美少女……大胆だね!
「キャサリン、コバヤシが困ってる。いい加減にして」
「もー、サーシャは無愛想ねー。わかった、貴女から先にキスがしたいならどうぞ」
「 ドゥラァークゥ! な、何を言ってるっ!!」
「えっ??」
……しっかし、タクローくんよ。
フリスさんという親公認の幼馴染がいながら、彼女達と挨拶代わりにキスする関係だと? はっはっ、タクローてめぇこの野郎。そりゃサトコさんにも白い目で見られるよ馬鹿野郎。この世界の明衣子が妙に厳しくなるのも納得だよ、この野郎!!
『何も問題ありません。メモリミテート・ルームで説明した通り彼女達は最有力婚約者候補です』
大問題だよ、バカヤロー!!
あのねー! 俺はまだ未成年だよ!? 婚約者候補とかそういう単語出さないでくれる!? 彼女とコバヤシ君がどれだけ仲が良いかは身を持って思い知ったけどぉ!!
「み、みんなが部屋で待ってるよ! こんな所で時間を潰してる場合じゃないって!!」
「えー、その前に再会のキスはー?」
「いやいやいや! ちょっと落ち着いて」
「 プラーヴィリナァ。真面目にして、今日はとても大切な日」
さっきから銀髪の……ロシアのサーシャさんだっけ。
この子の言葉に変換しきれてない言葉があるんだが。何だ、もしかして訛りが強すぎたりすると翻訳にエラーが出るとか?
『仕様です』
どんな仕様だよ!?
「むぅー……確かに大切な日だけどぉ」
「せ、折角の再会だしキスの一つでもしたくなるのはわかるけど、ここは我慢して……ね? 真面目になろうね?」
「 タァーク、コバヤシの言う通り」
「そうね、私も張り切らなきゃ!」
と、とりあえず二人の喧嘩は収まった感じかな?
キャサリンって子はかなりはっちゃけてるな。何処と無く雰囲気がボブに似ている気がするが、アメリカ人ってみんなこんな感じなのか?
「だって今日は世界の運命を決める大事な婚活パーティーなんだから!!」
「そうそう、大事な……ん?」
「うふふっ! あたしはいつでもオーケーだからね、コバヤシ! 貴方好みのウェディングドレスも素敵な指輪も用意してあるんだから!」
……彼女の発言に色々とツッコみたい所があるが、とりあえず今は置いておこう。
「っ! こ、こら! 勝手に決めるな! それに指輪なら私だって……」
……隣のサーシャさんも頬を染めて俺をチラチラと見てくるが、今は気づかぬ振りをしておこう。
絢爛交歓祭について夢の中で学んだ俺はこの会議が開かれる目的も、キャサリンさんが婚活パーティーとか言い出した理由も知っている。
だが、まだだ。まだ耐えろ……今はまだその時じゃない……!
「相変わらず賑やかだな、お前たちは」
「ふぉおっ!?」
うおおっ、びっくりしたぁ!
いつの間にか俺の背後に角が生えたイケメンが立ってる! あ、確かこの人は……
「ハーイ、クーロン! お相手は決まった??」
「さてな、君じゃないことは確かだ」
「ノーウ! ひどーい!!」
「君には君にピッタリの相手が居るって話だ。天涯何处无芳草……この諺が示す通りに、君に見合う素敵な花は何処かに咲いている」
「ふふふ、ありがとう。クーロンにはあの子がいるものねー」
そうそう、クーロンとかいう中国のイケメンだ!
くそう、声や対応までイケメンとは……腹立たしい! 平凡な感性の男子には言えねーぞ! そんな台詞!!
「小林もこんなところで時間を食ってる場合じゃないだろ? どうしても言うならこのまま好きにすると良いが……俺はお前をそんな奴だと思いたくない」
ほう、クーロンよ。喧嘩売ってるね?
【……報告、コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ】
精神状態:『良好』。特定対象への興味が増幅。興奮状態。特定対象への敵対心が増加。
筋力:『B+』→『A』
【……報告】
さり気なく俺に喧嘩売ってやがりますね? いい度胸だ、イケメンだからって顔面にパンチが飛んでこないと思うなよ??
『落ち着いてください。彼は貴方の友人ですよ』
……わかってるよ。俺じゃなくてコバヤシ君のだけどな。
ふん、命拾いしたな! クーロン! だが次は容赦なく顔面にパンチが飛ぶぞ!!
「わかってるよ、クーロンくん! でも俺をそんな奴だと思わないでくれないかな!?」
「……クーロンくん?」
「あ、違った……クーロンさんか」
「……」
あれ、何か余計な事言ったか? まぁいいか、先に喧嘩売ったのはコイツだし。
「オッケー、じゃあ行こっか!」
むにゅっ。
ふぅぉおおおおっ!? ちょ、待って! 当たってる! 左腕にデカいのが当たってるから!!
