「俺の名は」
そして、気が付けば 俺の足元には巨人の死体があった。
『やりました、やってくれました……! コバヤシが、私たちのコバヤシがッ! 今日も〈終末〉をぶっ倒しましたぁあああー!!』
空で飛び回るリポーターさんが巨人を倒した俺を褒めちぎる。
『うぉおおおおおおおおおおー!!』
『流石、コバヤシさんだぁああー!!』
『俺は信じてたよ、コバヤシ! お前なら絶対に負けないってな!!』
『キャー! コバヤシサーン!!』
『コ、バ、ヤ、シ!』
『コ、バ、ヤ、シ!!』
_ 人 人 人 人 人 人_
>KOBAYASHI<
 ̄ Y^ Y^ Y^ Y^ Y  ̄
そして聞こえてくるのは、日本中の皆が俺を称える声。
『よくやったわ、コバヤシ君……! 昨日までとは別人のようになっても……やっぱり貴方は、コバヤシ君なのね!!』
「……そうみたい、です。沙都子先生」
『先生はやめなさい……でも、ありがとう。コバヤシ君』
沙都子先生……いや、サトコさんは涙ぐんだ声で言う。
何で泣いてるんだこの人、泣きたいのは俺の方だよ? どう受け止めればいいの、この状況を。
『今から迎えに行くわ。貴方の家まで送ってあげる』
「あ……はい」
『……どうかしたの? もしかして怪我を』
「いえ、何も。あんだけ潰されたり、殴られたり、踏みつけられたりされたのに怪我一つしてないです。すごいね、俺の肉体」
『……無事ならそれでいいわ。それでは通信を終わります』
巨人の攻撃で俺は何度もぶっ飛ばされた。
それはもうホームランとかK点超えとか生易しい表現じゃなくて、正しくゴミのようにぶっ飛ばされた。
ふっ飛ばされてる途中にビルを何個も突き破ったり、潰れたビルにぺちゃんこにされたり、追撃で踏まれたりとかもしたのに……
無☆傷ゥ!!
逆に俺の攻撃は巨人の体を面白いぐらいにズタボロにした。パンチ一発で右腕がぶっ千切れ。キック一発で足がなくなり、パンチ一発で胸に大穴が空き、パンチ一発で……
「どういうことなの」
俺は巨人の死体に座り込んで頭を抱えた。
おかしいよ、コバヤシ君のパワーおかしいよ。子供向け特撮番組のヒーローでも苦戦すると思うよ、この大巨人。そんな特撮ヒーロー案件の敵を……
瞬☆殺ゥ!!
頭痛いわ。怪我してないけど頭痛がするわ。どうしよう、これからどうしよう……
「タクロー!!」
ボケーッとしてたら空から誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた。迎えのヘリコプターが近くに着陸し、中から女の子が降りてくる。
「ああっ、タクロー!!」
彼女は半泣きで駆け寄り、泥だらけになった俺に何の躊躇もなく抱き着く。
あ、何だかむにゅっと柔らかいものが当たってる。それに凄くいい匂いがするー、わはー。
「貴方は本当に、本当に凄いです……!!」
「そーですか」
「大丈夫ですか? 怪我は……どこか痛むところは?? 何処かに異常を感じるなら言って下さい……私が調整しますから」
「うーん、頭が痛いですね」
「頭!? そ、それは大変……早く調整槽に!!」
「あー……あー……あーっ! 本当に、もぉおおー!!」
本当に誰だよ、この可愛い女の子は!
俺にこんな可愛い幼馴染なんていねーし! 毎朝家まで迎えに来てくれたり、手を繋いでくれたり、親公認の両想いヒロインなんていねぇぇぇーし!!
「タクロー……?」
「……何でも、ないです。フリスさん」
「あの……」
「はい、何ですか。フリスさん」
「……まだ、私の事を思い出せないのですか?」
「あはははー。うん……何か……もう、訳わかんねぇぇぇぇーっ!!」
でも、何故かこの子は俺のこと知ってるし!?
メチャクチャ俺と仲良かったとか言うし! ていうか呼び捨てにする間柄だって!?
「タ、タクロー……」
「何だよ!?」
「本当に、私が わからないのですか……? 私は……貴方の……ッ」
「ヴェァァアアアアアアアアーッ!?」
俺は叫んだ。もう叫ぶしか無かった。
目が覚めたら化け物の身体と入れ替わった挙げ句に日本の命運を丸投げされて……
「タクロー……!」
おまけにツインテールがチャーミングな 超絶美少女 が幼馴染面しながら僕に抱きついてくる訳ですよ!
泣きたくなる気持ちもわかるよね?
わかってくれるよね、ねぇ! ねぇ!?
「もうやだー! 元の世界に帰りたぁあーい!!」
「タクロー、しっかり! 誰か、救護班を!!」
「アッハイ! もしもし、応答願います!! コバヤシが先程の戦闘で重度のPTSDを発症……、繰り返します! コバヤシが……」
……今更だけど俺の名前は小林拓郎。昨日まで何処にでもいる普通の高校生だった。
親父と妹と三人で慎ましく暮らすフッッツーの16歳日本男児……
それなのに……ああ! それなのに! それなのに!!
どうしてこうなったぁぁぁ────!!?
「俺の名は」-終-
\KOBAYASHI/