「守るべき馬鹿達」
その時の彼は、間違いなくヒーローだった。
「ぜはー……ぜはー……ぜはっ、ふぅっふ!」
俺は妖怪ババァと子鬼を振り切って無事に校門前に辿り着いた。
フリスさんはお姫様だっこのまま女子校までエスコートしてあげましたよ、恥ずかしかったなぁ! コンチクショー!!
フリスさんは恥ずかしがるどころか満足気のご様子で優雅に登校して行ったよ! どうして俺の方が恥ずかしがってるんだろうね、不思議だわ!!
「……はー、疲れた。もう疲れたわ……、授業受ける気力残ってねぇわ……」
校門は当然のように閉まっている。
一応、よじ登れる高さなんだが……あの木刀ゴリラに見つかってしばかれるのは嫌だしな。しょうがない、校門前のインターホン押して開けてもらうか。
「あのゴリラには出てほしくないなぁ……」
\ピンポーン/
『はい、もしもし私立ロクザワ魔法工科高等学校のエクゾディオシリス・ATM・武藤です』
>誰ですか!?<
いやいや、そんな名前の先生知らないよ!? どこの科の先生ですか!!? ムトウってアレか!? あの伝説の……!!
えっ、いつの間にかウチの学校にデュエリスト科とか出来たの!? やだ怖い!!
「え、えーと……校門が閉まってるので開けてほしいんですが」
『その前に聞きたいのですが、貴方は本校の生徒ですか? それとも保護者様、もしくはお客様ですか??』
「あ、すみません生徒です。ええと、機械技術科の小林……」
\ガチャン/
え、通話切られたよ? ホワッツ? 異世界の僕も真面目に貴方の働く学校の生徒やっていると思うんですけど……もしかしてタクローは問題児なのか?
>GATE・OPEN<
え、何!? 誰の声!!? 何か門から変な音声流れたよ!?!
\ガラガラガラガラガラガラ/
あ、開いた! な、何だ……門を開けるから通話を切ったのか。驚かしてくれるな、エクゾディオア先生。顔は見たくないけど、名前は覚えておこう。
「うーむ、やっぱり俺の知ってる学校とは何かが変わってるのかなー」
>>おかえり、コバヤシ!!<<
「ヒョッ!!?」
俺が校門を跨いだ瞬間、校舎内から大きな声が聞こえてきた。
学校のみんなの声に呆気に取られていると、校舎の屋上から歓声と共に大きな垂れ幕が下がってきた!!
守ってくれてありがとう!!
私立ロクザワ魔法工科高等学校より、コバヤシ様へ
「コバヤシィィイイ! お前、やっぱすげぇよおおおおおー!!」
「ありがとうな、ありがとうなぁ!! 守ってくれて……ありがとうなぁ!!!」
「畜生、てめぇ! ヒヤヒヤさせやがって……勝てるならサクッと勝てや!! 心配しただろうが!!!」
「キャー! コバヤシサーン!!」
「ありがとう、ありがとう!!」
「コバヤシィイイイイ! やっぱ愛してるぜぇぇええー!! お前の妹もなぁあああー!!!」
おいおい、何だよこれは。
「コ、バ、ヤ、シ!」
「コ、バ、ヤ、シ!!」
「コ、バ、ヤ、シ!!!」
そうか、俺はあの〈終末〉に勝ったもんな。そして勝ったって事は……
_ 人 人 人 人 _
> KO BA YA SHI <
 ̄ Y^ Y^ Y^ Y  ̄
学校のみんな……いや、この国に住むみんなを守ったって事なんだよな。
「やめろよ、畜生。俺、人前で泣き顔なんて見せたくないんだよ……」
この声援に、タクロー君はどう応えていたんだろうか。
俺は、違うんだよ。タクローじゃなくて、小林拓郎なんだよ。
……お前らの、ヒーローじゃないんだよ! 俺は、俺は……!!
