「ダブル・エマージェンシー」
「お、おいっ!?」
【……ァ✛✛✛級>あ、tri,<権限による、、、状態解除。再起動……】
「うおっ! 戻った!? おい、アミダ様 これは一体……」
【……異常ナシ】
>異常ナシ<
ようやくまともな表示に戻ったと思ったら……何処が異常ナシだボケェ!
「異常アリだよ! さっきからフリスさんの様子がおかしいんだ、どうしたらいい!?」
【……調整者の身体診断及び精神診断を開始】
「……」
【異常ナシ】
「ざけんな!!」
ああ、駄目だ! こいつ結構なポンコツだ! ええい、今はアミダ様に構ってる暇はない! 問題はフリスさんに取り付いてるアトリとかいう電波だ!!
「おぉい! 聞いてる!?」
「……」
「もしもーし! 聞いてますかぁー!?」
倒れるフリスさんを起き上がらせて声をかけてみるがやはり返事がない。ああもう、今度はコイツが黙り込みやがって! いいさ……そっちがそんな態度を示すのなら俺にも考えがある!!
「いい加減に喋らないと……その生意気なおっぱいをしこたま揉んでヒィヒィ言わすぞ!? 泣いちゃうまで揉んじゃうぞコラァ!!」
当然、本気ではない!
だが女の子である以上、突然こんな発言をされたら黙ってはいられまい! それっぽく両手をワキワキさせて更に脅しをかけてやる! さぁ、話せ! 知ってることを全部話せぇ!
さもないと……おっぱい揉んじゃうよ!? 本気じゃないけどさ!
「揉んじゃうぞぉー!?」
「……そ、それは困ります」
「……あれ?」
「わ、私……胸は弱いんです。優しくしてもらわないと……」
あーらら、凄いタイミング。
精神状態:『不良』→『注意』
やだもー、狙ってるでしょこれ。何でこういうタイミングでフリスさんにバトンタッチするかなー?
「優しくしてもらわないと……泣いちゃいます」
正気を取り戻したフリスさんが顔を真赤にしながらも、物欲しそうな目で俺を見下ろしている!!
_人人 人人_
> YABAI! <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄
さーて、どこから話そうか。この状況は非常にまずいぞ?
多分、フリスさんはさっきまで自分の身に何が起きていたのか覚えていないだろう。覚えてもらっていては困る。唯でさえ頭がこんがらがっているのにこれ以上、ややこしい展開に持っていかれると流石に俺でも考えるのをやめてしまう。
「……とりあえず、退いてもらっていいかな?」
「あっ……はい。ご、ごめんなさい……頭がボーッとして……!!」
「……何処まで覚えてる?」
「え、ええと……その……あの」
「うん、何も覚えてないみたいだね」
「ごめんなさい……」
謝らなくていいのよ? むしろ僕は君に『ありがとうございます』と叫びたいくらいだよ。超絶美少女に押し倒されるなんて男として願ったり叶ったりな状況だよ。
あのアトリとか言う電波さんが介入してこなかったらな!
しかし言ってる事は意味不明だったけど、電波さんが乗り移ってる時のフリスさん滅茶苦茶可愛くてエロかったな。エロス全開な仕草と挑発的な表情とは裏腹に、終始無邪気な子供のような言葉遣いだったのが強烈でした。
明らかに健全な青少年を殺しに来てましたね、アレは。
でも……本当にさっきのは何だったんだ。もう残ってない? 俺を見てる?? まるで意味がわからんぞ!
「……え、ええと私、何かタクローにしました?」
「いいえ、特に何も。安心して下さい、俺も君に何もしていません」
「そ、そうですか……」
「何か……残念そうだね?」
「そ、そんなことありません! 安心しただけです!!」
「アッハイ! すみません!!」
一昨日にも増して凄まじい経験をしたせいか、さっきまで俺の心を蝕んでいた暗い感情が遥か彼方まで消し飛んでしまった。何かもう……複雑だなぁ。ああいう時、タクロー君はどんな反応をしてたんだろうか。
【……】
そして重要そうな状況では的確なサポートをしてくれるかと思いきや、唯のステータス報告botと化すアミダ様。所詮は人工知能、コバヤシ君の身体以外はどうでもいいという事か……。
【……発言の撤回を要求】
はいはい、ごめんなさいね! こういう時だけはしっかり主張してくるのが腹立たしい!
