「知らないオトモダチ」
相手に忘れられるのもキツイですけど、自分が相手の事覚えていない場合も中々堪えますよね
「じゃあ、私はこれで。謁見の時間までに食堂で何か食べておくのよ。ああ、それと二重丸が入っている子は特によく覚えておきなさい?」
「えっ、あの……サトコさん!? あの~!!」
「……それと、コバヤシ君」
「アッハイ!」
サトコさんはドアの前で立ち止まって俺に言う。
「貴方は明星天皇陛下のことを覚えているかしら?」
「え? 明星天皇……ですか? いえ、全然……覚えてません。というか、元々天皇様なんて会えるもんじゃないですし」
「そう……そうよね」
「さ、サトコさん? あの……」
ガチャッ
俺の言葉を聞いて魂が抜けるような溜息を吐き、サトコさんは部屋を出ていった。
「えっ、ちょっ……サトコさぁぁーん!!」
オイオイオイオイ、詰んだわコレ!
いきなりこんなもん渡されても困るよ! ていうかいきなり世界の運命を左右するような会議に出てくれとか、天皇陛下に会えって言われても混乱するしかねぇよ!!
『……』
ああっ、アミダ様! 助けて! 今すぐ僕をお助け下さい! 本当にどうしようもないですよ、コレ! 僕には世界の運命なんて重すぎますよぉ!!
『問題ありません。貴方は世界の運命を背負うに値する存在。明星天皇も貴方を誇りに思っています』
問題アリだよ、何言ってんの!? 第一、俺は別人で……
『貴方はコバヤシ・タクローです』
お前、俺の記憶を覗いてんじゃねえのかよ!? その上でまだ俺をタクロー君だと思ってんの!?
『はい』
『はい』じゃねーよ!!
「くそがぁあー! ほんとふざけんなよコラ!! 小林くんにも出来ること出来ないことはあるんだぞぉ!? あの沙都子先生似のパチモンお姉さんめ……ちょっとおっぱい大きくて凄い美人だからって調子に乗っ」
ガチャッ
「ひぃああっ!? ごめんなさい、今のは冗談です! ちょっと頭が混乱しちゃって……!!」
「大丈夫ですか、タクロー!」
ドアを開けて入ってきたのはフリスさんだった。
何だ、フリスさんか。良かったー……うん、僕は元気だよ! ところで君の手違いで僕の頭に穴が空いたらしいんだけど、どういうことなのかな?
「何とか大丈夫みたいです」
「よ、よかった……あのまま貴方が死んだらどうしようかと……!」
「それはつまり俺を死なせるつもりだったってことかな?」
「ち、違います! 貴方が暴れるから……私もちょっと混乱して……!!」
「そ、そうだったんだ……ごめんね」
君の前で俺が暴れるって……マジで何があったんだ?
『映像としてデータベースに記録済。脳内再生しますか?』
あ、やめて! 謹んで遠慮させて頂きます!!
「も、もう落ち着いたから大丈夫だよ!」
「よかった……!」
フリスさんは心の底から安心したような、素敵な笑顔を見せてくれた。あー、癒やされるわぁ。本当に俺のこと心配してくれてるんだな……ありがとう、ありがとうマイエンジェル。
「だからさ、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「はい、何でも言って下さい! 私、タクローのお願いなら何でも聞きます!!」
>何でも!?<
おいおいおい、男子高校生に向かってそれは言っちゃいけないよフリスさん。本気にしちゃうよ? あんなことこんなことお願い……したいと思ったけど既に割と凄いことされてたわ。うーん、アレ以上となるとそれは……
『……』
冗談だよ? 本気にするなよ、アミダ様? 流石にこの非常時にアホなお願いしたりしないよ?
「……タクロー?」
「あ、ごめん。頭がボーッとして」
「えっ!? だ、大丈夫ですか!!?」
「うん、今は大丈夫。それで、お願いなんだけどさ……」
「はい、タクロー!」
ううっ、そんな何かを期待しているような目で俺を見ないで!
【コバヤシ・タクローのステータスに大幅な変化アリ】
駄目だ、やっぱりこの子は危険だ! だ、だが俺が言いたいのはアホみたいなお願い事じゃねぇ……俺の命、しいてはこの国の命運がかかっている重要な事だ!!
「このリストに乗っている人達のことを教えてもらっていいかな?」
「えっ」
「その……俺とどんな関係だったかーとか。どんな話で盛り上がってたかーとか……」
「……」
「はい、だからお願いします……僕を助けてください!!」
>DOGEZA<
俺はベッドの上で深々と土下座する。
何たるブザマ……カワイイ幼馴染に頭を下げてお願いすることが〈顔も知らない誰かさん〉とタクローくんの交友関係だ。悲しいにも程がある!!
『……』
ああ、あのアミダ様まで絶句してる! あのツンドラAIまでもが俺の姿にドン引きしている!!
