「ワンマンボーイ」
「ふふっ、タクロー。アメリカ合衆国に到着しましたよ」
約7時間のフライトを終え、ようやく俺達はアメリカに到着した。
「ワァオ、これがアメリカァ! すげー! 広ーい!!」
「ふふふ、お昼寝から覚めてから凄く元気そうですね」
「うん、寝たら何かスッキリしてね!」
「ふふっ、いい夢は見れましたか?」
「うん、とっても!!」
俺は爽やかナイス顔でフリスさんに言う……
本当はいい夢なんて見れませんでしたけどね!!
昼寝してから俺はメモリミテート・ルームで地獄を味わった。終末対抗兵器の事やら外国の友人の事やら外国語やらテーブルマナーやら何やら……トドメに戦闘訓練までやらされてボロッボロになりましたよ! おっぱいが無ければ死んでいた!!
『目覚ましい成長ぶりです。これでもう絢爛交歓祭に関する不安要素はありません。自信を持って臨んでください』
ありがとうよ、アミダ様! 言いたいことは沢山あるけど、とりあえずおっぱいご馳走様でした! クソッタレ!!
「はっはっは!」
「本当に元気になったわね、コバヤシ君。これなら今日の会議も大丈夫そうね」
「ええ、まぁ! 多分!!」
ああ、この人に今の気持ちを正直に話してやりたい。でも我慢しよう……俺は優しいんだ。フリスさんも居るしな。
「うおー、白くてすげー建物が見える! 何だあれ……アメリカ軍の基地かな? 流石にあれがこの世界のホワイトハウスって訳じゃないだろうしなー」
「空港に着いたらすぐに送迎車でアメリカ支部に向かうわよ。もうすぐ会議が始まるわ」
ついにこの時が来たか。夢の中で味わった数十時間分の地獄の成果を見せてやろう。
「まー、外国語に関しては多少? すこーし不安がありますけどー」
「そこは心配しなくていいわ」
「え、もしかして相手は日本語話せるとか?」
「そういう訳ではないのだけど……意思疎通に関しては大丈夫よ。実際に会って話せばわかるでしょうけど」
うーん、相変わらず説明してくれませんねサトコさん。
まぁいい。アミダ様の血も涙もない外国語授業のお陰でペラペラとまでは行かないがそこそこ喋れるようにはなってるし。
「タクローには、相手の外国語を日本語に変換する機能が搭載されているんです。タクローの話したい言葉も同様に、外国語に変換してくれますよ」
「は!?」
……おい、どういうことだ。アミダ様? まさか本当にそんな機能が
『はい、搭載されています』
ふざけんなぁぁぁー!!
お前ーっ! 本当にお前ーっ! 俺がどんな思いで外国語勉強したと思ってんだぁぁー!? そんな機能あるならあの学習必要無かったじゃん!? 俺が教科書一冊分の外国単語を覚えるまでどれほどの苦痛を味わったと思って……
『その機能の有無に関わらず外国語の知識は必要です。貴方の学習は決して無駄ではありません』
やっぱりコイツ嫌い!!
「……もしかして目に見える英単語を日本語に変換する機能とかも」
「そこまではわかりませんけど、あっても不思議じゃないですね」
……おい、アミダ様。流石にないよな?
『……』
その沈黙はあるってことだね? ねぇ、本当に君は何処まで僕を馬鹿にしてくれるの? 僕をいじめて何が楽しいの? 僕にも我慢の限界ってのはあるんだよ??
『便利な機能ばかりに頼ってはいけません。貴方にはコバヤシ・タクローとして学習し、成長する義務があります』
それらしい事を言って誤魔化すなぁ! 大体、それならお前の存在意義も怪しいもんだよ!? お前もその便利な機能にカウントされるからね!?
『問題ありません。メモリミテート・ルームで再学習した内容は以前の貴方が元々備えていた知識です。貴方の不具合が解消され、コバヤシ・タクローとして正常な状態に戻れば私が介入する必要も無くなります』
アミダ様の言葉に俺は沈黙した。
「……」
なるほどね。ここまで来てもお前は俺がちょっと記憶がおかしくなっただけのコバヤシ・タクローだと思っているわけか。
記憶が戻らないならせめて勉強して少しでも以前のコバヤシっぽくなる努力をしてくれと。コバヤシはこれくらい出来たから俺にもそれくらいは出来るようになって貰わないと困ると言いたいわけだね!?
『はい』
アミダ様はハッキリと答えた。何の迷いも葛藤もない返事に俺は彼女が機械なのだという事実を思い知らされた。
精神状態:『不良』。安定剤の使用を提案。
いや、これが普通なんだ。相手はAIだぞ。俺はアミダ様に何を期待してたんだよ。大体、彼女が俺を褒めることはあっても……俺が小林拓郎だと認識した事は一度も無かったじゃないか。
……ふざけやがって!
