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「全力健全少年」

我らが\KOBAYASHI/は圧倒的健全な青少年。いいね?

「おまっ、お前ェェェー!!」


 俺は思わずアミダ様に掴みかかろうとした!


 スカッ


 だが、俺の手はアミダ様の身体をすり抜ける。俺はそのまま勢いよくベッドにボフッと倒れ込んだ!


「ぬふぅっ!?」

『この姿は実体ではありません。この空間に模擬体(アバター)として投影しているだけの』

「うるせぇぇー! さっさとその姿をやめろぉぉー! 今すぐにぃー!!」

『何故ですか』


 何故かと申したか!!


 お前ー! 本当にお前ーっ! 誰の許可で俺の可愛い妹に化けてんだコラァァー! 明衣子ちゃんが俺の前で水着姿になるわけねえだろうが! ぶっ殺すぞコラァァー!!


 ぺたんっ。


 きゅっ。


 ぷりんっ。


 明衣子に化けたアミダ様を見たらそんな頭の悪い効果音が脳内再生された! 殺して! いっそ殺して! 僕もう耐えられない!!


「いいからその姿をやめろぉー!」

『……わかりました』


 アミダ様は再び姿を変える。夢の中の女の子、水着姿のフリスさんと明衣子に続いて変身したのは黒い巫女装束のような服を着た美少女だった。


「!?」

『この姿なら問題ないでしょう』

「誰だよ!?」

『これは私のデータベースに登録されている模擬体(アバター)の一つです。モデルとなった人物は既に死亡しています』

「……それはそれで嫌だな」

『でしたら』

「あーっ、あーっ! もうそれでいいよ! それで決定!」


 このまま行けば沙都子先生に変身しかねん! それだけは許さん! もう思い出の中でしか会えない恩師にまで化けられてたまるか! 沙都子先生が汚れる!!


『確認、設定を完了しました』


 それにしても誰だよ、この人。薄っすらと青みがかった長い黒髪を後ろで纏め、透き通る青い瞳に何処と無く明衣子や母さんに似通った顔立ち……


 そしてぽよんと弾む豊満な胸! フリスさんと同じくらいあるぞ!!


「……ぬぅ」

『どうかしましたか?』

「あ、いや……何でも無い」


 よく見たら凄い格好してるな!?


 下乳から臍下まで露出した黒い巫女装束の下から覗く眩しい素肌! 下着が見えそうで見えないギリギリのラインを突き詰めたような大胆なスリット入り袴風ミニスカート! 肩や腰などに着いた無駄にカッコよくてメカニカルなパーツ!


「……」

『どうかしましたか?』

「な、何でもねぇって! もうちょっと離れろ! 気が散る!!」

『わかりました』


 もう奥ゆかしさの欠片もねぇ変態エロ巫女コスチュームだよ! こんなの見せられたら神様も困惑するよ! 一体、何のための衣装だ!?


(……いかん! 心を乱されるな、相手はただのアミダ様だ! 精神統一! 精神統一だ! 精神統一ゥゥゥゥー!!)


 俺は深呼吸しながら精神統一し、奥底から込み上がってくるナニカを全力で抑え込む。


「……あのさ、アミダ様」


 そしてアミダ様の姿を極力見ないように気をつけながら彼女に話しかける。


『はい』

「……早速だけどお願いしていい?」

『私に実行可能な要求であれば何なりと』

「早く俺の中に戻れ!」


 俺は目を見開いてアミダ様に言った。


『何故ですか』

「何故じゃねーよ! 気が散るんだよ!!」


 さっきまで無表情だったアミダ様は初めて表情を変えた。


『しかし今の貴方はこの世界に関する知識が大幅に欠落しています。基礎知識に加えて世界情勢、生活、生物、道具の扱い方にまで及ぶ日常生活に必要な情報をほぼ失っています』

「そ、そりゃあ……俺は別人だからな。住んでいた世界が違うし……」

『それでは困るのです』


 アミダ様は俺の目をじっと見つめる。母さんの面影のある綺麗な顔で見つめられて不覚にもドキッとした。


『貴方はこの国の終末対抗兵器。この国の存続には貴方の存在が不可欠なのです』

「そ……そうらしいね」

『それなのに貴方には前例のない不具合が発生し、まるで別人のようになってしまっています。それも全くの別人ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()です』

「……」

『今のままの貴方では不安要素が多すぎます』


 確かにアミダ様の言う通りだ。何気なしに受け入れそうになっていたが、俺は小林拓郎だ。この世界についてまだ何も知らなさすぎる。そんな奴に日本の命運を託せるかと言われると……ねぇ。


『故に、貴方の不具合が回復するまで模擬体(アバター)を用いてサポートします』

「……はぁ、そうですか」

『他に何か質問はありますか?』

「んー、質問というか」


 ガチャッ!


「あ、おはようございます。タクロー」


 俺の部屋にフリスさんが入ってくる。ああ、俺を起こしに来てくれたんだね マイ・エンジェル! 今日も凄く可愛いよ!!