【……報告、コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ】
「どうしたの、コバヤシ? 早く部屋に行こうよ」
むにゅむにゅ。
おいおい、キャサリンさん。さてはオメー、肉食系だな? それも無自覚を装って仕留めに来るタイプだ。やだわー、こういう子! その眩しい笑顔の裏にはどんな策謀を巡らせているんでしょうねぇ!!
だが甘いな、この小林くんはそんな下賤な手には引っ掛からん! 日本男児を舐めるなよ、米国の刺客めが
「何で止まってるの、コバヤシ。みんな待ってるから早く来て」
ぎゅっ。
「アッハイ! ごめんなさい!!」
中々動こうとしない俺に痺れを切らし、サーシャさんが俺の右手を掴んで引っ張る!
「あれ、コバヤシは呼んであたしは呼ばないのねー。ぶれーぃく、まーい、はぁーとぉう……」
「……キャサリンは呼ばなくても勝手に来る」
「ひっどーい! やっぱりロシア人の心は冷たすぎよ! だから友達増えないんだーっ!!」
「う、うるさい! そんなの関係ない!!」
そして流れるように二人は口喧嘩に突入……そうか、この人達はそういう仲か。仲が悪いというか、喧嘩がコミュニケーションになってるタイプだな。
「ねぇー! コバヤシもそう思うよね!? クーロンも!」
「そんなことない!」
「……」
「……俺からは何とも」
あ、そうだ! この三人には正直に話しておこう。俺が別人になってるってな! ここまで仲が良いなら俺の話も真剣に聞いてくれるはずだ!!
『その判断は間違いです』
じゃあ、いつ話せばいい!? 今だろ、今しかないだろぉ!?
「あ、あのさ。実は今のうちに言っておきたいことがあるんだ。とても大事な」
「!」
「えっ、何? ひょっとしてプロポーズ!? オーケーよ! 私は全然オッケーッ!」
むっぎゅうー!
「ほわあああああああーっ!?」
俺が大事な話をしようとした途端、キャサリンさんは満面の笑みで俺に抱きついてきた!
違うよ! プロポーズじゃなくて今の俺は……って乳がァァアア────! 左腕に、俺の左腕に乳がむぎゅって、むぎゅううってぇええー!!
『キャサリン・ブレイクウッドを選びますか?』
待て待て待て! まだ早い!!
「こら、やめろー! コバヤシが嫌がってる! それにキャサリンにプロポーズするとは言ってない!!」
「そんなことなーい! コバヤシはあたしを選んでくれたのよー! あたしを見ていたもの!!」
「えっ! あの、そのっ! 俺は」
「違う! コバヤシはお前なんて興味ないって言おうとしたの!!」
ムギュッ!
今度はサーシャさんが俺の右腕に抱きつく! ふああっ、柔らかい温かいイイ匂い!
『サーシャ・アヴローラを選びますか?』
だからまだ早いってぇぇー!!
「ワーッツ!? 何よそれー!?」
「そのままの意味!!」
ああっ! アメリカ美少女のボインに左腕を挟み込まれ、ケモミミロシアン美少女にむぎゅっと右腕を抱きしめられている! クソァ! コバヤシ君どんだけモテてんだよ!? こんな顔なのに!!
「……お前たち、さっき俺が言った言葉が聞こえなかったのか? そんなに廊下が好きなら部屋の扉を閉めるぞ??」
「いや、俺はさっさと部屋の中に入りたいんだけどね? 放してくれないのよね、この人たち」
「ねーぇ! コバヤシもあの子に何か言ってやってよ! あたしたち友達でしょーっ!?」
むぎゅむぎゅっ!
「だから……コバヤシが困ってるから離れろ! そんなに廊下が好きならお前だけ残れ!!」
ぎゅーっ!
「……助けてくれないかな?」
「すまん、俺には無理だ」
「助けて!!」
「嫌だ、俺を巻き込むな!!」
それにしても凄いよね、まだ三人しか顔合わせてないのにこれだよ。正直帰りたいよ、本当に俺の第六感は頼りになるよ。
「コバヤシィー! さっきからサーシャが酷いのよ、ビシッと叱ってやってよ!!」
「 フゥバーチット! コバヤシが困ってる!!」
「クーロンさぁぁぁぁん! 俺たち友達だるるぉおおー!?」
「知らん、俺はもうお前らなんぞ知らん!!」
……でも悔しいかな。この如何ともし難い状況を、心の中で凄く楽しんでしまっている俺が居る。
精神状態:『良好』→『*><*』。測定不能、測定不能。未知の精神状態。
「両手に最終兵器」-終-
\九龍/三 >Саша<KOBAYASHI>Catherine<




