「僕だけがふつうのクラス」
ナンバーワンよりノーマルが一番
「おーっし、お前達ィ! 体力テストだぞぉー!!」
1限目の英語、2限目の数学、3限目の国語に続く4限目の体育。いつぞやの木刀ゴリラがグラウンドをバシーンと叩く。
「わーい」
「おふーい」
「やだー」
「もっと気合を入れろ、コラー! 楽しい体育の時間だぞー!」
バシィーン!
うーん、暑苦しい! 今時珍しい熱血系教師だー! やだーっ!
「まずはその前に柔軟体操ゥー! ほい、いっちにー! いっちにー!」
「いちにー」
「いちにー」
「もっと気合入れろー! ちゃんと体操しないと体壊すぞぉー!? ほい、いっちにー! いっちにー!」
「さんしー」
「さんしー」
俺はクラスの皆と一緒に死んだ目で柔軟体操をする。気合たっぷりのキレッキレな動きで体操するゴリラとは対照的に墓場から起きたてのゾンビが如くフラフラと体を揺らす。月曜からこれはキツイなぁ……せめて火曜日にしてくれよ。
「よーし、しっかり体をほぐしたな! じゃあ早速ハンドボール投げだぁ! コバヤシィー!」
「え、俺ェ!?」
「当然、お前だぁ! ほら、ボールを持ってぶん投げろぉー!!」
トップバッターはまさかの俺! あれ、出席番号は!? 名前順は!? どうしてコバヤシから始まっちゃうの!?
「何で俺からなの!?」
「何でって前からそうだろぉ!?」
「ぬぐぐ……!」
「おら、ボールを投げろぉ! 2回投げていい距離の方を記録するぅー!」
しかもボール投げから始めるの!? 普通は握力とか前屈からじゃない!?
「あーもー、仕方ねーなぁ!」
「キャー、コバヤシサーン!」
「カッコいい所見せてー!」
「お隣さんまでボール飛ばしちまえぇー!!」
えぇい、こうなったらコバヤシ君の力を見せつけてやるよぉ! 俺の身体に秘められた圧倒的パワーを前に平伏すが良い!!
「ふぬぉおおおおおおおっ! ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇ────っ!!」
「「「うおおおおおおーっ!」」」
俺は右腕にあらんばかりの力を込め、全力でボールを投げた!
「……はい、記録は47.6mね」
「解せぬ!」
淡々と飛距離を記録するゴリラの前で俺はがっくりと膝をつく。
ちょっとー! ここはぶっちぎった記録を出そうよぉ! ほら、訓練の時みたいに腕をバシャッと変形させてさぁー! 最低でも人類新記録くらいは出そうよぉー!!
『日常態ではそこまで逸脱した身体能力は発揮出来ません。記録を伸ばしたいならトレーニングで身体を鍛えてください』
「何でや!!」
夢も希望もないアミダ様の言葉に俺は突っかかる。
「トレーニングなんざ夢の中で十分だってーの!」
「おりゃァァァーっ!!」
ブゥゥン!!
「うおおーっ! すげーっ!!」
「90mは行ったんじゃねーか!?」
「やるじゃねーか、安藤ぅ!!」
「何っ!?」
俺の次に投げた安藤は俺の記録を軽々と越えて90mを記録。
「……ふっ」
安藤は不敵に笑って俺を挑発した。
「……俺はあいつに負けるのか」
「安藤はそこそこ運動神経いいからな。ほら、コバヤシは向こうで座ってろ」
「ぬうぅ!」
「おらぁぁぁーっ!」
ブォンッ!!
「ひょーっ!」
「また凄い飛んだなぁ、オイ!!」
何たる屈辱! ああ、何たる屈辱! ニポンを二度も救ったこの俺があの畜生蜥蜴に負けるとは……!!
「ぬうううううん!」
メキ、メキィッ!
「おおおおおっ!?」
「やべぇ、握力計が悲鳴を上げてやがる!!」
「ヒューッ!」
……握力測定で竹山が500キロを記録。俺は65キロで大敗……勝てるか!!
「デュワァァァーッ!」
ズシャァァァ!
