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「親しき仲でも異常アリ」



「ちょっと、本当に大丈夫?」


「……うん、大丈夫。ごめんな……やっと頭が落ち着いてきたよ」


「もー、しっかりしなよ。アンタ、兄貴でしょー? だらしない兄貴とかマジで存在価値ないからね??」


 よし、頭が冴えてきたぞ。


 少し動揺してしまったが、何てことはない。何も問題ない。


 取るべき行動はたった一つだ。たった一つ……ただそれだけを今すぐに実行すればいいのだ。


「ふっ……」


 俺はカーテンを開き、ガラッと窓を全開にする。


 清々しい朝の空気をいっぱい吸い込み、温かい日輪の光を浴びて俺は微笑んだ。そして16年の人生で最ッ高の笑顔を浮かべ……


「よし、死のう!」


 俺は自室の窓から飛び降りようとした。


「ちょ、ちょちょちょちょ……ちょっと兄貴! 何してんのぉおー!?」


「ははは、離しなさい明衣子ちゃん。お兄ちゃんもう限界だよ、耐えられないよ」


 頭から地面に落ちようとする俺の体に抱きつき、明衣子は必死に説得する。


「だから何なのよ!? 一体、どうしたのよー!!」


「あははー、離せよー。俺もう今まで十分頑張ったと思うよ? 16年間頑張ってきたと思うよー」


「兄貴は頑張ったよ! すごい頑張ったよ! でも何で飛び降りようとしてんのよー!?」


 ああ、妹に抱きつかれるのはいつぶりだろう。小学生の時以来じゃないかな。ははは、大きく……なったな?



【……警告、警告、警告。コバヤシ・タクローのステータスに大幅な変化アリ】


 精神状態:『要注意』→『危険』……危険値。精神に重大な異常アリ。安定剤(エリクシル)の即時使用を要求。自殺の可能性大。


【……警告、警告、警告】



 おっと視界に赤い文字で 自殺の可能性大 と表示されているぞ?


 成る程、この視界の文字は今の俺の状態を知らせてくれているのか。凄ーい、SFの世界だぁー!


 ふふふ、その通りだよ。俺は今から二階の窓からフライアフェイ! 地面に向かってダイブ! 超エキサイティン!!


「離してよー、死なせてよー」


「駄目だってー! ここから落ちても()()()()()()()()だけど死ぬなんて言わないでよー!!」


「ははは、大丈夫ー。ちゃんと頭から落ちるからー」


 『正体不明のナニカが町に降り立つ夢を見た』……それはまだいい。


 『俺の体が怪物になった』……それもまだ許す。


 『妹が猫耳少女になった』……



 _ 人人  人人 _

 > 認められるか <

  ̄ Y ^Y ^ Y^ Y  ̄



 もうおしまいだよ、夢で猫耳生えた可愛い妹の姿を見ちゃったら。兄様として失格だよ。もう死ぬしかないよ。


 お母さん、今からそっちに行きます。


 親父、先立つ愚息をお許し下さい。明衣子をお願いします。


 明衣子、ごめん。今まで言わなかったけど……俺、お前のこと本当に大事に思ってたんだ。


「明衣子、幸せになるんだぞ。あと山崎には絶対に近づくな、奴はクズだ」


「兄貴ぃいいい! いい加減に目を覚ましてぇえええー!!」


「一体、どうした!? 何があったんだ!?」


 あー、親父まで来ちゃったよ。あーあ、やだなぁ。早く飛ばなきゃ……早く……。


「お父さん! 兄貴が……兄貴が変になっちゃった!!」


「何だって!?」


「オヤジ、ごめん。俺今から……」


 俺は親父の姿を見た。


 一瞬だったが……その一瞬が俺の繊細な心を完膚なきまでに打ち砕いた。


「落ち着け、お父さんの顔をよく見ろタクロー! 昨日、学校で何かあったのなら話してみろ! お父さんがちゃんと聞いてやるから……!!」


 心配して声をかけてくれた親父はまるで小さな子供向けの玩具のような、子供向け教育番組に出てくるキグルミのような、極限までシンプルなデザインにディフォルメされたエプロン姿のロボットになっていた。



【……危険、危険、危険。コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ】


 精神状態:『危険』→『限界』……限界値。精神に重篤な異常アリ。自殺五秒前。


【……精神安全装置、作動。コバヤシ・タクローの精神活動を強制停止……】


【……完了……】



 もう……ゴールしても、いいよね?



