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「右肩に日本の、左肩に馬鹿の……」

勢いで言ったけど、後から無理じゃね? とか思い出すと辛いですよね

「……シくん……」

「……」

「……バヤシくーん……」

「はっ!」

「うふふ、どうしたの? ボーッとしてぇ……」


 気がつけば、俺の目の前に色黒のオカマが立っていた!



 精神状態:『不良』→『注意』



「えっ、あっ!」

「えとねー、先生ねぇ。この文章を貴方に読んで欲しいってお願いしたんだけどぉ……」

「はっ、ごめんなさい! ボーッとしてました!!」

「うふふ、知ってるわ。そんなに先生が気になるのねぇ、困っちゃうわぁー」


 オカマの気持ち悪い目つきとくねくねした動きに俺の精神はゴリゴリと削られていく! やだ、コワイ! この先生コワイ、助けて沙都子先生ー!!


『そのような人物はこの世界に存在しません』


 うううっ、うるせぇぇー! 俺でもわかってんだよぉ! 一々、心の叫びを拾うんじゃねぇぇー!!


「と、り、あ、え、ず、この文章を読んでくれないかしら?」

「アッハイ! ええと『ある朝、白うさぎは海を眺めながら、どうにか因幡の国に渡るいい方法はないかと考えていた。すると、そこにワニどんが海から顔を出した。海にたくさんの仲間がいるワニどんを見て、白うさぎは何かをひらめき、こう言った……』」

「うふふ、ありがとう。この因幡の白うさぎというお話はー」


 この世界での沙都子先生ポジションにいるラルフ先生は国語教師だ。


 うん、沙都子先生も国語教師だったからね……仕方ないんだろうけど傷つくわ。この漢らしい低音の猫撫で声がまた気持ち悪くて、一限目から精神が摩耗していく。


「あー、くそ。明日どうしよう……」


 明日、31日に絢爛交歓祭とかいう会議がある。


 サトコさん曰く、この国や世界の命運すら左右しかねない重要な会議らしいが……どんな会議なのかという説明は一切ございませんでした。はい、帰りのヘリコプターで何度か聞いたけど教えてくれませんでした。


 はっはっ、ヤンナルネ。



【……警告、コバヤシ・タクローのステータスに大幅な変化アリ】



 昨日の夢のせいでタダでさえ不安定なのに、会議前日になったせいで更に俺の精神は更に追い詰められていく! どうすればいいの!? 俺は明日、どうしたらいいの!?


『頑張ってください』


 頑張ってじゃねーよ! 大体、俺が追い詰められてる原因の半分くらいはお前のせいだからな!? お前がフリスさんに化けて俺を誘うから……!!



『今日はお疲れ様でした。さぁ、いらっしゃい』



 お陰様で授業内容も全然頭に入ってこねーよ! 頭の中がフリスさんで一杯だよ! 今朝、本物のフリスさんを見た時には死にたくなったぞ!?


『私も予想以上の効果に困惑しています。彼女の姿を模擬しただけで、あそこまで貴方に甘えられるとは思いませんでした。これからは訓練の際には彼女の姿で』


 やめろぉぉぉーっ! それだけはやめて! いつもの姿でいい! あのままの君でいて!!


 \キーンコーンカーンコーン/


「はい、一限目の授業はここまでー」

「うぇーい」

「テストには今日読んでもらった文章を原文で出すわよー。ちゃんと翻訳してね!」

「えー、やだー!」

「うふふ、田代くんは正直ねー。わかったわ、原文で出すのはやめて……現代語を原文に直してもらうことにするわ!」

「田代ぉ! 余計なこと言うんじゃねぇよ!!」

「ふざけやがってぇ!!」

「うわぁあああ、ごめんなさい! ごめんなさいぃ!!」


 ……ああ、畜生。上の空のまま一限目が終わってしまった。やばーい、どうしよー。ニポンの明日もやばいがこのままでは俺の成績も危うい。


『問題ありません。メモリミテート・ルームで再学習が可能です』


 やだ、小生やだ! もうあの部屋行きたくない!


