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「圧倒的」

> 速 さ が 足 り な い <

 

 ────ゴォォォォッ!!



「うおおおおおおおおっ!?」

「きゃああああああ!!」

「何っ、何が起きたの!?」

「くっ、何だ!? レーダーに異常……周囲の状況把握出来ません!!」


 俺たちのヘリは爆風で大きく揺れ、フリスさんが俺に倒れ込んでくる。


 サトコさんはヘリの操縦席に掴まってこらえ、影山っていう名前の操縦士の神業的な操縦テクでヘリコプターも持ち直す。


「ご、ごめんなさい! その……」

「いいよ、それよりフリスさんは大丈夫!?」

「……流石ね、影山くん。帰ったら夕飯を奢るわ」

「ありがとうございます……、でもこれは……」


 視界を奪っていた光は弱まり、ぼんやりと周囲の様子がわかってくる……


「……ッ」


 俺はヘリから街を見下ろして絶句する。


「そんな……街が……ッ!」


 大きな街の三分の一が、ごっそりと()()()()()()()


「……民間人の避難状況は?」

「六割弱……です」


 まるでサッカーのフリーキックが成功したような、バレーのスパイクが決まったような感じに〈姉〉は嬉しそうに飛び回る。〈妹〉も両手を広げて喜びを全身で現しているかのようなポーズを取った。


「……ふざけんなよ。あいつら、あいつら……!」


 消し飛んだ街の中心で大喜びする〈姉妹〉の姿に俺の血は逆流した。


【……〈討滅対象〉を確認、〈通常戦闘態〉へと移行……能力抑制コード《01》から《05》まで解除】


「サトコさん……俺、行ってきます」

「……」

「俺、この街のことは何も知りません。多分、親戚とか、知り合いとかも居ないと思います。でも……」

「タクロー……」


 ここに暮らしている人は居たんだ。生きている人は居たんだぞ……それを、それをあいつら……!


「お願い、コバヤシ君。あいつらを……!!」


 ぶっ倒してやる……!!



【……殲滅準備完了。第一種全領域対応型終末対抗決戦兵器J型】


【OVERPEACE】


【-Awakening-】



 体から青い光が湧き出し、全身に力が漲るような感覚が走った。足に力を入れた瞬間にガシャンと音がして、俺の両足が大きく変形する。


「……少し待っててください」


 俺は大きく息を吸い、見守ってくれているフリスさんとサトコさんに声をかけた。


「ちょっと今から、日本を救ってきます」

「!!」


 そして俺はヘリから飛び出す。


 サトコさんが()()()()()()()()()ような気がしたけど、それはあいつらをブチのめしてから聞こう。


「……飛べ」


 俺は自分の体に命令した───


 キィイイイイイイイイイン


 変形した両足から青い光が勢いよく吹き出し、まるでジェット機のブースターみたいに俺の体をまっすぐ前へと加速させる。今まで経験したことのない加速と、ボッという音と同時に何かを突き抜けたかのような感覚を全身で感じながら〈終末〉に向かって俺はブッ飛んだ。


「こんのぉぉぉぉぉぉおお……ッ!!」


 そして、右の拳を握りしめ……


「クソ野郎共がぁぁぁぁああああ─────ッ!!!」


 俺は〈姉〉の顔面を思い切りぶん殴った。


 ゴキャアッ!


 完全に油断してたのか、俺のパンチは〈姉〉の顔面にクリーンヒット。40mもある巨体を勢いよく殴り飛ばした。


「うおおおおおっ! まだまだぁっ!!」


 吹き飛ぶ〈姉〉を追いかける。そして追撃のパンチを叩き込もうとしたが……


「くたばれぇっ!」


 ガシィッ!


「うおっ!?」


 〈妹〉の長い腕が俺の体をキャッチした。〈姉〉と反対方向に勢いよく投げ飛ばし、俺は大きな山の岩盤に思いっきり叩きつけられる。


「くっそっ……!!」


【……損傷ナシ。戦闘続行に支障ナシ】


(やっぱり大したダメージは受けてねぇ! 行ける!! 見てろよ、これからお前らを……っ!?)


 前を向いた瞬間、俺の眼前は大きな光る足先で埋まった。


 ドゴンッ!!


 吹き飛ばされながらも〈姉〉は空中で姿勢を整え、お返しとばかりに俺に強烈な飛び蹴りを叩き込んできた。


【……被弾。〈終末〉の攻撃が命中】

「……っがぁっ!」


 足先と山の岩盤に押し潰されながら俺の体は山を貫通し、街の方にふっ飛ばされる。


 ゴゴゴゴゴゴオォォォンッ!!


 何とか体勢を整えようとするが、〈姉〉はまるで瞬間移動の如きスピードで街を足先で破壊しながら俺の背後に回り込み、その長い足で俺を遥か上空まで蹴り上げた。


 バギィンッ!


【……被弾。〈終末〉の攻撃が命中】


 >物理法則もあったもんじゃねえな!?<


 この巨体で何だこの動きは、チートじゃねえか! 何でぶっ飛ばされてる俺より早く動けるんだよ!!


