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「愛情イッパツ」

「もう限界だ、クソ親父ィイイイイー! この場で息の根を止めてやるぁあ────!!」


 ガシャァァーン!


「お、落ち着いてタクロー!」

「ヴェァアアアアアアアアアアアアー!!」

「や、やめなさい! お父さんだぞ!? 父親に向かって手を上げるとは何ごとだぁ!!?」

「流石に今回のは殺されても文句いえないと思うよ、お父さん……」

「野郎ォ、ぶっ殺してやぁぁぁぁぁぁる!!」

「タクローッ! 落ち着いてぇえーっ!!」

「うわぁあああああー!!!」


 フリスさんは食卓で暴れまわる俺に抱きついて動きを封じ、注射器を取り出して俺の首筋に刺そうとした……


「落ち着いて、くださぁ────い!!」

「ヴェァアアアアッ!」

「えっ、あっ!」


 ドスッ。


 だが、俺が突然振り向いた所為で手元が狂い、注射器は眉間に深々と突き立てられた。


【危険、危険、危険、危k……コバヤシ・タクローの、、に安定剤(エリクシル)、が侵 入……】


「あっ、ぱっぱっ、ぱっ……」

「あああーっ!」

「えっ、ちょっ……何かヤバイ所に刺さってるよ! ヤバイ所に刺さってるよ、フリスちゃんー!!」


【危険、k険、危険、危険……コバヤシ・タクローの】


 わはー、すごーいよく効くぅー! 頭にビビビッと来るぅー! アババーッ!!


「あっぱっぱっぱっぱっ」

「ああーっ! ごめんなさい、ごめんなさい!!」


 ズボッ!


「ちょっ、今はそれ抜いちゃ駄目だよフリスちゃーん!」

「あぁあああっ! ご、ごめんなさい! ごめんなさいー!!」

「うおおおおっ! タクロー! 大丈夫か、タクロォーッ!!」


 フリスさんは慌てて俺の眉間に突き刺さった注射器を引っこ抜く。傷穴からは血が凄い勢いで吹き出していたが不思議と痛みは感じなかった。


 むしろ何だか気持ちよくてほわーってした気分に……



【……危険、危険、危険……】


 >DANGER<>DANGER<>DANGER<


【……危険、危険、危険……】



 ひょっとして……僕、ここで死ぬのかな?


「ああ……ママン。お久しぶり……元気ですか、僕だよ……そうそう、息子の……」


 ビクン、ビクン


「ちょっ、やばいよお父さん! 兄貴が白目向いて痙攣してる! 救急車、救急車呼んでぇえー!!」

「うおおおー、タクロォオオオー! 死ぬな、お父さんより先に死ぬんじゃないぃー!!」

「ふああっ、ごめんなさい! ごめんなさいー! だから死なないで、死なないでぇー!!」

「え、ああ……親父? 元気だよー、妹も元気ー……うんうん。え、何? よく聞こえなーい」


 ビクン、ビクン


「タクローッ!!」

「だ、駄目だよフリスちゃん! 下手に身体を揺らしちゃ駄目だって……ああっ、ああーっ!!」

「私を置いていかないでぇえーっ!!」


 薄れゆく意識の中、泣きながら俺の身体を必死で揺するフリスさんを見つめながら……俺はうわ言で()()と話していた。


『駄目よ、拓郎。アンタはまだ、私たちの所に来ちゃいけないの……』


 誰かが俺に優しく語りかける……。あ、駄目だ……もう意識が……


『アンタには、まだやらなきゃいけないことが沢山あるんだから……』


 誰かの優しい声に包まれて、俺の意識は溶けていった……



 ────ブツン。


 ……


 ……


「……はっ!?」


 気がつくと俺は真っ白な部屋のベッドで寝かされていた。



【……コバヤシ・タクローの意識回復を確認。体調チェック……完了】


 診断結果:『C』……『不調』

 損傷判定:大→小。頭部及びメイン神経網損傷から回復。


【……】



「気が付いたかしら?」

「うおっ!?」

「貴方にはもっと自分の身体を大事にしてほしいのだけど……」


 サトコさんがベッドの傍にある椅子に腰掛けながら、呆れた様子で声をかけてきた。


「す、すみません。此処は……」

「日本支部の特別医務室よ。普通の医者に貴方の体は診せられないから……」

「え、俺……どうなったんですか? 記憶が曖昧で……」

「別に、大したことは無かったわ。ちょっとフリスちゃんの手違いで頭蓋骨に穴が空いて、頭に直接お注射されたから少しだけ内部を洗浄しただけよ」


 それって重傷じゃない!?


 頭にお注射って……何があったの!? しかも内部を洗浄ってさらっと怖い言葉が聞こえたんだけど!?


『……命に別状はありません』


 本当に!? ちょっと意味深な間が気になるんだけど!?


