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「休日の正しい潰し方」

\KOBAYASHI/の休日は忙しい。

「じゃあ、31日に迎えに来るから」

「アッハイ」

「ありがとうございます、サトコさん」

「……わかっていると思うけど、コバヤシ君」

「アッハイ、何でしょうか」

「逃げちゃ、駄目よ?」


 サトコさんはそう言い残すと家まで送ってくれたヘリコプターに乗り、日本支部へと戻っていった。


 >逃げたいです!!<


 バタバタと音を立てて飛び去っていくヘリコプターを見ながら心の中でそう叫んだ。


「では私もこれで……」

「あ、ありがとうフリスさん。今日は色々助かったよ……」

「ふふふ、どういたしまして。ではまた明日、貴方を迎えに来ますね」

「うん、また明日ー」


 笑顔で俺に手を振って家に帰っていくフリスさんに癒やされながらも、俺はこんな事を考えてしまった。


(……フリスさんって一体、どんな娘なんだろう?)


 いや、紛うことなき天使だってのはわかる。笑顔が素敵で優しくて可愛くておっぱい大きくて献身的な、凡人が理想と掲げるガールフレンド像の集大成である事には何の疑いもない。


 でも、わかっているのはそれだけだ。


 『それだけわかればいいんじゃね?』『細けえことはいいんだよ』等と凡人ならば思うかも知れないが……そんなパーフェクト美少女とタクロー君がどうして仲良くなれたかって話ですよ。


 だって見た目は違うけどタクロー君は俺ですよ?


 こっちの世界の明衣子ちゃんや親父が違和感なく受け入れるくらいに中身は俺と同じなんですよ? 何であんな子と仲良くなれるのよ。おかしいじゃないの。絶対におかしいじゃないの!


 俺には16年間彼女はおろか女友達すら居なかったのに! なんでタクロー君にはフリスさんが居るんですか!?


「……解せぬ」

「あ、おかえり兄貴ー」

「ホアアッ!?」

「うわっ、何よ! キモい声出さないでよ!!」


 家の前で一人モヤモヤしているといきなり明衣子ちゃんが現れた!


「あ、すまん。ただいま……」

「どうしたの? 兄貴」

「うーん、ちょっとニポンの未来を背負わされて憂鬱な気分なの」

「いつものことじゃないの」


 そうね、いつものことね。流石、ニポンの守護神たるタクロー君の妹君だわ。言うことが違うわ。


「何かね、31日に」

「知ってるよ、凄い会議があるんでしょ? 毎月のことじゃないの」

「あ、そうですか……」

「そんなことより、さっさと家に入れば?」

「アッハイ……」


 それにしても明衣子ちゃんよ。確か僕、ドタマに注射器ぶっ刺されて運ばれた筈なんだけど『大丈夫だった?』の一言はないんですかね?


「……で、もう大丈夫なの?」

「ん?」

「……大丈夫ならいいよ、何でも無い」


 ……と思わせておいてからのさり気ない一言! やっぱり明衣子ちゃんは最高だよ!



【……報告、報告。コバヤシ・タクローのステータスに大幅な変化アリ。隠された特殊技能が発現】


 精神状態:『注意』→『平常+』。精神が注意から平常まで回復。軽い興奮状態。特定対象への愛情が急上昇。

 特殊技能:『シスコン』



 _人人 人人_

 > シスコン <

  ̄Y^Y^Y^Y ̄



 おい、待てや! 何だよその特殊技能は!?


 ちょっとやめてくれない!? シスコンだなんて不名誉な称号要らないんだけど!? 取り消せよ、すぐに取り消せよォ! 妹が目の前に居るんだぞぉ!?


「本当に何でも無いから、さっさと家に入れ! バカ兄貴!!」

『貴方のコバヤシ・メイコに対する親愛の情は殆どシスターコンプレックスの域に到達しつつあります』

「な、何だとぉ────!!?」

「はぁ!? 何よ! いきなり逆ギレすんな!!」

「えっ、あっ! 違う! 違うから!!」

「もう知らない! そんなに家の外が好きならそこに住んでろ、クソ兄貴!!」


 ゲシィッ!


「あだぁっ! ちょっ、待って……明衣子ちゃぁぁぁーん!!」


 ああっ! 違うんだ、誤解なんだって! 誤解なんだよぉおおおおおお!!



