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「遠い記憶」

最近、学校の夢をよく見るようになりました。小説のネタによく振り返るようになったからでしょうかね。

 ……俺の目に映るのは、何もない世界だった。


 在るのは青い空と、無限に続く白い砂地。そして大きな岩の塊。その岩の塊にどこか見覚えがあったが、ぼんやりとした俺の意識はそれが何なのか思い出せなかった。


【……おはよう、気分はどう?】


 誰かが俺に声をかけた。


 誰だろう? 体が重く、思うように動かせなかった俺は目だけを動かして〈声の主〉を探した。


【はじめまして、こんにちは。ええと……君の名前は?】


 俺の目に映った〈声の主〉は綺麗な白い髪をしていた。顔はよく見えなかったが……雪よりも白い髪の色と、子供のような声は俺の頭にしっかりと焼き付いた。


「……あ……ぶ……」

【あーぶー? 君の名前は、〈あーぶー〉でいいの??】

「……が……」

【なるほど、()()うまく喋れないんだ。仕方ないね、喋れるようになってから聞くよ】


 声がうまく出せない。


 何だろう、言いたいことは頭の中でハッキリしているのに言葉だけが上手く口に出せない。気持ち悪い。何だ、この感じは……まるで、まるでついさっき()()()()()()みたいだ。


 あれ、そもそも俺は何でこんな所にいるんだ?


 親父は? 明衣子は? みんなは何処だ??こんな何もない場所でどうして俺だけ……


【ふふふ、面白いなぁ。これが〈ニンゲン〉って生き物なんだ……ふふふふ】


 白い髪の誰かは俺の顔を見ながらおかしな事を言っていた。


 おい、アンタも人間だろ? 人間じゃなかったらアンタは何だよ、変なやつだなぁ。


【うふふふふっ】


 おいおい、そんなに楽しそうに笑ってどうしたんだよ。俺はまだ何も言ってないぞ。変なやつだなぁもう。


 でもどうして、ここには俺とアンタしか居ないんだろう?


 ……

 ……

 ……


「……きて……」


 ……今度は何だよ。あれ、目の前が真っ暗だ……あれ?


「お……て……よ」


 んー、何だったんだ今のは? あとこの声……聞き覚えが


「さっさと起きろ! 馬鹿ァ!!」


 ドスッ!


「おばぁああああああ────!!!」


 ぐふぉ! 何だ!? 一体何が……って明衣子かぁ。おはよう、今日も可愛いよ!


「……おぼようごべぇばす」


【……警告、警告。コバヤシ・タクローの肉体に物理攻撃による損傷発生】


「さっさと起きてよね、朝飯が冷めるじゃん」

「……あー、うん。ごめんね」


 でも俺を起こすのに腹に踵落とし食らわすのはやめようか? 下手したら死ぬからさ。


「……いい蹴りしてんな、俺じゃなかったら死んでたわ」

「起きないのが悪いー。じゃあ下で待ってるから早く来てよね、()()()()


 ……はぁ。やっぱりキツイわ、もう少し優しい心を取り戻して欲しいわ。いくら兄貴でも傷つく時はある……ん?


「……あれ、お前今、俺のこと兄貴って呼んだ?」

「? それがどうかしたの?」

「……いや、だって俺は」

「今までの兄貴とは別人だって? そんなふざけた話を本気で信じると思ってんの? 馬鹿なの?」


 ひでえ! 昨日、俺が無言で部屋に戻るお前をどんな気持ちで見送ったと思ってるんだ! もう兄貴と呼ばれないことを覚悟してたんだぞ!?