「そ、そうすか……」

「何となく察しは付いていると思うけど、リミッターがかかっている状態の貴方は〈普通の高校生〉と殆ど変わらないわ。だから怪我もするし、無茶をすれば命に関わるのよ」

「……よくわかんない体ですね、本当に。ていうかこんなロボみたいな見た目してんのに、割と打たれ弱いんだな。痛覚とか普通にあるし……」

「当然よ、貴方は人間だもの……一応はね」


 一応……ですか。何か裏がありそうな言い方だなぁ。


 ていうかこの世界の人間の区別がよくわからないんですが、何から何までが人間扱いなんでしょうかね……。


『それを含めて今の貴方は基礎知識及び学業の再学習が必要です。このままでは進級が危ぶまれるどころか日常生活に支障を来します』


 断る!!


『進級が危ぶまれます。現時点での貴方の学力はE、小学生レベルです。再学習を』


 う、うるさい。俺は元々勉強が嫌いなんだ!


 そんな面倒な事しなくてもアミダ様が持ってる知識を全部俺にくれたらいいじゃないか! こう……脳に直接情報を書き込むとかさ! 色々と手っ取り早い方法あるだろう!?


『今の貴方に情報の大量書き込みを行うと更に深刻な不具合が発生する可能性があります。その要求には従えません。それに書き込みに必要な 脳の許容量 が不足しています』


 クソァ! やっぱり僕、このAI嫌い!!


『観念して再学習を』

「……と、とりあえず俺はもう大丈夫なんですかね?」

「ええ、もう大丈夫よ。流石にまた頭に怪我をすれば命の保証はないけど……」


 やめろ、嫌な予感がする! それ以上、何も言わないで下さい!!


「じゃ、じゃあ帰りますね……今日は日曜だし、ちょっと用事が」

「そのことなんだけど、貴方の身柄はもう少しだけ私たちが預からせてもらうわ」

「へっ?」

「確かに〈終末〉の反応はまだ確認されていないわ。でもね、もうすぐ月末が来てしまうの……」


 え、ゲツマツ? 〈終末〉以外にもなんか変なのが居るのか!? 冗談だろ!?


「え……何ですか、まさか〈終末〉以外にも〈月末〉とかいう化け物が!?」

「……笑えない冗談はやめて」


 アッハイ、スミマセン!


 でもそれじゃあ何で月末について意味ありげな発言したの!? 紛らわしいわ!!


「え、じゃあ月末に何があるんですか?」

「……問題はそこなのよ、特に()()貴方の状態を鑑みるとね。不安でしょうがないのよね……」

「ど、どういうことですか? ちょっと説明してもらっても……」

「月末には〈絢爛交歓祭(ダズリン・フェイト)〉という大規模な会議が開かれるのよ。世界中の終末兵器(OVER PEACE)を一箇所に集めてね……」


 へー、そんなのがあるんだ。なるほどなるほど、世界中のオーバー・ピースが集まるのね。



 精神状態:『不良』→『注意』



 マジかよ!? 行きたくねえ、絶対に行きたくねぇ!!


「そんなのがあるんですか!?」

「そうなの、コバヤシ君。この会議はとても重要なものよ……結果次第ではこの国、いいえこの世界の運命を左右するといっても過言ではないわ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……いきなりそんなこと言われても!」

「幸い、今日は4月28日……会議のある()()日までまだ時間があるわ。それまでに……」

「どうしろっていうんですか!? 俺、そんな会議に出席しても何もできませんよ! 学校のスピーチでもビクビクしちゃうくらいですよ!!?」

「だから、困ってるのよ。しかも今の貴方は彼らを忘れているわ……状況はとても深刻よ」


 そんな重要な話があるんならもっと早く……って無理だよね!


 昨日も今日も大騒ぎだったもんね!!


「ど、どうすれば……」

「その前に今日はまず貴方には会って欲しい方がいるの」

「え、俺に会って欲しい……? だ、誰ですか?」

「明星天皇陛下。この国の最高権力者にして指導者よ」


 天皇陛下ァァァ────ッ!?


「て、てて、天皇って……! 」

「そう、天皇陛下よ。くれぐれも失礼のないようにね」

「ま、待ってくださいよ! いきなりそんな人と会えって言われても!!」

「陛下との謁見は午後1時よ。時間が来たら貴方を呼ぶわ。その間、この資料に目を通しておいて」


 状況が読み込めない俺にサトコさんは黒いファイルを手渡す。


「え、何ですかこれ……」

()()()()()()終末対抗兵器(OVER PEACE)のリスト、丸印が入っているのは貴方と仲の良かった子よ。しっかりとチェックしておいて……」

「あ、はい……」


 あれ、殆どの人に丸印入ってるんだけど? ひょっとしてコバヤシ君は人気者だったの……?



「愛情イッパツ」-終-


((KOBAYASHI >Frith<  \OYAJINGER/\MEIKOCHAN/

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