「うぉおおおおおおー! 今日も出たぞ、例のアレ!!」
「いやー、貫禄が違いますねぇ! これが勝者の風格かぁ!!」
「しゃぁねーなぁ! 今日くらいは認めてやんよぉ!!」
「明日からも調子乗ってたら殺すけどなぁ! 今日だけはなぁ!!」
「お前が!」
「俺たちの!!」
>>ナンバーワンだ!!!<<
完全に無意識だった。体が勝手に動いた。俺が覚えていなくても、この体が覚えていたのか。それとも、本当にタクローが俺と同じ性格だったのか。
それはこれからもわからないだろう。
ただ俺は、右手を空に向けて高らかに上げてあいつらに向けて誇らしげにサムズアップをした。
お母さん、見てくれていますか?
お母さん、俺……家族と、あいつらと、この国を守りました。
いきなりだったし、今でも実感湧かないし、何かもうよくわかんないけど。今この瞬間だけは……俺、世界で一番カッコいい自分になれてると思います。
【……コバヤシ・タクローに対する本機能的評価を改定】
……何だよ、アミダ様。今頃になって俺のことを褒めてくれるのか?
【……評価『E-』→『D-』。余所者から 知人のそっくりさん に変更】
ありがとうよ、アミダ様ァ! 嬉し過ぎて泣きそうだよ、クソッタレェ!!
「おかえりなさぁい、コバヤシくぅん!!」
「うおおおー! コバヤシさんだァー!!」
「いやー、今何限目だと思ってるんですかねぇ! 調子乗ってやがりますねぇ!!」
「おらぁ、お前の席にみんなでお祝いを用意してやったぞコラァ! ありがたく受け取れやぁ!!」
ははは、こやつらめ! はははは、泣かせよるわ!!
「やぁ、コバヤシ君。僕は信じてたよ、君なら絶対に勝てるってね!」
わーい、あんまり話した覚えのない鈴木くんから温かいお言葉頂きましたー!
うれしーぃ! 昨日俺に言った失言は聞かなかったことにしてやるよ!!
「本当はまだ授業中なんだけどぉ、今は自由時間にしてあげるわぁ! うふふふぅ!!」
わーい、ありがとうオカマ! 優しいね、沙都子先生みたいだよー!
でも俺の憧れの先生は沙都子先生だから! アンタじゃねーからぁ!!
「ふふふ、コバヤシ君は頑張りやさんだものね! 担任として誇らしいわぁ……抱きしめて上げたいくらい!!」
ああ、沙都子先生に言って欲しかった言葉……。あの人はよく俺を元気づける為に抱きしめてくれたなぁ……本当にいい先生だった。
それがこんな……ッ、こんな……ッッ!!
精神状態:『良好』→『不良』。精神が良好から不良に悪化。
「うっ、ううっ……!」
「何だよ、コバヤシィ……泣くなってぇ!」
「俺たちの言葉によっぽど感動したんだな!」
「あらやだ、大丈夫!? 先生のおっぱいで良かったらいつでも飛び込んでいいのよ!?」
それもうおっぱいじゃねえよ! 唯の筋肉だよ! 畜生、何でオカマなんだよアンタ!
何で沙都子先生のそっくりさんは妙に厳しいんだよ! やたら冷たいし、先生じゃないし、甘えられないし!!
おっぱい大きいし、物凄い美人だから嫌いにはなれないけどさぁ!!
「うぅうううううっ!!」
「あ、泣いた!!」
「えっ、マジ泣き!? ちょっとー、コバヤシくんの涙腺緩すぎんよぉー!!」
「いいわ、泣いていいのよ……コバヤシくん! 貴方は私の誇り……でも今は弱さを見せてもいいのよ! 先生は貴方のどんな姿でも受け入れてあげるわ!!」
沙都子先生から聞きたかった言葉を尽くオカマが代弁していく!
もうやだぁ! 返して、俺たちの沙都子先生を返してよぉ! 優しくておっぱいの大きい眼鏡美人の沙都子先生を返してくれよぉおお!!