「おー、どうしたコバヤシくん。今日は元気ないな」

「……何だ田中、今日も元気そうだな。妹の素敵な写真でも撮れたか?」

「撮ってねえよ!」

「田中は親が元猟師の写真家だからな、盗撮に目覚めるのも仕方ないな」

「安藤もひでぇな!?」


 へー、田中の親父って写真家なのか。元猟師ってのは見た目のイメージ通りだが、一体()を狩猟していたんでしょうね。その辺を詳しく聞く勇気はないけどさ……。


「ところでよー、コバヤシくん」

「ん? 何だ??」

「……ほら、あれだよ。あれ、前に言ってくれたじゃん??」

「へ??」


 はて、何のことかな。俺、お前たちが 頬を染めて何かを期待している雄の顔 になるような事を言った覚えはないんだが。てかその顔で頬染めんな田中、めっちゃ怖いわ。安藤もな。


「ほらー、あれだよあれー! 言わせんなよー!!」

「えー?」

「ったくよー、仕方ねぇなぁ。俺たちに言わせたいんだなぁ! このド畜生がよぉ!!」

「え、何のこと……」

「惚けやがってぇ……でも許しちゃう! よーし、勇気を出して言っちゃうぞー!!」


 え、何こいつら気持ち悪い。待って、お前ら頬を染めてどうしたの!? その眩い瞳は何!? ちょっと待って……俺に何を期待しているんだこいつら!? 俺たちはただのトモダチで……


「「例の池澤クリスタル女子学園の女子生徒の話、どうなってる??」」


 あっ、ありましたね! 勢いに任せてそんな出まかせ言いましたね!!


「あー、あれね!」

「そう、あれよ!」

「そうそう!!」


 どうにもならねぇよ! 話が決まるどころかフリスさんに頼んですらいねぇわ! こっちはそれどころじゃねえんだよ!!


「まー、慌てるな。向こうも色々と……」

「そうだな、慌てちゃ駄目だよなー」

「そうだな、慌てちゃあなー」

「うん、何せ相手はお嬢様たちだからね」

「でもよ、コバヤシ」

「一つだけ確認したいんだがよ」

「ん?」


 二人は俺の机に手を置き、目を見開いて言った。


「この前、俺たちに言ったこと……」

「「嘘じゃねぇよなぁ??」」


 >ウソです!!<


 ……と言いたいところだが、今のこいつらにそれを言ったら殺されそうだ! 何だ、こいつらの威圧感……田中は何か口からカココココとかいう変な音出してるし、安藤の目は何か色が変わってるし!!


「信用ないね?」

「コバヤシだからな」

「コバヤシだもんな」


 即答かい! ひでぇな!? ちょっとは信用しろよ……いや、嘘だけどさ。ちょっと傷つくわ。


『……』


 ねぇ、そこで黙りこまないで!? アミダ様くらいは俺の味方をしてくれよ!? 夢の中だし、別人の姿だけど熱く抱きしめあった仲だよ!?


「田中くん、安藤くん、彼を疑うのは良くないよ」


 さっきまで隣の席で本を読んでいた鈴木が二人を諭す。


「鈴木……」

「彼は君たちの友人だろう? 友人の言葉は信じてあげないと」

「そ、そうだな」

「確かに……」


 ありがとう、鈴木くん! なんて良いやつなんだ君は! 最近まで君とあんまり話したことなかったけど……今の言葉で一気に君が好きになったよ!!


「そうだぜ、田中ー、安藤ー! 俺を信じろよー!!」

「そうそう、僕だってコバヤシ君を信じてるからね」

「そうそうー……え?」

「紹介してくれるんだろう? ()()()()()


 鈴木くんは白い歯を輝かせながら、満面の笑みで言った。


「だよなー、信じないとなー!」

「いや、俺は最初から全幅の信頼を置いてるけどな」

「嘘つけ安藤ー、目が警戒色になってたぞー?」

「ははは、田中ー。お前こそ口から変な音なってたぞー?」

「はっはっは」


 >どうしよう!!<


 てかよく見たら鈴木くんが読んでるのは〈火炙りの世界史〉とかいうとんでもなくおっかない本じゃねえか! 休み時間になんて本を読んでんだこの宇宙人!! その本で得た知識を()()役立てる気だ!?


「ははは、俺に任せろー!」

「任せるー!」

「任せたー!」

「任せたよー!!」


 どうしよう、この三人だけじゃなくクラスの皆が俺に期待の眼差しを向けてくる。


 どうしよう! もし俺が前に言ったのが『全部ウソです!』とか正直に言ったら……


「だから、約束は守ってね? コバヤシ君」



 _ 人人 人人_

 > 殺される <

  ̄ Y^Y^Y^Y ̄



 サトコさんやアミダ様によると俺の身体は〈終末〉との戦闘時以外は()()()()()と変わらないらしい。つまり、こいつらが俺を殺す気で襲いかかってきたら……!!


『……』


 おい、何か言えよ! 諦めてんじゃねーよ、アミダ様! 俺が死んだらニポンが終わるんだよ!?



「右肩に日本の、左肩に馬鹿の……」-終-


NIPPON<KOBAYASHI>BAKA

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