「終末待遇」
\KOBAYASHI/様、特別室にご案内!
「お弁当食べながらしっかりチェックしておいて。これは無くしちゃ駄目よ?」
「あ、ありがとうございます……」
この銀髪の子はたしかサーシャさんだったかな。
相変わらず妖精みたいに可愛いな。何処と無く明衣子にも似てるし……背丈も大体同じくらいだ。ところで紙一面に彼女の情報が書かれてるんだけど……全く頭に入ってきません。
だって、日本語じゃねえもん!!
「あの、読めません。特に写真の隣に書いてるこの……」
「これはロシア語でサーシャと読みます」
「……ロシア語ってこんなんなの? 読めるわけ無いじゃん!」
「しっかりとみんなの写真と名前に目を通しておくのよ。向こうに着くまで時間はまだあるから」
「は、はい……(ペラッ」
あ、お次はイギリスの眼鏡っ娘だ。
確か名前はアルテリアさんだったかな。可愛い。淡い茶髪とちょっときつそうな目つきが素敵ですね。でも頭頂部でピンと立ってるアホ毛が何かじわじわくる。
「この人はイギリスの 終末対抗兵器、アルテリアさんですね」
「イギリスってことは……え、コレ英語? マジで??」
「これは英語の筆記体ですよ。授業で習ったと思いますが……」
すまねぇ、外国語はさっぱりなんだ。
「えーと……とりあえずこれは中国語だね!」
「はい、この人は中国の終末対抗兵器です。名前は九龍」
相変わらずイケメンだな、この中国の守護神は。
何か頭におっかない角が生えて、肌に鱗みたいなのがちらほら見えるがそれを補って余りあるイケメンだ。うーん、こいつとは仲良くなれそうにないな!!
『……』
冗談だよ、アミダ様!
「えーと、次は……流石に読めるよこれは。アメリカ語だね! 何て書いてるのかはわかんないけど!」
「いえ、これは英語です」
「……わかってるよ」
気を取り直して、写真の子に集中しよう。
この子が自由の国アメリカを守るオーバー・ピースか。うん、可愛い。何度見てもすごい綺麗な金髪と笑顔が素敵な美少女……っておっぱいデカっ!
精神状態:『要注意』→『平常+』。安定剤の使用を撤回。心拍数が増加。軽い興奮状態。
何だこのサイズ……フリスさんどころかサトコさん並じゃね!? 多分、俺と同い年くらいだろうけど……恐ろしや。これが、アメリケンサイズか!!
「はい、この人はアメリカの 終末対抗兵器でキャサリンと読みます」
「ほほう……」
ぬう、いけない。これはいけないよ。俺と同い年くらいなのにこのボインはいけない。
「ふふふ、本当に大きいですね」
「そうだね、大きいね……」
って何を言ってるの俺ェェェェー!?
違うんです、違うんです! これはそのおっぱ……じゃなくて! この肉団子が大きいって意味だよ! そう、肉団子がね! 写真の、じゃなくてお弁当箱のね!!
「大きいね、この肉団子。親父特製のー……」
「……」
「……ごめん、何も聞かなかったことにして? お願い」
「ふふっ、わかってますよー」
『……』
ああもう、何たるブザマ! フリスさんが見ているのに余所のオーバー・ピースのボインに見とれてしまうなんて! 畜生、でも本当に大きいなぁ!!
『彼女の模擬体を投影しますか?』
いや、結構です! もうすぐ本物に会えるから!
「……これは、何語?(もぐもぐ)」
「この人はですねー」
俺は弁当の大きな肉団子を食べながら、フリスさんが教える簡単な外国語人名講座を受けていた。
「……」
サトコさんは何とも言えない表情でこちらを見ていたが、俺は無意識に目を逸らした。
◇◇◇◇
「うおお、すげぇ……」
ヘリコプターで空港まで来た俺は、そのまま専用の飛行機の前まで案内された。
チェックインとかその他諸々の手続きはしていないし、手荷物の鞄も背負ったままだ。終末対策局の関係者はVIP待遇という事なんだろうか。
『権限:〈国内外無期限旅行権〉及び〈国内外無制限航空券〉を使用。貴方は国内外を問わずあらゆる地域への旅行を無期限に許可されています。また日本国の所有する航空機を無制限に利用可能です』
あ、そう言えばそんなのありましたね! 完全に忘れてたよ。なるほど、無期限……え、無制限?