「……タクロー? どうかしましたか?」
「あ、いや。何でもないよ、フリスさん!」
「そうですか? 少し辛そうな顔をしていたように見えたので……」
「そんなことねえよ!? 見てよ、この自信満々な笑顔! ビシッと決めてやるからね!!」
アミダ様の言葉で気が立っていた俺にフリスさんは声をかけてくれた。本当に優しいな、彼女は。でも今はその優しさが辛い。
「まもなく着陸態勢に入ります。ベルトを締めて、身体を座席にしっかりと固定して下さい」
「お、着陸か」
「ちゃんとベルトを締めないと危ないですよ、タクロー」
「はいはい、でもこの浮く時と着陸の時のふわ~ってなる感覚が苦手だなぁ……」
「慣れなさい」
「アッハイ」
サトコさんもフリスさんもアミダ様と同じだろう。二人も俺をコバヤシ・タクローだと思ってる。結局、小林拓郎を見てくれている人は親父、明衣子……そして天皇様しかいないんだな。
◇◇◇◇
「日本からよくおいでくださいました、ミス七条。ようこそ、終末対策局アメリカ支部へ」
俺達は飛行機から降りてすぐに車に乗り換え、アメリカ支部まで送られた。
空港に着く前に空から見えた白い建物がそれらしく、日本支部よりも更に広大な敷地と何百メートルもありそうなタワー状の建造物に俺は圧倒される。
「お久しぶりです、ヨハン支部長。相変わらずお元気そうで……」
「はっはっ、美人の前ではいつでも元気ですよ。やぁ、フリスさんもようこそ」
「はい、お久しぶりです。ヨハン支部長」
俺達を出迎えてくれたのはこのアメリカ支部の支部長のヨハンという人だ。
スキンヘッドで立派な顎髭を生やしたダンディで、とても人付き合いが良さそうな人だな。でも目の色が真っ黒で、そこが少し不気味な印象を与える。
「よく来てくれたね、コバヤシ君。また君と会えるなんて光栄だよ!」
「あ、どうも……。日本語お上手ですね、ヨハンさん」
「はっはっ、君こそ英語が上手だね! コバヤシ君!!」
ヨハンさんはHAHAHA! と楽しそうに笑う。
え、俺には普通に日本語に聞こえるんだけど、俺は今何語で話してんの!? まさか自分でも気づかないレベルで英語が身体に染み付いて……!!
『日本語です』
>日本語かよ!<
「もう少し君たちとお話がしたいところだが、残念ながらもう会議の時間だ。ヘクター、彼らの案内を頼む」
「了解しました」
「君たちにとっても、私たちにとっても良い結果になることを祈ってるよ。それでは、また後で……」
「ではご案内いたします。私に着いてきてください」
案内役のヘクターさんがペコリと頭を下げる。俺には金髪イケメンな普通の人に見えるけど……やっぱり何処かが違うんだろうな。
「行くわよ、コバヤシ君」
「アッハイ……あの人達は普通に日本語話せるんですね」
「ふふふ、ヨハン支部長とヘクターさんは日本語がとてもお上手なんです。日本がお気に入りだそうで」
日本がお気に入りかー。という事は俺がヘマしてもフォローしてくれるかもな……
「あの人が笑顔の時の言葉は宛にしないほうが良いわよ、コバヤシ君」
「え?」
「人を誂うのが趣味の変わった人だから」
「あ、そうですか……」
ああ、駄目っぽい!
『問題ありません。自信を持ってください、貴方は』
くそぅ、わかってますよ! 今は精々コバヤシ君として恥をかかないように努力しますよぉ!!
「もうすぐお部屋に到着します」
ヘクターさんに案内されて俺達は広い施設内を進んでいく。建物の内部はとても広く、落ち着いた雰囲気の日本と比べると職員さん達もフランクで明るい雰囲気だ。
「すげー……SF映画の世界に来たみたいだ」
「ふふふ、タクローが言うとなにかおかしいですね」
そうですね、俺がSF映画の住人みたいな見た目してますもんね。
「では、フリス様はこの部屋でお待ち下さい」
「はい、わかりました」
「あれ? フリスさんは違う部屋なの??」
「調整者は別の部屋で待機するんです。あの会議には、タクローたちと七条さんしか参加できないので……」
オォゥ、ジーザス……。
ここに来て唯一の味方であるフリスさんと引き離されてしまった。くそぅ、ついにこの時が来てしまったか。せめてサトコさんがもう少し優しい性格だったらなぁ。不安気になってる俺をさり気なく励ましてくれるとか……
「急いで、コバヤシ君。もうすぐ会議が始まるわ」
そういうところですよ、サトコさん!
「では、コバヤシ様はこの先の部屋へどうぞ……」
「アッハイ!」
「頑張ってらっしゃい。私は少し用事があるから……」
「え?」
「貴方だけ先に行ってて」
精神状態:『不良』→『注意』
「ワンマンボーイ」-終-
\KOBAYASHI/ \SATOKO/\Frith/




