「終末対策局」
サトコさんが\KOBAYASHI/に優しくなる日は来るのか……それは全て彼にかかっています。
「聞こえますか、こちら終局ヘリ。コールサインは〈Z-PUMA 66〉、着陸許可願います。繰り返します、こちら終局ヘリ。コールサインは……」
『確認、着陸を許可します。3番ポートを解放……そこに着陸してください』
俺は迎えに来たヘリに乗ってとある場所まで連れてこられてきた。当然、フリスさんも一緒だ。
「……何か凄い所に来ちゃったんですけど」
到着したのは見たこともないような未来的デザインの巨大建造物。
白いリング状の建物と、その中心に司令塔らしき幾つもの長方形が繋がったような変わった形状の塔がある。変な形の塔とリング状の部分はガラスの橋みたいなので繋がっていて、何かもう凄い外観だった。
「ここが〈終末対策局〉……通称、終局日本支部が所有する基地です」
「日本支部……ってことは」
「はい、〈終末対策局〉の支部は世界中にあります。〈終末〉はこの国だけじゃなくて、世界中に現れますから……」
え、マジで? マジで言ってるの? あんなバケモンが世界中に現れんのかよ!?
「この世界大丈夫なの!? あんなのが世界中に現れても……小林くんは一人だけだよ!?」
「大丈夫です。世界にはそれぞれの国に一人ずつ終末対抗兵器がいるんです。タクローが日本を守ってくれるように、他国もその国が保有する終末対抗兵器が守ってくれています」
あっ、そうなんすか。世界中に俺みたいなのがいるんですか、そうですか。
……マジで?
「……世界中に……いるんだ?」
「……はい。そして、私のような調整者も世界中にいます」
え、世界中にフリスさんのような娘が!? マジかよ!? ヤバくない!? 世界中の青少年の何かが危ない!!
「あっ、タクロー! サトコさんです!」
「あっ……」
ヘリポートでサトコさんが俺たちの到着を待ってくれていた。ヘリは彼女の近くに着陸し、俺たちは急いでヘリを降りる。
「……ようこそ、〈終末対策局〉日本支部へ」
「……どうも、一昨日ぶりです。ええと……」
「次からはちゃんと通話に出てちょうだいね?」
そしてサトコさんは不機嫌そうに言った。
精神状態:『不良』→『注意』。精神が不良から注意に悪化。
すんません、ホントすんません。だからその顔をやめてください……沙都子先生そっくりな顔で冷たい目線を向けないで! 心が抉られそうです!!
「サトコさん、電話でも聞きましたが……本当に〈終末〉の反応が……?」
「……そうなのよ。嫌らしいことに反応が不安定で、いつ実体化するのか予測も立てられない状況なの。一番、面倒なパターンよ」
「ええと、俺が呼ばれた理由ってのは……やっぱり……」
「それもあるけど……今のコバヤシ君にはもう一度、この施設についての説明をした方が良いように感じたから。貴方は何も知らないでしょう?」
はい、知りません! 〈終末対策局〉って何ですか! こんな物騒な名前の組織は元の世界にはありませんでした!!
「……恥ずかしながら、何も」
「……」
「……貴方の話を全部信じたわけじゃないわ。だから私たちは今の貴方は度重なる戦いへのストレスが原因で部分的な記憶喪失に陥ったと考えています」
「あ、はい……そりゃそうですよね」
「でも、記憶を取り戻すまで貴方を休ませてあげるだけの余裕はないの。……厳しいようだけど」
ああ、キツイ。めっちゃキツイ性格してるわー、もう辛い。
「……タクロー?」
「……いや、大丈夫。ありがとう」
「じゃあ、ついて来て。この施設の簡単な説明と、これからの戦いをサポートする人たちを紹介するわ」
◇◇◇◇
「おっす、コバヤシ君! 今日の顔色は微妙だねー、嫌な夢でも見たのかい?」
「こんにちわ、コバヤシ君」
「よー、コバヤシの兄ちゃん。今日もフリスさんと仲良く歩いて羨ましいね!」
「うおー! コバヤシ君じゃないか!! どうしたんだい、今日は学校休みじゃないのかい!?」
建物の中に入るとここで働く人達とすれ違う度に声をかけられた。
「あ、あはは……どうも……」
とりあえず俺は笑顔で挨拶したり手を振ったりしたが……非常に複雑な気分だよ。
隣で歩くフリスさんも、先導してくれるサトコさんも微妙な雰囲気だ。
「……あの人たちが誰だかわかる?」
「……すみません」
「いいのよ、別に責めてないわ。ただ、これだけは覚えておいて」
「……何ですか」
「ここのみんなが、貴方の仲間よ。共に戦うことは出来ないけど、全力で貴方のサポートをしてくれるわ。そして貴方は……ここのみんなの支えでもあるの」
うーん、プレッシャー!!
