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「パートナー」

久々に会った友人に「お前、誰?」って言われると辛いですよね。ましてや、昨日までの友人に言われたら……

「ふむ……」


 少し時は遡り、問題の地下室の前。タカシは目を光らせながら壁に耳を立てて中の様子を伺っていた。


『えっ、何!? 大丈夫!!?』

『だ、大丈夫です……気にしないで……あぁっ!!』

『ええと! なんか凄い声出てるよ!? フリスさ』

『大丈夫ですから……っ! 私に、任せて……っ!!!』


 息子は今、フリスによる調整(メンテナンス)を受けている。


 その詳細な内容はコバヤシの父であるタカシも知ることは出来ない。しかし調整(メンテナンス)を怠れば、コバヤシの命が危うい事だけは知らされている。何が起きているのかはさっぱりわからないが、息子の命を救うべく麗しい乙女が一肌脱いでいる事だけは何となく察していた。


『はぁ……はぁ……んっ! だい、じょうぶ……ですからっ!!』

『ダイジョウブ!? ダイジョウブってなんだっけ、日本語だっけ!!?』

「……」


 ちなみに娘のメイコも調整(メンテナンス)の内容こそ知らされていないが、地下室から聞こえてくる喘ぎ声で色々と察しているらしい。詳細な内容は知らないので()()()()()が多分に含まれているが……


『あはぅぅっ!!』


 フリスの発する扇情的かつ官能的で、青少年はおろか既婚者であるタカシにすら揺さぶりをかけてくる喘ぎを一度でも耳にすれば無理もない事だろう。


「……あれで16歳か。最近の若い子って凄いんだなぁ」


 タカシは目を信号機の光のように目まぐるしく色を変えて点滅させ、このドアの向こうで繰り広げられている少年少女の秘め事の過激さに頭を悩ませていた。


『あっ、駄目! まだ、動かない……あはぁっ!!』

『ちょっ、もう勘弁して!? 俺は()()()()()()!!』

「え、もう出るの? 早くね??」


 当然、タカシの想像している秘め事にも勝手な想像が多分に含まれている。


『ふあぁああっ! だ、駄目ぇっ!!』

「フリスさんも頑張ってるんだからさ、男のお前が意地を見せなきゃ駄目だぞー」

『あびゃああああ!?』

「あー……、こりゃ駄目だ。今日も負けだな」


 タカシはドア越しに聞こえてくる二人の会話を聞いて何かに落胆した。


「お母さん聞いてる? 俺たちの息子は()()()()()……女に弱いのも似ちゃったのかなー。君の遺伝子が入ってるから、ひょっとしたらーって思ったんだけどね」

『た、タクロー! まだっ……駄目ぇぇぇぇぇーっ!!』

『あ゛あ゛あ゛も゛お゛お゛や゛た゛あ゛あ゛あ゛────!!!』

「……」

『……』

『……』

「……果てたか、息子よ。今日のは35点ってところだな」


 息子の戦いを壁越しに見届けたタカシは、小さな溜息を吐きながら地上へと続くエレベーターに乗った。



 ◇◇◇◇



「え、ええと……」

「はぁ……はぁ……」

「……大丈夫?」


 何か気が付いたらフリスさんが俺の背中でぐったりしてる。


 何があった。彼女の体に何があったんだ……。


「だ、大丈夫……です。これで、貴方の体も……」

「そ、そうですか……」


 あれ、そういえば体の痛みが無くなってる。


 この部屋に連れてこられた時は全身が痛くてろくに動けないくらいだったんだが……このプールに入って白ビキニのフリスさんに抱き着かれてから体から痛みが抜けていった。


「で、では……調整(メンテナンス)を終了します。お疲れ様でした」

「うおっ!?」


 彼女が終了と宣言した途端に、開いた体の装甲が閉じて元通りになる。



【……調整完了率100%。調整終了】


抑制装置(リミッター)チェック開始……】


 《能力抑制コード01》……正常

 《能力抑制コード02》……正常

 《能力抑制コード03》……正常

 《能力抑制コード04》……正常

 《能力抑制コード05》……正常


【……完了。〈エンヴリヲ〉の状態……良好。調整(メンテナンス)成功、損耗レベル3から回復……調整享受態を解除。以後、〈日常態〉にて活動開始】



 アミダ様が何やら色々とチェックをしてくれた。相変わらず何が何だかよくわからんが、もう【警告】の文字も表示されないから大丈夫そうかな……?


 にしてもこの能力抑制コードって何ぞ??


【……】


 相変わらず説明しねーな、アミダ様は!


「な、何だかわからないけど……ありがとう」

「ふふふ……どういたしまして」


 〈ウテルス〉の液体から放たれていた青い光も弱まり、本当にただのプールみたいになった。


「じゃ、じゃあ出ようか……もう体の調子も戻ったみたいだし……」

「そ、そうですね。お父様も心配していますし……あっ」


 むにゅんっ。


 フリスさんは立ち上がろうとしたが、力がうまく入らなかったのか俺の胸にしがみついてきた。


 >乳<

 >股<

 >太もも<


 男を惑わす女の>五大必殺兵器(フィフス・エレメント)<の内三つが俺の体に押し当てられ、俺は軽く行動不能に陥った!