「ま、まぁ……その……ごめん。ちょっと悪戯しようかなと思ってました」
「……そ、そうですか」
そういえば あのアトリっていう誰かさん……何処かで会った事があるような気がするんだよな。何かこう……喋り方や雰囲気が、誰かに似ていたような……。
気のせいかな……?
◇◇◇◇
「おかえりなさい、七条さん。高槻主任」
「……ただいま、コバヤシ君とフリスちゃんは?」
「第2休憩室で待機しています……あの、どうでした?」
「今回も全面的に協力してくれるそうよ」
「陛下の前じゃなければ真逆の返事が飛んできそうだったがな」
〈白雪の間〉に戻った七条はあからさまに不機嫌そうであり、彼女と同行していた高槻も何とも言えない表情を浮かべていた。
「し、七条さん、〈終末〉の反応に異変が……! 実体化予測地点が変更されました!!」
「……最新の実体化予測地点は?」
「コオリヤマ第三工業区上空です!!」
「……ああ、もう! 最悪だわ!!」
七条が所属する〈終末対策局〉は日本政府の管轄では無く、新国連直属の組織だ。コバヤシを始めとする終末対抗兵器の所有権及び命令権はこの組織が有している他、新国連から超法規的とも取れる特権を与えられており、かの明星天皇にも絶大な信頼を置かれている。
それ故に、日本政府高官からの印象はよろしくない。
〈小林拓郎の世界〉と異なり、こちら側の日本国の究極的な行政権及び命令権は代々天皇家が保有している。明星天皇の許可が降りた場合、それがどれほど無茶な要求であろうとも政府は〈終末管理局〉に協力しなければならないのだから。
「最新の情報を陸海空の皆さんに提供してやれ。民間人の避難状況はどうなってる?」
「警報は〈終末〉の反応が確認された時点で全国に発令していますが、コオリヤマ市の避難状況は30%前後です!」
「……避難が間に合うと思うか?」
「……実体化までの予測時間は後1時間もありません。正直言って、厳しいです」
七条は思わず親指の爪を噛む。コバヤシがその身を縛る 能力抑制装置から解き放たれ、終末対抗兵器としての真価を発揮するには〈終末〉の実体化していなければならない。
……今回のように人口密集地で〈終末〉が実体化してしまうのは最悪のパターンだ。
「急いでヘリの準備を!!」
「了解しました!」
「七条、お前はどうする?」
「……此処を、お願いできますか?」
「わかった、行って来い」
「……ありがとうございます。高槻司令」
七条は高槻に頭を下げ、白雪の間から飛び出す。
伝書鳩である彼女本来の戦場は此処であり、白雪の間を退室して彼の元に向かうのは任務放棄スレスレの際どい行為だ。
だが、この場に居る者は誰一人として彼女を呼び止めようとはしなかった。
「……という訳だ。お前たち、すまんが今日も俺に命を預けてくれ」
「了解しました、高槻司令」
「ほ、本当に心配なんですね……コバヤシ君が」
「彼なら大丈夫……とも言い切れないのが現状だからね。このタイミングで記憶喪失なんてもう笑うしかないよなぁ」
「やっぱり七条さんてコバヤシ君のこと」
「それ以上言わないのが長生きする秘訣だぞ、サトウ。あの人は生身だけど……サイボーグより強いから」
「さて、楽しい雑談はここまでだ。気を引き締めろ、笑って明日を迎えたいならな」
「ダブル・エマージェンシー」-終-
\\KOBAYASHI//\Frith/