「……」

「じゃあさ、今の兄貴はあたしのことどう思ってんの?」

「え、何だよ急に……」

「もう妹じゃないって思ってる? 兄貴の知ってる世界のあたしじゃないから……」

「そんなことあるか! ちょっと姿が変わってるけど……妹だと思ってるし、お前ら〈終末〉から本気で守りたかったから俺は!!」

「そういうことよ」


 明衣子はそう言って俺の額をペチンと叩いた。


「あたしが兄貴だと思ってるから、兄貴って呼ぶのよ」


 猫耳の生えた妹が俺の目をしっかりと見つめながら、ハッキリとした声で言った。


「……まぁ、いつもの兄貴じゃないってのはあたしでもわかるよ。だって家族だもん」

「……そうすか」

「でもね、あたしはアンタを兄貴だと思ってるから。だから昨日言ったことを全部は信じてないし、化け物と戦いすぎてちょっと頭が変になっただけだって思うことにしたの」

「……」

「だって、本当に兄貴なんだもん。喋り方とか、寝起きの悪さとか、暑苦しさとか、気持ち悪さとかぜーんぶ」

「おい、言い方」

「そうそう、その顔。そんな だっさい顔 出来るのは兄貴しかいないのよ」


 この明衣子はにししと笑ってそんな事を言いやがった。ああ、くそう。そうだよ、そんな笑顔が出来るのは俺の妹だけだよ……



【……体調チェック……完了】


 診断結果:『B』……『正常』


【……良い一日を】




「おう、やーっと降りてきたか。飯にするぞー」

「うーい」

「階段降りるの遅すぎ、ナマケモノじゃないんだからさ」

「ごめんねー、お腹が痛くて上手に階段降りられなくてね。元気な妹が居ると苦労するわー」

「……」

「冗談だぞ? 真に受けんなよ」

「うっさい、座れハゲ」


 >ハゲはやめろ!<



 精神状態:『平常』→『不良』。精神が平常から不良に悪化。



 いや確かに毛髪無いけどさ、今の小林くんには! でもハゲはやめて!? シンプルに傷つくから!!


「ほら、座れよタクロー。朝飯が冷えちゃうぞ?」

「ん……ありがとよ 親父」


 寝る前に正直に話したお陰か親父の表情は明るいし、明衣子の可愛い笑顔も見れた。やっぱり異世界人でも家族は家族……血の絆で繋がった大事な家族だ。


 でも、一昨日に俺を殴り殺そうとした事は絶対に忘れねえからな?


「はい、じゃあいただきまーす」

「いただきまーす」

「いただきばーす」


 今日の朝飯は卵焼きと味噌汁と納豆にご飯か。あと漬物が少々。うーん、ご機嫌な朝食だー。


「めいちゃん、醤油取ってー」

「めいちゃんゆーな。はい、醤油」

「ふー、我ながら完璧な卵焼きだ。焼き加減、色、味、どれを取ってもパーペキだな」

「いつも同じ味だからわかんないよ」

「どんなに美味くてもいつも同じだったらなー」

「はっはっは、お父さん泣いちゃうぞ?」


 この親父の食い方はいつ見てもじわじわくるな。


 どうやって食ってるんだろ、口を開けた様子は無いのに食い物が吸い込まれるように中に入っていく。そしてもぐもぐと咀嚼する訳なんだが……ちょっと気味悪いわ。あの口の中で何が起きてるんだろうな。


「兄貴、納豆ってそんなに美味しいの? 今までの兄貴もよく食べてたけど」

「んー? うまひよ」


 それにしてもあっさりと受け入れてくれましたね、明衣子ちゃん。普通は抵抗あると思うんだけど……それだけ今の俺とタクローくんとの違いが少ないってことなのか。納豆好きなのも同じみたいだし。


【……】


 まぁ、家族と同じくらいの時間をタクローと過ごしてきたであろうアミダ様が【問題ナシ】って言うくらいだもんな。


「何だ、明衣子も食ってみたくなったのか」

「要らない。あんな変な匂いして>ネバネバして気持ち悪い腐りかけた豆のパック詰め<なんて一生食べたくない」


 言い方よー。その言い方よー。食欲が一気に失せる例え方やめてー?


