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「指差す先に……」

そして二人はまた出会ってしまった。


終わったはずの夢が、もう一度始まってしまう。

「おー、お疲れ。随分と顔色が良くなったじゃないか、タクロー」

「……ソウデスカ」

「ご心配おかけしました、お父様。タクローはもう大丈夫ですよ」

「いつもありがとうね、フリスさん。助かるよ」


 地下室のエレベーターから地上に上がり、俺は食卓で呑気にお茶を飲んでる親父を見て軽く苛ついた。


「……」

「どうした、タクロー。折角、体の調子が良くなったんだからシャキっとしろよ」


 できるかい!!


 もうヘトヘトだよ俺は! あんな経験、初めてだよ! 寿命縮んだわ、下手したらもう寿命使い切った可能性すらあるわ!!


「もうタクローの体は万全です。これで安心して学校に行けますね」


 え、登校する気力なんて無いんですが。


「今日は学校休もうかな……」

「えっ! まだどこか悪いところでも……!?」

「いや、そうじゃなくてね……」

「何なら、もう一回くらいメンテナンスしてもらったらどうだ? 元気出るかも」


 >殺す気か!!<


 もしかしてこの親父、覗いてたんじゃないだろうな?


 いや、流石に無いと思いたいけど……俺の親父だしなぁ。血が繋がってる以上は俺と似たところがあるはずだし。因みに俺が逆の立場だと、覗きはしなくても聞き耳は立ててますね。


「冗談だ、とりあえず顔くらい出しておけよ。友達が待ってるだろうし」


 あー……、あいつらね。


 うーん、どうしよっかなー。このだるい体をおしてわざわざあいつらの顔を見たいとも思わんなー。


「タクロー、行きましょう。きっと皆が貴方を待っていますよ」


 フリスさんが俺の腕を掴んで誘っている。ああ、逃げられなーい!


「気分が悪くなったら、保健室で寝るなり帰ってきたらいいからな。ほい、お前の鞄だ」


 ポイッ


「うおっ、投げんな!」

「じゃあ、そいつをよろしくな。フリスさん」

「ふふふ、行ってきます。()()()


 フリスさんにお父様と言われて親父の目が点滅する。


 すげえ嬉しそうだなー。完全にロボな見た目だけど思いの外感情豊かなんだよな、今の親父。面白いわー……あ、赤くなってる。照れてやんのー、ははーっ!


 でもなんだろうな、何か腹が立つ。


 中途半端に手を抜いたデザインしてるからだろうか……ずっと見てると無性にイラっとしてくる。お母さん、よくこんな顔の人と愛を育んだね。



「今は、もう10時30分か……」


 家を出てフリスさんと二人で通学路を歩く。


 通学時間がとっくに過ぎたからか昨日に比べると明らかに人通りが少なく、建物の形とすれ違う人の姿に目を瞑れば本当に いつもの通学路 そのままだった。


「おはよう、コバヤシ君!」

「……おはよーございます」

「はっはっ、今日もまた遅刻かい?」


 せめて元の面影を多少なりとも残してほしいですね……、笑顔でアイサツされてもこっちは貴方がどちら様なのかわからないんですよね。


「2限目が終わるくらいの時間だなぁ」

「遅刻ですね、お互いに」

「その……ごめんね? 俺は」

「いいんですよ、もう気にしてませんから。でも……」


 俺の横を歩くフリスさんは上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる。


「次からは、逃げないでくださいね?」

「えっ」

「貴方の身体には、この国の運命が託されていますから」


 >K.O.<


 逃げ道塞いできた! 逃さないように先手を打ったよ、この娘! 可愛い顔してとんでもねぇ!!


「ま、まぁ……うん。次がいつ来るかわかんないけど……その時はお願いします」

「はい、お任せ下さい……それと」

「それと……?」

「もしあの姿が気になるなら……次からはバスタオルを用意しますよ?」


 助けて、お母さん! 助けて、沙都子先生! 僕どうしたらいいの!?


「え、ええと……」


 いやいやいや待て。ここで母と恩師を頼ってはいけない。


 ここは自分に正直に言うのだ。フリスさんは16歳。まだまだ未成年だ、そんな華の10代な彼女にあのような過激な格好をさせるのはどうかと思う。例えあの水着に重要な意味があろうとも、少しでも肌を隠せるのなら……


「うーん、でも……」


 だが敢えて言おう、それがいい。


「……あの……」


 ここで日和ってはいけない! 彼女があの水着を着たという事は、つまり俺にもあんな大胆なお姿を見せてもいいという覚悟があるのだ! ならば俺もそれに応えねばならぬ! 男として!!


「ふふ、あの姿でも大丈夫そうですね」

「アッハイ」


 あっ、もう駄目だ。完全にマウント取られたわ。


【……】


 さっきからやけに静かですね、アミダ様? そうだね、俺が黙っててくれって頼んだからだね。ごめんね、許して? だからお願い、その冷たい沈黙をやめてください。


【……】


 畜生めぇ!


「それとも……やっぱり、あの格好だと抵抗ありますか? 似合ってないとか……」

「そんなことありません! 凄く似合ってました! 滅茶苦茶綺麗でした!!」

「ふふっ、ありがとうございます」

「……」


 タクロー君がフリスさんと一体どんな日々を過ごして来たのか、俺にも何となくわかってきたわ。詳しい事まではともかく、大体わかってきたわ。男は辛いよね。


「似合ってましたか、うふふっ。今の貴方にもそう言って貰えて幸せです」


 ほらー、もうこのフリスさんの余裕よ。完全に手玉に取られてるじゃん。


「……フリスさんはあの格好、恥ずかしくないの?」

「正直に言うと……恥ずかしいです」


 でしょうね!