「くっ、そっ……がぁっ!!」


 それでも俺はあいつらと戦おうとするが、そんな俺に向かって 光る玉 が飛んできた。


「はっ……!?」


 命中した陰陽玉は音も立てずに大爆発した。


 全身を焼かれてボロ人形のように吹っ飛ぶ俺が次に感じたのは鈍い衝撃。超スピードで先回りした〈姉〉が、今度は遥か上空から俺を地面まで蹴り落としたんだ。


 ドゴォォォォォォン


 凄まじい土煙を上げながら、俺の全身は勢いよく地面に叩きつけられた。



【……被弾、被弾、被弾。〈終末〉の攻撃が……損傷、チェック……】



 ◇◇◇◇



「タクローッ!!」


 ヘリコプターからコバヤシの戦いを見守っていたフリスは、彼の窮地を前に思わず身を乗り出して叫んだ。


「ありえない……何だ、あの動きは……!?」

「……世界を終わらせる化け物にもピンからキリまで居るなんて、冗談じゃないわね」


 〈終末〉には大きな個体差が存在する。鈍重だが防御力に優れた個体、小型で動きが素早い個体、怪獣のような姿をした個体など……挙げればキリがない。だが、今回の相手はそれを考慮しても異質な存在だ。


 何故なら〈双子型〉は過去の記録を遡っても数例しか出現した記録がない特異個体なのだ。


 〈終末〉は世界で同時に出現するが、それでも 一つの国に対して一体ずつ という法則があった。〈双子型〉はその法則を真っ向から打ち砕くイレギュラーであり、撃破難度は劇的に跳ね上がる。更に今回のような大型が相手の場合、圧倒的体格差を誇る破壊の化身との2対1の戦闘を強いられる……


 多大なハンデを背負う今のコバヤシにとってあまりにも強大な敵だ。


「ここは危険です! 基地に帰還しましょう!!」

「で、でもタクローがっ!」

「このまま此処に居ると死んでしまいますよ!?」

「……彼が負けた時点で、何処に居ても同じだわ」


 七条の脳裏に 絶望 の文字が徐々に浮かび上がる。


 頼みの綱であるコバヤシから記憶と戦闘経験が失われるという予想外のアクシデントに見舞われてしまっているというのに、特異個体である〈双子型〉の出現……全てを投げ出すには十分過ぎる理由だ。


「……コバヤシ君……!」


 だが、彼女は信じてしまった。



『ちょっと今から、日本を救ってきます』



 彼の発した()()()()を。記憶を失っている今のコバヤシにとっては、その場の勢いでつい発してしまった一言だったのかもしれない。


「……立って」


 だが、それはあのコバヤシ・タクローが出撃前にいつも言っていた〈決め台詞〉であったのだ。


「二体目の〈終末〉に再び超高エネルギー反応……! 限界です、急いで離脱します!!」

「ま、待って下さい! あそこにはまだタクローが……」

「僕たちは人間です! 彼とは違うんですよ!?」

「でも……ッ!!」


 影山がヘリコプターを戦場から離脱させようとした瞬間に〈妹〉がこちらの方を向き、〈姉〉もゆっくりと泳ぐように七条達を乗せたヘリコプターに迫る……


「くそっ、見つかった!!」


 影山は死を覚悟した。


「……っ!」


 フリスも近づいてくる〈終末〉の姿を見て、小さく悲鳴をあげた。


「……立って……!」


 二人の同乗者がそれぞれの形で終わりを実感していた時、七条は無意識にヘリのドアから身を乗り出して叫んだ。


「立って、コバヤシ君!!!」



 ────ギィン!



 まさにその時だった。


 静かに迫る〈姉〉の胸を、後方から煌めく青い流星が貫いた。


 《アアアアアアアアアアアアッ》


 胸を貫かれた〈姉〉は、悲鳴のような甲高い音を発しながら地上に落下する。


「……」


 ズズゥゥゥ……ン!


 七条は落下していく〈姉〉を唖然と見下ろした後で視線を戻す。彼女の眼前にはキョトンとした顔のコバヤシが空中で静止していた。


「ど、どうも……」


 コバヤシは自分でも何が起きたのかわからないといった調子で話しかけてくる。反応に困った七条はただ目を大きく見開いて硬直するしかなかった。


《キィアァァァァァァァァァァァァァァ》


 〈姉〉が倒されるのを目の当たりにした〈妹〉は叫び声を上げる。大気を震わす絶叫を聞いてようやく七条は声を取り戻した。


「うおおっ!?」

「……はっ! き、気をつけて!」

「わ、わかってます! 何とかアレが投げられる前に!!」


 ────ギィンッ!!


 コバヤシの姿が眩い光に包まれたと思えば、七条の視界から彼の姿が消える。


「!?」


 見失ったコバヤシを必死に探す。彼女がコバヤシを見つける頃には、既に彼は爆発する光球で攻撃しようとした〈妹〉の腕をへし折っていた。


《キアアアアアアアアアアアアアアッ!》


 生み出された巨大な光球はそのまま地面に落下。七条が彼の心配をする前にコバヤシは彼女の眼前に戻り、光球はワンテンポ遅れて〈妹〉を巻き込み大爆発。周囲に再び悲鳴のような怪音が轟く。


「……」

「……た、ただいま」


 爆炎に巻かれる〈妹〉を背景にぎこちない笑顔で挨拶するコバヤシを見て、七条は全身の力がドッと抜けるような感覚に見舞われた。


「えーと、その……」

「前にも言ったけど……負けたフリは厳罰対象よ? この国の明日は、貴方に託されているんだから……」


 七条は何とも言えない顔でコバヤシに言う。


「すみません、サトコさん。まだ、この体の使い方がよくわからなくて……」


 コバヤシはそんな彼女に申し訳なさそうに返答した。


「……ふふふっ」


 凄まじい力を見せつけながらも、絶妙に締まらない空惚けた台詞を吐くコバヤシにサトコは思わず笑ってしまった。



「圧倒的」-終-


・:*+.\KOBAYASHI/三\KOBAYASHI/.:+

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