「うわっ、ご飯にかけた! 信じらんない!!」

「いや、なっとーご飯美味しいよ? もちゃもちゃ」

「好みは分かれるけどなー。お父さんは納豆と別で食べたい派ー」

「……あたしはそもそも受け付けない派」

「うめぇ、うめぇ」

「キモい、納豆食いながら喋んな」

「納豆は体にいいんだけどなー、明衣子も食べて体の中も綺麗になるといいぞ」

「やだ、匂いがムリ。体の中に入れたくない」


 相変わらずこの二人の見た目は気になるし、タクローの姿でタクローの家族と和気藹々としている状況に思う所はあるけど……こうして飯を囲むのは良いもんだな。


「ふー、ごちそーさん」

「お茶淹れるからもちっとだけ座るんじゃ」

「あたしお茶苦手なんだけどねー……」

「まぁまぁ、朝に飲むお茶はいいもんだぞー。お母さんも言っていたぞー」

「はいはい、飲むからさっさと淹れて」

「あー、茶漬けにしても良かったな……納豆茶漬け」

「ムリ、それはホントやめて」


 美味しいんだよ? 納豆茶漬け。食わず嫌いはよくないよー、あとそのゴミを見るような目もよくないよ。


「ほいほい、お茶だよー。あったまるよー」

「わーい」

「はーい」


 \ガチャ/


「タクローッ!」


 食後に淹れてくれたお茶でほっと一息つこうとした瞬間、フリスさんが慌ただしく家に上がり込んできた。


「おはよう、フリスさん。どうかしたの?」

「フリスちゃんどうしたの? 何か慌ててるけど」

「今日は土曜日だよ、フリスさん。学校はお休み」

「直ぐに準備を済ませて一緒に来て下さい。サトコさんが貴方を呼んでます……!」


 え、サトコさんが? 何で!?


「え、急に何を……」

「あの、ずっと貴方の電話に連絡を入れていたそうなのですが……全然繋がらなかったと」

「あっ」

「兄貴……携帯の電源切って寝てたんじゃない?」


 そもそも携帯を部屋に置き忘れてるわ。


 あはは、ごめんね? 元の世界じゃ休日におれに電話かけてくる奴なんて田中とか安藤とか時々ボブくらいしかいなかったから……。


「え、ええと」

「急いで準備を済ませて! もうすぐヘリが着きます!!」

「アイエッ!? ちょ、ちょっと待って……」

「おー、頑張れタクロー。ニポンの平和は任せたぞー」

「頑張ってね、兄貴ー」


 軽いな、お前ら!? もう慣れてますってか!? そうですか、凄いですね!!


「わ、わかった! とりあえず携帯取ってくるからちょっと待ってて!!」

「あんまり待たせちゃうと……サトコさん怖いですから気をつけてくださいね? 私に連絡を入れてきた時もすごく不機嫌そうで……」


 ああ、やっぱりサトコさん怖いんだ。


 やだなぁ……あの優しい沙都子先生とは真逆の人間になってるなんてやだなぁ。でもせっかく連絡を入れてくれてるのにひたすら不在着信を決め込まれたら誰でも怒るよね。


 ごめんなさい、でも俺は悪くないんです。微妙に変化したこの世界が悪いんです。


「うおおおー!」


 \ドタドタドタドタ/


「タクロー、急いで!」

「……で、何かあったの? フリスちゃん」

「あ、はい……実は微弱ながらも〈終末〉の反応が……」

「え、マジ? 一昨日来たばっかりじゃん!!」

「は、はい。反応が不安定なので、いつ来るのかもわからないのですが」

「あいつも大変だなー……。俺たちには応援するしかできないけどな……」

「……そうね、今までみたいにね」

「でぁああああああー!」


 \ドタドタドタドタ/


「準備できましたか!?」

「はい、大丈夫です! じゃあ……ええと」


 俺は大急ぎで着替えを済ませて電話と充電器を持ってきた。ううー、今日は何処に連れて行かれるんだろうか……。


「行きましょう、ヘリがもう着きます!」

「と、ところで今日は何処に行くの?」

「〈終末対策局〉です!」


 まーた物騒な単語が出てきたなぁ。嫌な予感がするなぁ……ちくしょー。



「遠い記憶」-終-


\MEIKOCHAN/\KOBAYASHI/\OYAJINGER/

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