 逆に恥ずかしげもなく披露されたらちょっと引くわ。まだ僕は性欲よりも理性が勝っている健全少年を自負しておりますので。田中や安藤(クズ共)とは違うのだよ、田中や安藤(クズ共)とは。


「でも、貴方がちゃんと見てくれるなら……」

「えっ?」

「私、頑張れます」



 >>FATAL K.O.<<



 駄目だよ、この娘……男を駄目にするどころかクズにする人だよ! やっぱり歩く青少年殺戮兵器だよ! どうやったらこんな娘に育つの!?


「あんまり頑張りすぎないでね? あと、まだ俺たち未成年だからね?」

「わかっています。ちょっと……誂いたかっただけ」

「意外と意地悪なんだね、フリスさんは」

「……貴方にも、意地悪されましたから」

「えっ?」

「気づいてないんですね。酷いです」


 ……これが魔性の女というものか。


 どうしよう、もう一緒に歩いてるだけで心臓がヤバい。あうあう。


「ふふふ、やっぱり困った顔も可愛いですね。タクローは」

「いい加減にしないと怒るよ?」

「はい、ごめんなさい」

「……」

「……」

「……はっはっ」

「……ふふふ」


 何だか自然と笑いが出た。


 なんだろうな、この不思議な感覚……これが幼馴染ってやつか。


【……報告、コバヤシ・タクローのステータスに大幅な変化アリ】


 精神状態:『不良』→『良好』。精神が不良から良好に回復。特に問題ナシ。


【……良い一日を】



 はっはっ、どうも! 何だかんだで良い一日になりそうですよ、アミダ様!!


「でもやっぱり、笑った顔が一番可愛いですよ」

「この顔を可愛いとかいうのは世界でも君くらいだろうねー」

「そんなことありません、貴方のお母様やお父様もそう言います」

「あっ、母さん出すのは卑怯だよ」

「ふふふふっ」


 こんな日々も悪くはないかな。いや、タクロー君には悪いかぁ……ははは。でも、慣れてみたらこの体も



《ボクも可愛いと思うよ? キミの顔……》



「……え?」


 何だ、今の声。何処から聞こえた? 誰の声だ……??


《そうそう、その困った顔。ボクはその顔が好きだよ……》


 この声、聞き覚えがあるぞ……。これは……この声は……!


《ふふふふっ、()()()()()()()()。ボクの声が……》


 あの〈夢〉の……!!


《久しぶりだね、タクロー君》


 一瞬だったが、俺には見えた。


 俺を心配するフリスさんの後ろ。少し離れた位置に、女の子が立っていた。何だ? あの髪の色、雪みたい……いや、雪なんてもんじゃない。雪より白い、真っ白だ。


 ボロ布を衣服のように身に纏う、〈白い髪の女の子〉が笑いながら俺の名前を……。


「……タクロー?」

「えっ、あっ!」

「大丈夫、ですか?」

「いや、その……君の後ろ……あれ?」


 俺が指差した先に、あの女の子はもう居なかった。その代わりに……


「あ、ばばぁー! あのおにーちゃんが何かこっち見てるよー!!」

「おやおや、もうバレたのかい。()()()()()()おったつもりなんだがのー」


 昨日のババアと、元気そうな女の子が立っていた。


「……走ろうか、学校まで」

「え、大丈夫ですか? タクロー……」

「あ、おにーちゃんが逃げるよ!」

「ちっ、仕方ない。儂らも走って追いかけるか!」

「ねぇ、ばばぁ! 今日はガッタイ見れるー!?」

「見れるわぃ、あの娘の顔を見ればわかる! あの娘は」


 だから孫に何言ってんだよ、ババァァ────ッ!!


「走ろうか!?」

「えっ、あっ……待って! 急に……ッ!!」


 俺はフリスさんの手を掴んで走り出す。しかしあのババアと女の子が全速力で追いかけてきた!!


「待ってー! ガッターイ!! ガッタイ見せてー!!!」

「別にええじゃろ!? 見せてみぃ、見せてみぃー!! この前の続きぃ!!!」

「ふざけんな! ってか何なんだお前ら!? 追いかけてくんな!!」

「ジジイとは最近、()()()()なんでの! 若い子らのを>あれやこれや<を話したらジジイもやる気だすと思うてやぁああー!!」


 >このクソババア!!<


 ひたすらに走った。フリスさんと手を繋ぎながら、俺は学校目指して一心不乱に走り続けた。


「ま、待って……私……運動が……!」

「えぇい、しょうがねぇなぁー!」

「えっ……きゃあっ!」

「あっ、ばばぁー! おにーちゃんがおねーちゃんを抱っこしたよー!!」

「何ぃ!? まさか走りながら……あの小僧やりおるわ!!」


 フリスさんを抱き上げ、俺は暫く妖怪ババアや小鬼めらと追いかけっ子をする羽目になった……


 さっきの〈白い髪の女の子〉の事なんて一瞬で頭の中から消し飛んでしまっていた。


「あーもー、やってらんねぇぇー!!」


【……良い一日を】


「ありがとうよ、畜生ォー!!」


 昼が近づくほっこり爽やかな午前の町を、フリスさんをお姫様だっこしながらひたすら走り続けた。



「指差す先に……」-終-


\KOBAYASHI/\Frith/

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