「何だか必死ですね、どうしたんですか?」
「……サトコさんに脅されてね。何か俺が下手をこくとニポンが危ないとか……世界の命運がとか……」
「なるほど……ふふふ、サトコさんらしいですね」
サトコさんらしいってどういう事ですかね?
俺にはあのサトコさんがどんな人かもよくわからないんですよね。とりあえず沙都子先生とは正反対の冷たい仕事女っていうイメージしかございません。
『……』
本当に何も言わなくなったね!? 俺、そこまでアミダ様に引かれるほど酷いこと言ったかな!?
「じゃあ、ええと……そのリストの写真をよく見て下さい」
「えっ?」
「じっと写真を見つめて……その人の事を知りたいと思ってみて」
「……」
俺はリストに貼られた写真の中から二重丸で囲まれている子を選ぶ。
お、この子可愛いな。すげえ、髪の色が銀色で目が水色だ。肌白いなー、妖精みたいだ。しかし写真を見ただけで何かわかるのか? いやいや、流石にそんな……
『被写体を〈優先個体情報特定対象〉と認識。〈探求者の眼〉を作動します』
>出来るんかい!<
お前、マジでふざけんなよ!? 出来るなら最初から言えや! 俺は何のために土下座したんだよ、このツンドラ畜生AIが!!
『対象の個体情報の簡易出力を開始します……』
あっ、ちょっと待って! スリーサイズは隠しておいて! 本当に必要な情報だけにして!? ちょっ、あーっ! あーっ! あーっ!!
「……何か、色んな情報が出てきました」
見てない、見てないよフリスさん。僕はこの子のスリーサイズなんて見てないからね。
「本当に凄いね、タクローくんの目。もう完全にSFの世界だよコレ……」
「ふふふ、でしょう? タクローは凄いんですよ」
「ええと、ロシアの子? ロシアの子と仲が良かったの?」
「そうですよ、ロシアのサーシャさん。とても仲良しで……ふふふ。ちょっぴりヤキモチ焼いちゃうくらいでした」
「へ、へー……」
「後、タクローはこの人とも仲良しでした」
フリスさんが指差したのは同じく二重丸で囲まれた金髪の女の子の写真。
うおっ、この子も可愛いな……えーとアメリカ? ほほー、すげー綺麗な金髪だ。
「アメリカのキャサリンさん。サーシャさんと同じくらいに貴方と仲が良くて……」
タクローくんって思いの外グローバルなお付き合いがあったのね。
あと、リストに載ってる人を調べていく度にフリスさんの様子が変わっていくんだが……どうしたんだろう。
『……』
ねぇ、そこは教えてくれてもいいんじゃない? アミダ様??
「……この人は、気をつけてくださいね。油断すると」
「あの、フリスさん? 何か……様子が変だよ?」
「ふふっ、そうですか?」
俺はリストに載っている人達の事を全く知らない。だから、どうして彼女の様子が変わっていくのか俺には見当もつかなかった……
「……この人は賭け事が好きでよくタクローに怪しいゲームを持ち込んでいましたね」
フリスさんは写真と睨めっこしながら、世界中のオーバー・ピースについて話してくれた。
「ふふふっ、この人は女の人が大好きでよくナンパしてるんですよ」
「へー……」
探求者の眼を使えばオーバー・ピースに関する情報は調べられるが、彼らとの交友関係については全く掴めない。こういう時こそアミダ様に手伝って貰いたいところなんだけどー
『……』
はい、アミダ様はずっとこの調子です。肝心な時に補助してくれない癖に 補助機脳 を名乗るとは笑わせてくれる。
なので視界に表示される情報から重要そうなものをメモしつつ、フリスさんからその人とどういう関係だったかを教えてもらった。
でも何か……フリスさんの様子がいつもと違う。
「私が知っているのはこのくらいでしょうか……」
「あ、ありがとうございます」
普段は見せないフリスさんの一面にビクビクしている内に、いつの間にか昼の12時になっていた。
「そ、そういえばそろそろ昼飯時だね。この施設って飯も食えるんだっけ」
「はい、大きな食堂が一つとコンビニのような購買施設が三つほど……」
「じゃあ昼飯にしようか。色々と教えてくれたお礼に奢るよ、何でも好きなもん頼んでいいよ!」
「ふふふ、じゃあお言葉に甘えてー」
ここでフリスさんはようやく明るい笑顔を見せてくれた。うん、カワイイ。でも何だろう、凄い良い笑顔なんだけど……何かが怖い。
精神状態:『不良』
……ひょっとして彼女は他のオーバー・ピースと仲が悪かったりするのか?
『そんな事はありません』
ようやくアミダ様が口を開いてくれた。そうなんだ、良かった……
『貴方が彼女より彼らとの交流を優先する事を危惧しているだけです』
……えっ?
「知らないオトモダチ」-終-
\KOBAYASHI/\Frith/