ちょっと高校生が背負うものとしては重すぎませんか? いや、既にニポンの未来を背負わされてるわけですが。何かこう、物凄い実感が湧くというか……『みんなの命を託されてる』っていうのをここまでハッキリと見せられるとかなり堪えます。
【……コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ。心拍数が大幅に上昇】
やばい、動悸がやばい……うぐぐぐっ!
「……俺が、みんなの」
フリスさんがプレッシャーで押し潰されそうな俺の手をギュッと握ってくれた。
「……大丈夫、タクローには私がいます」
「でも、戦うのは俺なんだよね……?」
「私たちも、貴方と一緒に戦っています。貴方だけに背負わせたりはしません……」
「……それでも、キツイなぁ」
「……そうでしょうね。私でも、辛いと思うわ……」
俺たちの前を歩くサトコさんも小さな声で言った。
表情は見えなかったけど、その声色は沙都子先生が俺を慰めてくれる時の声と同じものだった。
「そして、この先が……」
「やぁ、コバヤシ君。久しぶりだね」
意味ありげなガラス作りの扉の前で待っていたスーツ姿のオッサンが俺に声をかけてくる。
「え、ええと……」
「こんにちは、高槻さん」
「やぁ、フリスちゃん。今日も綺麗だね、コバヤシくんとの仲はどうだい?」
「え、あっ! その……っ!」
「……高槻主任、〈ホワイトルーム〉で待っているはずでは?」
「別に問題ないだろう? 俺だって何度も日本を救ったヒーローを歓迎したいんだ」
「今の彼は……」
「変わらないさ。彼は一昨日、日本を救ってくれた。十二分にヒーローを名乗る資格があるじゃないか」
二人の会話を聞く限り、あの高槻っていう人はサトコさんの上司かな?
フリスさんとも知り合いみたいだ。結構、男前なオッサンで正にデキる男っていうイメージだ。でも妙に態度が軽いな。真面目でお堅いサトコさんの上司にしては物凄い親しみやすい雰囲気だ。
「じゃあ、この先に案内するよ。言うのが遅くなったが、この国を救ってくれてありがとう。お蔭で、今日も妻と素敵な朝を迎えられたよ」
「は、はぁ……どうも」
……あれ、この人何処かで見たことあるような。あれ? 俺の世界でも何処かで……うぐぐ。駄目だ、思い出せん!!
「ま、積もる話もあるが続きはこの先でな」
高槻さんはポケットから透明なスティックのような道具を取り出して、大きなガラス扉の前にかざす。すると扉から赤いサーチライトが放たれて、スティックから何かを読み取り……
《……個人データの照合完了、ロックを解除します。ようこそ、高槻主任》
何処からかデジタル音声みたいなのが聞こえ、ガラスの扉がカシュッと開いた。
「ようこそ、終局日本支部中央作戦指令室……〈白雪の間〉へ。大したものは出せないが、歓迎するよ。我らが守護神、コバヤシ・タクロー君」
ガラスの扉が開いた先は、パソコン、通信機、モニター、照明……何もかもが白で統一された空間だった。
「うおお……目がチカチカする」
「すぐ慣れるさ。それに……もうすぐ色が変わるかもしれないしね」
「え?」
「……主任、ここからは私が」
「ああ、任せる。お前の方が付き合いが長いし」
「主任!」
「おおっと……すまん、じゃあ頼んだぞ」
サトコさんに怒鳴られ、高槻さんは逃げるように俺たちから離れていった。あれ、サトコさん……急にどうしたの?
「……コバヤシ君、早く部屋の中に入りなさい」
「アッハイ!」
「サトコさん……」
「……大丈夫、何でもないわ。ごめんなさい」
サトコさんは一瞬、俺の顔を見ながらとても切なげな表情をした。
「……ッ」
俺はどうしてサトコさんがそんな顔をするのかわからなくて少し硬直してしまった。
でも、フリスさんはそんな俺の手を引いてくれた。サトコさんと同じ、切なそうな顔で……。
「終末対策局」-終-
\SATOKO/KOBAYASHI\Frith/