「さぁ、乗ってコバヤシ君。あまりのんびりしている時間はないわ」
「アッハイ」
「ここからアメリカ支部まで7時間ですね」
「会議が始まるのが18時、今の時刻が朝の9時過ぎだから……少しだけ余裕があるわね」
「えっ、7時間? そんなにかかるの!?」
し、知らなかった。ニポンからアメリカまでそんなに離れてたんだ……。ていうか会議はアメリカでやるんですね、今知りましたよ。
『……』
ごめんね、聞く時間は沢山あったね。でもね、言ってくれると思ってたのよね。普通は言ってくれるもんじゃない? そうじゃない??
「何言ってるの、コバヤシ君。この飛行機は普通の旅客機よりもずっと速いのよ? 普通ならアメリカまで14時間はかかるわ」
「えっ、マジで?」
「この飛行機には日本支部独自の最新技術が沢山詰め込まれているんですよー、日本は凄いんです」
フリスさんは自慢げに言った。
そう言えばフリスさんって見た目も名前も完全に外国人なのに、滅茶苦茶日本に馴染んでるよね。お箸の持ち方とかすげー綺麗だし、もしかして日本生まれの日本育ちだったりするのかな?
『フリス・クニークルスの出生地はイギリスです。日本を訪れたのは10年前、6才の頃にオオトリ幼児園に入園。そこで貴方と出会いました』
え、そうだったの!? オオトリ幼児園て……まさか、あの人外魔境にフリスさんが!?
「じゃ、失礼しますー……ってうおお、すげぇ!」
飛行機に乗り込んだ俺はまるでホテルのような豪華過ぎる機内に驚いた。
「いつ見ても凄いですよね、この飛行機の中……ちょっとしたホテルみたいです」
「うおおお! 座席の座り心地半端ねぇぇ! ふおおおー!!」
「あんまりはしゃがないの、子供じゃないんだから」
「それでは、身体をベルトでしっかりと座席に固定してください。これから離陸の準備を始めます」
褐色肌の客室乗務員さんが綺麗な声でシートベルトを着用するように言ってきた。
あら、美人! よく見たら瞳がトカゲのようになってて、肌にうっすらと鱗のような物がある。この世界だとフリスさんやサトコさんのような普通の人間っぽい人の方が少ないのかな。
『人種の違いに興味が湧いたようですね。良い兆候です。今夜、それについて再学習を』
あっ、ノーセンキュー。お心遣いは感謝しますが、ノーセンキューで。ノーセンキューでお願いします。
「あんまり飛行機乗った覚えがないからちょっと緊張するなぁ」
「貴方は毎月のように飛行機に乗っているんだけど」
「ええと、それはそのー……」
ごめんなさい、小林くんは毎月のように飛行機乗るようなブルジョアな家庭育ちじゃないんで。
しかし少し姿が人間と違っていても、相手が美人さんだとあまり気にならないんだが……オヤジや田中と安藤みたいに元の面影が全く無い奴らは今でも抵抗がある。自分の姿を鏡で見るのも未だに慣れないしな。
「離陸後、お飲み物やお食事をお持ちいたします。お食事はお魚メインのコースと、肉料理がメインのコースがございます」
「じゃあ俺は肉がいいですー」
「私はお魚で」
「私も魚料理がいいかしら。飲み物はブラックコーヒーで」
「かしこまりました」
見た目が変わっても中身が〈普通の人間〉と変わってないのがまた不思議なんだよな。ヘンテコな世界に来ちまったなぁ……。
『しっかりと世界についての知識を学べば違和感も消失します。再学習しましょう』
やだよ……もうあの部屋は勘弁してくれ。次に行ったらトラウマになりそうだ。
「では間もなく離陸いたします。後、機内では携帯電話のご使用はお控え下さい」
「そういや飛行機じゃ携帯使っちゃ駄目なのか」
「非常時以外は控えるべきね、機内モードにしておきなさい」
「あ、はい」
此処に来るまでの不安は何処へやら。VIP待遇で飛行機に乗れる興奮と、高級ホテルのような居心地の良さに俺はすっかり気を良くしていた。
……それこそ、発進してから2時間ほどで猛烈な睡魔に襲われてしまう程に。
「終末待遇」-終-
\KOBAYASHI/\Frith/\SATOKO/