「……あー、くそー」


 明衣子に尻を思いっきり蹴られた俺はふらつきながら部屋に戻った。


「……おいアミダ様、本当にふざけんなよ? あのタイミングであれはねーだろ」

『冷静に分析した結果を報告しただけです』

「ていうか許可なしで話しかけんなってお願いしたよね? 何で普通に話しかけてくんの!? 設定変更したんじゃねーのかよ!?」

『必要だと判断した場合にのみ発言しています。現在の貴方の会話や思考パターンは不安要素の塊である為、発言回数が多くなっているのです』

「チクショーが! もういい、スリープモードだ! ずっと寝てろ!!」

『そのような機能は搭載されていません』

「クソァ!!」


 タクロー君はこのAIの辛辣な評価や血も涙も無い所業や言質の数々に耐えながら今まで戦ってきたというのか。俺はもう限界間近なんだけど……


 ん? 待てよ。そういえばタクロー君はいつからコイツと一緒なんだ?


「……なぁ、アミダ様。ちょっと聞きたいんだけど」

『何でしょうか』

「アンタはいつからタクローと一緒に居るんだ?」

『……』


 一緒に居るって表現は変かな? いつから組み込まれてるとか、搭載されたとかの方が正しいか。


『……私が貴方に搭載されたのは10年前。正確な時間は87558時間42分36秒』

「あ、そこまで細かく聞いてないから」


 ふーむ、10年前か。つまりタクロー君は6歳の頃からアミダ様と一緒だったのか……よく精神が持ったな。


「……そっか、長い付き合いになるんだな」

『……』


 アミダ様からすれば10年間ずっと見守ってきた相手がいきなり小林くんに入れ替わったって話に……なるのか?


「じゃあアミダ様は家族の次くらい……いや、体そのものに同居してるからそれ以上にタクローくんを知ってるのか」

『……』


 だとしたら、アミダ様がツンドラな反応をするのも当然か。そりゃ10年の付き合いのあるタクローくんの中身が俺になったらなぁ……


「……アミダ様から見て俺は、どんな感じかな?」

『コバヤシ・タクローに似ている知り合い未満です』

「いや聞きたいのはそういうのじゃなくてね! 『こいつ頼りねえな』とか、『こいつは嫌だな』とか、思ったりしてないかって事だよ!!」

『問題ありません。不安要素は存在しますが、貴方はコバヤシ・タクローとして必要な能力を既に持っています』

「ああ、そうですか! 嬉しいね、アンタからすれば俺がタクローくんに成り代わろうが、タクローくんの中身が俺に変わろうが全然気にしないって事ね!!」

『そういう訳ではありません』

「じゃあ、何だよ!?」

『フリス・クニークルスが貴方を信頼しているからです』


 ついカッとなって口調が荒くなっていた俺にアミダ様は言った。


「……」

『彼女だけでなく、明星天皇も貴方を信頼しています。あの二人が貴方を認めている以上、私にそれを拒絶する権限はありません』

「……そう言われてもよ、俺は小林拓郎なんだぜ? 俺は、違うんだ」

『貴方に関する情報は既に記憶領域から読み取りました』

「それでもか?」

『私に貴方を拒絶する権限はありません。私の存在意義は、貴方を補助する事なのですから』


 アミダ様は言った。おかしい事だと思われるかもしれないが、その時の彼女の声には人間らしい感情が宿っていた気がした。


「……そうか」

『私からは以上です』

「……心にブッ刺さるご意見どうも。お陰で今夜は寝れそうにねえよ」


 神様はこのまま俺にコバヤシ・タクローとして生きろと言っているのか?


(……そこまで、信頼されてるなら)


 俺はほんの一瞬だけそれでも良いかなと思った。


(いや、冗談じゃねえ。俺は戻るんだ、元の身体に……元の世界に!)


 だが、俺はすぐにその考えを振り払う。一瞬でも『それで良い』と考えてしまった自分が嫌で逃げるようにベッドに飛び込む。



『ではまた明日、貴方を迎えに来ますね』



 ……でも、元の世界にはフリスさんが居ないんだよな。


「……いやいや、フリスさんはコバヤシ・タクローの幼馴染だ。フリスさんはタクロー君とくっつくべきなんだよ! 俺には沙都子先生が居るからね! 元の世界には沙都子先生が!!」

「君は本当にあの世界に戻りたいと思ってるの?」

「当たり前だろ! だって俺は」

「そんなもの残っていないのに?」

「……え?」

「ふふふふっ」


 ふと声がする方を向くと、俺の隣に白い髪の女の子が座っていた。



「休日の正しい潰し方」-終-


\Atri/\KOBAYASHI/

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