「こんにちは、非日常」
そしてここから《彼》の物語が始まります。
さて、ここまで話せば俺が如何に平凡な一般的男子高校生であったかわかってもらえたと思う。
じゃあ、そろそろ本題に入るとしようか。
あれから俺の身に何が起きて、俺の平和な日常がどう変わってしまったのかを……
「うわぁあああああああ!!」
俺は叫びながら飛び起きた。
「はー……っ! はぁっ……! はっ……ぐっ!」
鼓動が激しくて胸が猛烈に痛む。息も切れて苦しい……何だ、何だアレは!?
「ばはー、べはー……ふー……ふー……ふぶっふ!!」
とりあえず深呼吸をして心を落ち着かせようと試みる……が失敗した。俺は激しく咳き込み、余計に症状が悪化する……
「はぅばー! へぶぁー!! うぼっふ……ふー……ふー……、あれ……ここは」
何とか気を落ち着かせて周りをよく見るとそこは俺の部屋だった。
整頓が苦手な俺は片付けるという選択肢を持たない。
なので、部屋は散らかり放題。机に至っては辛うじて勉強できるスペースが確保されているだけの物置きと化している。それなりに整えられてるのは今寝てるベッドの上くらい……おっと、いけないベッドの下から大事なエロ本がはみ出てる。急いで隠さねば。
「……あれは、夢か」
はみ出したエロ本をベッド下の安全域に戻し、俺はホッと一息つきながら呟く。まぁ超展開が現実に起きるわけないからな、常識的に考えて。それにしてもびっくりしたなぁ。
「くっそ……、目覚め悪っ。頭いてぇぞ畜生ー」
カツン。
痛む頭に手を触れると聞こえるはずのない音がした。カツン? 何の音??
「ん?」
待て待て、俺は何を触っている?
何だ、この固い感触は。人間の頭を触ってる気がしない……でも手が頭に触れているという感覚はする。
「寝る前に頭に何か被ったっけな……んー……」
そう言えば朝起きてから視界もちょっとおかしいな。
【起床確認……体調チェック……完了】
診断結果:『C-』……『不調』
【本日の簡易ステータス出力……】
登録名称:コバヤシ・タクロー
精神状態:『良好』→『不良』……精神の安定性に心配アリ。
学力:『C』→『E』……基本知識の大幅欠如アリ。必修科目の再学習の必要性大。異常アリ。
筋力:『B』→『B』……変化ナシ。
魔法力:『C-』→『D』……魔法力が低下。魔法発動に更なる制限がかかる可能性アリ。
技能:『英検四級』『危険物取扱丙種』『魔法物取扱丙種』……変化ナシ。
権限:『国内外用無期限旅行権』『国内外無制限航空券』『日本国宿泊施設無期限利用権』『調整者保有権』『終末対策局日本支部利用許可証レベル5』……変化ナシ。
何だろう、表現し難いんだが変な視界なんだ……視界に文字が出て、ゲーム画面の端っこにある小さなオプションパネルみたいなのが……えっと何これ。一体、どうなってるの?
「……ん?」
俺はふと自分の手を見た。そして思った。
>誰の手だ、これは!?<
あれ、おかしいよ!? 自分で動かせるから自分の手だろうけど、おかしいよ!?
この手のひら、生命線がありませんよ!?
生命線どころじゃねぇ、指紋がねぇ! ていうかもう人間の手じゃねぇ! 何か生身と機械的な部品が綺麗に融合したような……どっかの映画で見たサイバネスーツみたいな……そう、あれよ! あれ!!
俺の両手がサイボーグみたいになってる!
「どういうことなの!?」
……とりあえず自分の意志で体は動く。
頭を触るとカツンとかいう変な音が鳴る事とSFの世界からコンニチワしたようなデザインの両手に目をつむれば間違いなくこれは俺の体だ。
「……」
よし、ちょっと勇気がいるけど鏡の前に立ってみるか。何事もまずは確かめてみないとな!
俺は部屋に置かれた鏡の前に立ち……
「……ヴェアアアアアアアアアアアアアア!?」
数秒沈黙した後、絶叫した。
鏡に写るのは、見たこともない怪物。頭には髪がなく顔には鼻がない。というか、人間の形してない。白い仮面のような顔に大きく見開かれた青い目、触れる度にカツンと音を立てる鎧みたいに固くなった皮膚……
まるで特撮ヒーロー番組に出てくる敵怪人のような恐ろしい怪物がパジャマ姿で立っていた。
「アアアアアアアアアアアアア!?」
そして、その怪物が他でもない俺自身だと理解し……
「ヴェアアアアアアアアアアアアアアアアアアア────ッ!!!」
俺は再び絶叫した。
【……警告。コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ】
精神状態:『不良』→『注意』……注意。精神に問題アリ。安定剤の使用を提案。
【……警告】
すると視界にまた例の怪しい文字が現れる。
だが、今の俺にそんな細かいことを気にしている余裕はない。朝っぱらから大声を捻り出してごめんね、近所迷惑だよね。でも、許してね? だって、仕方ないじゃ
「うるッッさい! 朝から何て大声出してんのよ、バカ!!」
おっと明衣子さん。朝からバカですか、傷つきますよ。でも、許してね? だって仕方ないじゃない。
こんな姿になったのよ? お兄ちゃん、もうお婿さんにいけなくなったのよ?? ねぇ、聞いてよー。
「あばっあばばばばば、ぶばあばばば!!」
おやおや、おかしいな。変だな、上手く言葉にできないよ。
「ちょっ、何よ。どうしたの? 具合でも悪いの?」
「め、めめめめっ明衣子ちゃん、お兄ちゃん……こんな姿になっ」
それでも俺は何とか明衣子に状況を説明しようとした……
そして、目の前に立つ妹の姿を見て言葉を失った。
【……警告。コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ】
精神状態:『注意』→『要注意』……要注意。精神に異常アリ。安定剤の早急な使用を提案。
【……警告】
「こんな姿って……いつもの兄貴じゃん?」
「……」
「もー、何よ。怖い夢見たっていうの? だから何なのよ、知らないわよ!!」
「あー……」
「……兄貴?」
「あー! あー! あー!!」
「ちょ、どうしたの!?」
何ということでしょう。妹の頭頂部に、ピクピク動く畜生の耳が生えているではありませんか。
何ということでしょう。妹のおしり辺りから、フリフリ揺れる畜生の尻尾が生えているではありませんか。
何ということでしょう。朝起きたら妹に、猫耳と猫尻尾が付与されているではありませんか。
>妹に猫耳と猫尻尾が付与されているではありませんか<
「こんにちは、非日常」-終-
>KOBAYASHI<