「……」

「……あ、あの、ごめんなさい」

「……いえ、むしろ……なんかこう……」


 >ありがとうございます!<


 因みに残り二つは尻とお腹ね。これは個人的な趣味趣向が多分に含まれてるけど、俺はこの五つを女の五大必殺兵器(フィフス・エレメント)と呼称している。深く考え出すとキリがないからね、わかりやすいのを上げただけなんだけどね。


「……立てそう?」

「だ、大丈夫……立てます……からっ!」


 フリスさんは立ち上がろうとするが力が入らずに俺にもたれ掛かり、その大きな胸をむにゅうんっと当ててくる。


「……んっ!!」

「駄目そうですね……」


 立とうとする度に彼女は体勢を崩し、胸をむにゅんむにゅんと押し当てて俺を追い詰めてくる。ヤバい、心臓が弾けそう。誰か助けて。


「ご、ごめんなさい……上手く、体に力が入らなくて」



 精神力:『≧≦』→『良好』。未知の精神状態から良好に変化。心拍数の異常な上昇を確認。興奮状態。



 それにしても本当に生意気なOPPAIしてるな、君は! 思いっきりむんにゅーって当たってるんですけど!!


「……と、ところで聞いていい?」

「……何でしょうか、タクロー?」

「もしあのままメンテナンスしてなかったら、俺はどうなってたの?」


 どうせ動けないし、今の内に聞いておこう。いや、俺は動けるよ? 全然、動けるんだけどね??


 動いたら負けな気がする。何故かはわからない……だが、俺の中の 男 がそう言っている。


【……】


 おう、アミダ様。君が何を言いたいのかはわかってる。だけどそっとしておいてくれ。お願い。


「……調整(メンテナンス)を怠れば、貴方の体に宿る力が暴走してしまいます」

「……マジですか」

「普段の貴方は、その力を抑える為に何重もの〈抑制装置(リミッター)〉がかけられています。でも、戦闘中の貴方はその〈抑制装置(リミッター)〉が強制的に解除され、戦闘後に再び力は抑制されますが……」


 なるほど、そういう事か。つまり今日の小林くんの体は、盛大な筋肉痛だった訳ですね! よくわかんないけど!!


【……理解力に難アリ】


 今朝からアミダ様が俺をこき下ろしてきて辛い。もうヤダ、このツンドラAI。何が阿弥陀(AMIDA)だ、鬼(ONI)か般若(HAN-NYA)の間違いだろ!


「それでも、自分だけでは抑えきれないくらいに貴方の力は強いの。そして、その力が暴走すれば……貴方の体ごと……この国は滅びてしまうんです」

「……とんでもねぇな……本当に」

「だから、()()()が傍に居るんです。私たち〈調整者(メンテナンサー)〉が……」


 ヤバイな、タクロー君の体。自分の力で自分ごと国を滅ぼしかねないとか……人生ハード過ぎねえか?


「この〈調整槽(ウテルス)〉を介して私たちが貴方の肉体に接続(コネクション)し、〈抑制装置(リミッター)〉の効果を引き上げます。それと同時に、力の解放によって疲弊した貴方の肉体の修復も行うんです」

「なるほど……で、君が苦しむのは……」

「……その、接続(コネクション)中は貴方と同調(シンクロ)してしまいますので……貴方の体の〈痛み〉も……」


 えっ、フリスさんにも()()()()が伝わっちゃったの!?


 そりゃ喘ぐよ! 大丈夫!? 男の俺でも動けなくなるくらいのヤバさだよ!?


「その、痛みがちょっとした〈刺激〉として伝わりまして……」

「え、刺激? 筋肉痛みたいなのとは違うの?」

「はい。痛いと言うよりは……その、()()というか……」


 え? 何その仕様……ちょっと気になる。詳しく話して貰おうじゃ……


「ご、ごめんなさい。私からはちょっと……!」


 すみません、調子に乗りました。


 もう何も聞きません。だから顔を赤くしないで! 君の体が密着してる状態でそんな乙女の顔にならないで! 息が止まっちゃうから!!


「そ、そろそろ出ましょうか……タクロー」

「アッハイ」

「……」

「?」

「あの……その前に一つ、聞いてもいいですか?」

「ん、ああ。何かな?」

「食卓で貴方が言った言葉……嘘ですよね?」


 フリスさんは、俺の顔を見つめながら言った。


「……えっ」

「だって昨日……貴方は言いました。私のこと()()()()って」

「え、ええと……! あれはそのっ……!!」

「……それじゃあ、私のことを思い出してくれましたか?」

「……ッ!!」

「貴方は、私をパートナーだと思ってくれていますか?」


 俺はその言葉に返す言葉が見つからなかった。


「……ごめんなさい。少し言い過ぎました」

「お、俺は……君が」

「パートナー……とまで思ってくれなくても構いません」

「……」

「ただ、タクローの傍に居させて貰えるなら……私はそれでいいの」


 ただただ硬直しながら、俺の体に肌を密着させる彼女の顔を見つめる事しかできなかった。


「……君は、どうなんだよ」

「私ですか?」

「フリスさんは今の俺を、どう思ってるんだ?」

「……ふふふっ」


 目眩がするような感覚と、痛いくらいに高鳴る鼓動を堪えながら俺は彼女に聞いてみた。すると彼女は少しだけ寂しそうに笑って……


「私は、タクローのパートナーですから。これまでも、これからも……」

「……」

「だから、貴方がタクローで()()()()()()()……私は貴方のモノです」


 フリスさんは宝石のような瞳を少しだけ濡らしながらそう言った。


 ……なぁ、沙都子先生。こういう時、俺は……彼女になんて言ってあげれば良いんだ?



 精神状態:『良好』→『不良』。精神が良好から不良に悪化。



「パートナー」-終-


\KOBAYASHI\Frith/

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