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「メモリミテート」

誰だって良い思い出に浸りたいものです。

「な、何だ!? アミダ様か!?」

『……』

「ううん、違うよ。ボクはボクだよ」


 俺はアミダ様が勝手に出てきたのかと思ったが、クスクスと笑う女の子の顔を見てすぐに別人だと気付いた。


『……あ、t、、』

「!?」

【……ァ✛✛✛級>あ、tri,<権限によって、本機能……】

「おい、急にどうした!?」

【……】

「お、おい! アミダ様!?」


 女の子が現れたのと同時にアミダ様の様子がおかしくなる。視界に意味不明な記号や文字が表示され、ついにアミダ様は何も反応しなくなった。


「ふふふ、ごめんね。今は二人きりでいたいから……その子には黙ってて貰うよ」

「なっ!? だ、誰だ、アンタ!?」

「んふふっ、誰かな?」

「……あれ、アンタ……何処かで」


 白い髪に黄色い瞳。そして人間離れした白い肌……同じだ。夢に出てくる女の子と全く同じだ!


「お、お前っ! 夢の中に出てきた……」

「ふふ、思い出してくれた?」

「な、何だよ! どうやって俺の部屋に入ってきた!?」

「どうやって? ふふっ、知りたい?」

「え、な、何……ちょっ、近い近い近い!」


 女の子は挑発的な笑みを浮かべながら俺に迫る。そして白い手を伸ばし、焦りまくる俺の頬に触れた……


「えっ!?」


 だが女の子の手は頬を突き抜け、続けて彼女の全身がするりと俺の体をすり抜けた。


「はっ!?」

「驚いた? こうやって入ったの……ふふふっ」

「な、何だよ……お前、一体何なんだ!?」

「……お前なんて言わないで。君にだけはそんな呼び方されたくない」

「!?」

「アトリ……ボクの名前はアトリだよ。タクロー君」


 白い髪の女の子は俺の耳元でそう言った。


「あ、アトリ!? まさか、あの時にフリスさんの身体を操っていたのは……!!」

「ふふふ、そうだよタクロー君。ところで、()()()()()()()?」

「えっ……?」

「ボクの姿を見て何か……思い出したことはない?」

「な、何がだよ?」

「……やっぱり、駄目かぁ。せっかく声も届いて、ボクの姿も見えるようになったのに……」


 アトリは俺の耳元で深いため息をつき、肩の上に顔を乗せてブツブツと小言を呟いた。


(っていうか、アミダ様はどうしたんだよ!? 急に黙り込んで……見るからにヤバそうな奴が目の前に居るんだぞ、何か反応しろよ!!)


「無駄だよ、その子は今 眠ってるの。起きていたとしても、彼女にボクは見えないけどね」


 心が読めんのかよ! 本当にこの娘は一体何者だ!? 可愛いけど得体が知れないし、なんだか全てを見透かされているような不気味さを感じる!


「ふふふ、ありがとう タクロー君。嬉しいよ……君にまた可愛いって言って貰えて」


 そして彼女は何故か俺の名前を知っている! 何故だ、俺はアンタに自己紹介した覚えはないぞ!?


「自己紹介なんて必要ないよ。だってタクロー君だもの」

「だから勝手に俺の心を読むな! 何から話せばいいのかわからなくなるだろ!!」

「話さなくてもわかるよ、君はあの世界に帰りたいと思ってる」

「!」

「でもね、タクロー君。何度も言うけどそんなものは無いの。君の居場所は此処にしか無いの」


 アトリは俺の目を切なげに見つめながら言った。


 ……そんなものはない? いやいや、ありましたから! 俺はこの前までその世界で模範的な一介のモブやってましたから!!


「その記憶(おもいで)は、君のものじゃないのよ」

「……は?」

「それは()()()()の記憶。君のものじゃない」

「え、どういう意味だよ……俺がその小林拓郎で」

「……もう、困った人だなぁ」

「俺が……ッ!」


 むぎゅっ


 思わず後ろを振り向いた俺はアトリに抱きしめられ、彼女の胸に顔面を優しくホールドされた。


「むおっ!?」

「此処が君の世界で、君のラクエンよ」

「ちょ、ちょっと、アトリさっ……むあああっ!」

「遠い記憶(おもいで)に囚われないで、忘れないで。君は……」

「とっ、とりあえず離して!? おっぱ……じゃなくてっ!」

「君は、ボクの大事なヒト……ボクの……」

「むあああーっ! いい加減に離せってぇー!!」


 俺がアトリの抱擁から強引に抜け出そうとした時、彼女はもう部屋から姿を消していた。


「ハァ……ハァ……何なんだよ、一体あいつは何なんだよ!!」


 小林拓郎の記憶……? 思い出……? 意味のわからんことばっか言いやがって……本当に何者なんだあいつは!!