「ほおおおーっ!」
「立ち幅跳びだぜ!? あんなに飛べんのかよ!?」
「真田すげぇぇーっ!」
……続く立ち幅跳び。真田が8mの大記録を樹立。対する俺の記録は2m85cm。
「ふんふんふんふんふんふぅん!」
ズダダダダンッ! ズダダダダンッ!!
「うおおおっ、田中スゲぇ!」
「まるで分身しているようだ!」
「すげー、気持ち悪い動きだなぁ!」
……その後の反復横跳びで田中は人間離れした気持ち悪い動きを披露。記録は俺の80回を大きく上回る400回。
「はははははははっ!」
シュタタタタッ!
「はええええっ!?」
「なんだ、あのスピード!?」
……50m走では鈴木君が3.5秒というぶっちぎった記録を残す。ちなみに俺は7秒ジャスト。
「……どういうことなの」
全ての測定が終わり、俺は自分の記録に首を傾げていた。
『以前から特に変化がありません。正常です』
「……いや、普通すぎない? 俺、ニポンの平和を託されてるんだよね? こんな記録でいいの?」
結果は良くも悪くも普通。丁度クラスの真ん中あたり……前の世界と変わらねえんだけど。おかしくね?
「ふふふ、どうだねコバヤシ君。俺の身体能力は。これならメイコちゃんを任されても」
「寝言は寝てから言え、怪人カニ男が」
「カニ!? おい、誰がカニだよ! ハゲバヤシが!」
「誰がハゲバヤシだ、てめー!!」
……田中の身体能力はクラスでも最上位に位置していた。そういや向こうでも無駄に身体能力は高かったな、コイツ。
「よーし、結果が出たな! チャイムが鳴るまで少し時間があるが、教室に戻ってよーし!!」
「やったぁぁー!」
「あー、疲れたぁん! 横田ァ、午後ティー買ってこいやぁ!!」
皆がぞろぞろと教室に戻っていく中、俺はグラウンドに残る。
「……はぁ、何とも言えねぇ気分だわ」
『一番になれば満足だったのですか?』
「いや……うーん、どうだろう。微妙なところだ」
誰かが拾い忘れたボールを拾いあげ、俺は遠くの空を見つめる。
「まぁ、アイツらに凄い所見られても嬉しくもないしなっ」
俺は大きく振りかぶり、青い空目掛けてボールを投げようとした……
【……能力抑制コード《01》を解除……】
「あ?」
バシャンッ!!
ボールを投げる瞬間に俺の腕が変形。青い光を纏わせながらボールを遥か空の彼方までぶっ飛ばした。
……キラーン。
「……」
『大気圏を突破する前にボールはプラズマ化しました』
俺は雲を突き抜けて輝くお星さまとなったボールを唖然と見つめる。変形した腕はすぐに元に戻り、腕を覆っていた青い光もスウッと消えた。
【……能力抑制コード《01》を起動。コバヤシ・タクローの能力再抑制……完了】
ビリビリと痺れる右腕を擦り、俺は恐る恐る後ろを振り返る。木刀ゴリラはヒューッと口笛を拭いて空を見上げていた。
「……せんせー、今のは」
「今のは測れねえから記録ナシな。それとボール一個失くしたから減点ー」
「何でだよ!?」
「はっはっ、本気出したお前が凄いのは皆が知ってるよ。そうムキになるなって」
「……」
「ほら、お前も教室に戻れ。もう昼休みだぞー」
笑いながらグラウンドを去っていくゴリラの背中を俺は何とも言えない気持ちで見つめる。
『抑制コード《01》を解除した時点で貴方に勝てる生物は存在しません。不用意に解除しないでください』
「何で解除できたの!? 俺は空に向かってボールを投げただけで……!!」
『……原因は不明。想定外の事態です』
「ふざけんな!!」
人類新記録がどうとか言うレベルじゃない圧倒的パワーを目の当たりにして、俺はすぐに考えを改めた。
……うん! やっぱり普通が一番だよ、普通が!!
「僕だけがふつうのクラス」-終-
++≡:・*・..。 \KOBAYASHI/ \ごりら/