「お、おはよう」

「昨日はよく眠れましたか?」

「う、うん。よく眠れて目覚めスッキリだよ……」

「良かった。貴方の部屋から凄い声が聞こえたので、()()怖い夢にうなされているのかと思って……」

「ふおっ!?」


 俺の声は思いっきり部屋の外に漏れていたようだ! そりゃそうだよね! 思わず近所迷惑になるレベルで叫んじゃったからね!!


「あー、えーと……んーと……」

『心拍数の増加を確認。コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ』


 ひぃ、やめてぇ! 視界に表示されるのも相当気になったが、隣で声に出されるとダメージ百倍増しになる! これはキツイ!!


「? どうかしましたか?」

「な、何でも無いよ……」

「??」


 フリスさんが心配そうに俺を見てくる! おおぅ、顔が近い! そして可愛い! 眼福です、眼福ですぅ!!


『心拍数の更なる増加を確認』

「うぐぐぐ……!」


 でもアミダ様のKYステータス申告が思い切り邪魔をするぅ!


「何処か調子が悪いんですか?」

「な、何でも無いよ! 着替えるから先に一階に降りてて!!」

「あっ、はい……わかりました」


 思わず声を荒げてしまった! ああっ、違うんだ! 別に調子が悪いわけでも機嫌が悪いわけでもないからね!?


「すぐに着替えるからね!」

「……ふふ、それでは一階で待ってますね」


 フリスさんは少し寂しげにパタンとドアを閉めた。


「……なぁ、アミダ様」

『はい』

「そのね。俺の心拍数がどうとか、ステータスがどうとか一々口に出すのやめてくれない?」

『これは仕様です。私にはどうすることも出来ません』


 >仕様!?<


 何だよ、その仕様は! これだとまだ視界に文字が出てくる方がずっとマシだぞ!? 隣に下乳が眩しい黒髪美少女が居てくれるのは嬉しいけどさぁ!!


「も、もう一つ確認しておきたいんだけどさ……アミダ様の姿は俺にしか見えないわけ?」

『はい』

「……そうですか。じゃあ最後にお願いしたいんだけど」

『何でしょうか』

「もう出てこないで?」

『その要求には従えません』


 >従えや!!<


 アミダ様は『何いってんだコイツ』とでも言いたそうな顔で俺を見る。やだ、凄いムカつく! 可愛いのに中身アミダ様のせいで全てが台無し!!


「実行可能な要求なら何なりととか言ったじゃねえか!!」

『実行可能ですが、従えません』

「どうして!?」

『私の判断で』

「クソァ!!」


 俺は頭を抱えて数秒ほど悶絶した後、クソデカい溜息を吐いて立ち上がった。


「……はぁ。アミダ様、ちょっと後ろを向いてくれる?」

『何故ですか』

「何故って……今から着替えるから」

『問題ありません。このまま着替えてください』

「少しでも俺の意志を尊重する気があるなら黙って後ろを向けぇぇぇー!!」


 ……コバヤシ君は今までアミダ様とどう付き合ってきたんだろうか。


 俺は既に限界だよ。これからもコイツと過ごさなきゃいけないのかと思うと窓からダイブしたくなるよ。おかしいね、変だよね。普通は姿を自由に変えられる自我に目覚めた高性能AIとか余裕でヒロイン目指せるポテンシャルを秘めてるもんだけどね。


『後ろを向きました』

「……どうも」

『ですが、私の本体は貴方に搭載されているのでこの要求には何の意味もありません。結論から言うとこの状態でも私には貴方の行動が全て把握できます』

「……」

『貴方の思考も全てです』

「ぶふぅっ!?」


 このアミダ様は断じてヒロインになれぬとハッキリ言えますね!


「……ぇぇぇぇぇーい! じゃあ、せめて人前で出てくるな! 俺が一人になったり、夜寝る前にだけ出てくるのを許す!」

『わかりました』

「あと俺のステータス云々は口に出さずに俺の目に表示しろ! 余計な事は言わなくていいからな! 変に干渉されても困るから!!」

『わかりました』

「とりあえず俺がお願いしたい事は以上!」

『貴方の要求に最適な設定に変更。以後、この設定をデフォルトとして登録します』

「勝手に設定を変えたりしないでね!? 頼むよ!?」

『わかりました』


 アミダ様は青い光の粒子になって俺の身体の中に戻ってくる。


【……設定の変更を完了】

「……どうも」


 これで一先ずは安心……かな? 思考が読まれてしまうのは非常に不愉快だが、何とか我慢するしかない。幸いにもコイツの声はフリスさんに聞こえないみたいだし……


『……着替えに時間がかかりすぎています。もう少し行動速度を』

「ああ、うるさい! わかってるよ!!」


 駄目だ、やっぱりこのAI面倒くせえ!!



「全力健全少年」-終-


\AMIDA/>KOBAYASHI<  │\Frith/

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