【……ァ✛✛✛級>あ、tri,<権限による、、、状態解除……】


【……再起動……完了】


 アトリが消えるとアミダ様が再起動する。


『おはようございます』

「おはようございますじゃねぇぇぇーっ!!」


 呑気におはようございますとか言うアミダ様に俺は思わず突っかかった。


「ふざけんなよ、お前! スリープモードなんて搭載されてないんじゃなかったのかよ!? しっかり寝てんじゃねーか!!」

『……本来搭載されていない筈の機能です。データベースにも登録されていません。私の権限では発動できません』

「クソァ! あー、もういい! もう疲れた! 昼寝だ、昼寝ーっ!!」

『……』

「俺は今から昼寝するからな! 邪魔すんなよ!? 絶対に邪魔すんなよ!?」


 色々ありすぎて頭がオーバーヒートを起こした俺はベッドに寝転んだ。そして固く目を閉じて意識と思考を手放そうとしたが……



『此処が君の世界で、君のラクエンよ』



 アトリの言ったその言葉が、暫く俺の頭の中にこびり着いて離れなかった。



《……》


《……き、て……》


 闇の中で誰かの声が聞こえる。


《おき、て……sい……》


 誰の声だろう? まだ俺はもう少し寝ていたいんだ。もう少し……


『起きてください』


 ドスッ!


「ぶるぁぁぁぁっ!?」


 声を無視して寝ようとした俺の腹に鋭い貫手が叩き込まれる!


「ぐぶぉっ! な、何だよ!? せっかく人が気持ちよく昼寝を」

『そんな時間はありません』

「はぁ!? 昼寝する自由くらいくれよ……ってあれ? アミダ様?」


 情け無用の貫手で俺を目覚めさせたのはアミダ様だった。


「お前は俺への物理攻撃(ダイレクトアタック)まで出来るのかよ!?」

『残念ながら私にそのような機能はありません。私が干渉可能なのは貴方の意識と身体機能の一部のみです』

「あれ、でも……」


 ふと周りをよく見ると一面真っ白な謎空間。四角いブロックのような物体がふわふわと宙に浮き、窓のない真っ白いビルみたいな物が規則的に並んでいる。


「……此処は何処だ?」

『此処は私と貴方が共有している擬似交流意識空間〈メモリミテート・ルーム〉です』

「は? 何だって? メモリ?」

『メモリミテート・ルーム。簡単に説明しますと、貴方の脳内で擬似的に再現された意識と記憶を保ったまま自由に行動できる夢の世界です』

「……なるほど?」


 ふと好奇心に突き動かされ、俺はアミダ様に近づいてマジマジと彼女の身体を観察する。


「つまり、これは俺の頭の中で再現された夢みたいなもので……俺の身体はまだ寝ていると?」

『はい』

「じゃあ、俺の目の前に立っているアミダ様も夢みたいなものなのか?」

『はい』

「ふーむ……」


 しかしエロい身体してますね、アミダ様! フリスさん並の抜群プロポーションに下乳全開のエロ衣装! 一体、誰が何のためにこんな服作ったの!?


『何か?』

「いや、別に。それでこんな所に俺を呼び出した理由は?」

『訓練の為です』

「へ?」


 アミダ様はそう言って俺から距離を取る。


『この〈メモリミテート・ルーム〉での体感時間は覚醒世界と大幅に異なります。その差はおよそ100倍。此処で100分経過しても覚醒世界では約1分しか経過していません』

「へー……そうなんだ」

『また、此処での経験はまるで実体験のように貴方の記憶に正確に記録されます』

「なるほど……」

『もうおわかりですね?』

「わからねえよ!?」


 アミダ様は一度だけ瞬きした後に無表情で腕を組む。


『つまり此処は貴方の再学習や戦闘訓練に最適な空間ということです』


 瞳の色を澄んだ青から鮮やかな赤に変え、俺に鋭い視線を向けながらそう言った……



 ◇◇◇◇



「兄貴ー、お父さんがおやつにしようーって……あれ?」

「……ぐがぁぁぁ」


 メイコがコバヤシを呼びに部屋に入るが、彼は大きなイビキを立てて爆睡していた。


「もー、せっかく叔父さんからいいお菓子が送られてきたのに」

「おーい、タクロー!」

「兄貴は昼寝してるよー。もう放っといて二人で食べよー」


 バタン。


 ドアを閉めてメイコは一階に降りる。彼女には大きなイビキをかいて寝ているように見えていたが……


「……ぐぁぁ……がぁぁぁ……っ、うぐぅぅうっ」


 良く見れば彼の寝顔はとても苦しげで、その声もイビキではなく呻き声だった。



「メモリミテート」-終-


\KOBAYASHI\Atri/

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