【……】


【……】


【……コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ】


 精神状態:『限界』→『注意』。精神が限界値から注意にまで回復。精神的安定性に問題アリ。安定剤(エリクシル)の使用を提案。


【……状態の回復に伴い精神安全装置解除……完了。精神活動再開】


【……コバヤシ・タクローの意識回復まで残り……】


【……3……2……1……】



「……あっ」


「もー、朝から驚かせないでよねー。クソ兄貴ー」


「コラコラ、女の子が『クソ』をつけちゃ駄目だぞ」


 気がつくと一階に降りて妹と親父の三人で食卓を囲んでいた。


「……じゃあ、バカ兄貴」


「うん、的確な表現だ。えらいぞー」


「……」


 えーと、あの後どうなったんだっけ。


 あ、いきなり現れたエプロンロボ魔人を見て思考停止したんだった。何かエプロン付けてたし、親父の声で喋りだしたからね。あー、びっくりしたー。


 ところでどうやって一階に運ばれたんだろ?


 記憶にないです。いつの間にか制服に着替えて鞄まで持ってきてますが、記憶にございません。俺に何があった。


「タクロー、ちゃんとごはん食べなさい。朝ごはんは一番大事なんだぞ?」


 だから親父の声で喋んなよ、エプロンロボ!


 口が無いのにどっから声出てんだよ! どうやって飯食うつもりだよ!?


「……」


「どうした、お父さんの顔に何かついてるのか?」


 ああもう、わかったよ。認めれば良いんだろ!?


 認めますよ、この雑なお手軽超合金エプロンロボが親父だって言うんだろ!? 畜生、一体何が起きてるんだよ!!


「いいよ、もう放っておこうよ。バカ兄貴は()()()を見て変になっちゃったんだよ」


「それは困ったな……治るかな?」


「わかんない。治らなかったら……ちょっと大変だよね」


 何で二人とも冷静なんだよ! お前ら姿変わってるんだよ!?


 明衣子は猫耳生えて青少年の何かが危ない存在になってるし、親父はコレジャナイ超合金ロボになってるし……


 俺なんか学ラン姿の怪人になってるんだよ!? 特撮変身番組の主人公がスーパーパワーに適応出来ずに変身失敗しちゃったみたいな感じの! 良い子にトラウマを刻みかねないお姿よ!?


「……あのさ、聞いていい?」


「あ、目が覚めた? じゃあいただきますしよっかー」


「ええとさー、あのさー」


「どうした? まだ目が覚めきってないのかタクロー」


「俺の顔、なんか変じゃね??」


 変なのは俺だけじゃないけどね。でも聞かずにはいられない! 聞かないといけない気がした!!


「兄貴の顔はいつも変だよ」


 >そしてこの返事!<


 妹よ、ああ血の繋がった大事な妹よ。兄様の深刻な悩みをその一言で終わらせるのか。


「……変なのはお前もだよ? 頭にピコピコした変なのが付いてるぞ」


「変なのって言うな! 遺伝なんだからしょうがないじゃん……ていうか今更何言いだすのよ!?」


 誰の遺伝だよ!!


 おかしいだろ、誰の遺伝子受け継いだら猫耳生えるんだよ!?


 母さんか、母さんの遺伝子か!? 嘘つけ、俺達の母さんに猫耳なんて 罪深い物 生えてねえよ!!


「こらこらお前たち、食卓で喧嘩するのはやめなさい。お父さん怒るぞ?」


「喧嘩じゃないってば! もー、今日の兄貴ほんっっとうに気持ち悪い!!」


「まぁ、タクローの気持ちもわかる。やっぱり16歳になっても変だと思うんだな……その顔」


「今のアンタにだけは言われたくねぇぇぇぇー!」


 俺は食卓をバンと叩いて叫ぶ。叫ばずに居られるか! 親父の顔が一番変なんだよぉぉー!!



「親しき仲でも異常アリ」-終-


\KOBAYASHI/

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