\キーン、コーン、カーン、コーン/
「はーい、休み時間よー。次の授業はしっかり受けるのよ? 次が終わったらお昼休みだからぁ、その時にまたはっちゃけなさぁい!」
「あーい、先生またねー」
「今日もラルフ先生、可愛いよ!!」
「あらぁ、ありがと田代くぅん! お礼にテスト内容を貴方だけ簡単なものに変えてあげるわ☆」
「イェアアアアアアアアアアア!!」
「あ、ずりぃ!!」
「先生、先生! 可愛いよ!! めっちゃ可愛いよ!!!」
「うふふふー、心が籠もってないわね。ざーんねーん!」
「クソァ!」
◇◇◇◇
「はい、午前の授業はここまでー!」
「飯じゃぁー!」
「購買行くぞオラァ!!!」
「横田ァ! 100円やるから俺の代わりに午後茶と極みドッグ買ってこいやぁ!!」
「あー……やべ、全然頭に入らねぇ」
4限目が終わって昼休みに突入する。あー、やっぱり頭に入ってこねえなぁ……英語の授業だったからかも知れないが。
「よー、コバヤシ。おつかれさん」
「何か安藤に褒められると気持ち悪いな」
「ぶち殺すぞテメー」
「いやー、昨日のコバヤシくん凄かったですなー。俺でもときめいちゃったわー、さっすがお兄さん」
誰がお兄さんだ、田中テメーコラ。
言っておくがテメーに妹はやらんぞ? 山崎とかいう毛虫も論外だ、奴は次に近づいたら殺すと決めているから問題ないが。
「でも珍しいな、いつもは余裕で勝ってるのになー」
「昨日のコバヤシはちょっとヒヤヒヤさせてくれたなぁ」
「うるへー、俺だってビビる時はあるんだーい」
登校時の盛大な歓迎の後なので暫くはちやほやされるかと思いきや……何だろうね、このアンニュイな感じ。でも下手にちやほや継続されたら拒否反応が出てただろうなぁ。
うん、これだよ、これ。やっぱり小林くんには平穏な日常が性にあってるよ。
「まー、あのデカさは流石にオワタと思ったね」
「うん、死ぬ前にメイコちゃんに告白しにいこうかと思ったよ」
「田中、お前に妹をやるくらいなら安藤にくれてやる」
「お兄さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! あんまりですぅ!! 僕は本気で貴方の妹のことを!!!」
「うるせぇ、お兄さんと呼ぶな。吊るすぞ」
「ありがとう、お兄さん。俺、妹さんを幸せにします……この命にかけて!!」
冗談に決まってんだろが、安藤。田中と同じ穴の狢のクズたるお前に可愛い妹をやるわけねえだろ。
「しかし、戦いが終わっても大変だったわー」
「ほーん?」
「そうなのか?」
「何か朝起きたら全身筋肉痛でよー? 動けなかったわけよー」
「そりゃ、あんな戦い方したらなー」
「でさー、あんまりにも動けないからねー」
「うんうん、お医者さん行ったのね? 仕方ないわー」
「お前の体治せるお医者さんいたんだな。すげーわ」
「いや、フリスさんに治してもらったの。なんか、怪しいプールに入れられてね? 水着姿のフリスさんがねー……」
その瞬間、教室の空気が変わった。
田中と安藤……そして隣で飯食ってた鈴木だけじゃない。教室に居たクラスメイト達の表情が、その一言を聞いた瞬間に変わった。
「……ん? どうした、お前ら」
「……コバヤシ」
「何だよー、お前らも知ってるんだろ? 俺の身体はフリスさんに」
「「「死ぬ準備をしろ」」」
その時の俺は浮かれていたのだろう。
忘れてしまっていたのだ……この教室で生きていく上で、何よりも大切な事を。俺の周りにいる全員が、彼女無しのド畜生共であった事を……。
「守るべき馬鹿達」-終-
/KOBAYASHI\




