「大人への階段」
知られざるコバヤシ家の秘密、そして……
「ごちそーさま」
「ごちそうさまです」
「ごっそーさん……」
結局、俺は朝飯を全部フリスさんに食べさせてもらった。
お味噌スープなんて大きめのスプーンで掬って、フーフーしてもらった後に頂きました。ありがてぇ、ありがてぇ……いやもう幸せです。
「しかし心配して損したなー、何だ君たちー熱々じゃないかー」
このクソ親父がニヤニヤしながら飯を口に運ばれる度に『美味しい?』とか聞いてこなけりゃな!
「それで、これからどうするんだ? そのザマで学校行くつもりか?」
「……そうだね、どうしようかな」
確かに箸すら持てないこの体たらくだと授業どころじゃないよなぁ。
ところで昨日、近所に〈終末〉とかいうヤバイ奴がやって来て町一つ駄目になったんですけど普通に授業やってるんですね。
やっぱりおかしいよ、この世界!
「とりあえず俺は今からお医者さんに行くべき? さっきから何か身体の節々がチカチカ点滅してるんだけど」
「お医者さんにタクローを連れて行ってもお医者さんが困るだろ」
ホントにこの親父さー、どうしようか?
出来ることなら今この瞬間にでも顔面に右ストレート叩き込んでやりてぇわ。俺、アンタの息子だよ? 息子の身体が何か点滅してるんだよ? もうちょっと心配しようよ!!
【……】
アミダ様も黙ってないで対処法か何か教えてくれないかな!?
「じゃあどうしろっていうんだよ!」
「だから昨日の〈調整〉をサボったからそうなったんだよ」
「え、何? メンテナンス……??」
そういえばちょくちょく会話に出てくるな、その単語。アミダ様もしつこく表示していたような……。
「タクロー、少しいいですか?」
「え? 何……」
コツン
精神状態:『注意』→『平常』。精神が注意から平常に回復。一時的な興奮状態。心拍数の上昇を確認。
フリスさぁぁぁん!? いきなり何するのぉおおお!!?
やめて、いきなり俺のオデコに貴女のオデコを当てないで! 心臓が、心臓が止まっちゃう!!
「あらあらまぁまぁ」
おい、ロボクソ親父。その目をやめろ。その電球みたいに光る目で俺をガン見するのをやめろ。それと顔を染めるのもやめろ。
「……あっ!」
「……な、何だよ?」
「落ち着いて聞いて下さい、今の貴方はとても危険な状態です……」
「え、そうなの?」
何が危険なんですかね……。いや、今の僕からすれば君の方がよっぽど危険な存在なんですけどね?
「お父様、早急に〈調整槽〉の準備をお願いします……」
「え、何? ウテ……何だって??」
「……本当に手間がかかる息子だなぁ」
「何? 何がヤバいの!?」
「はい、大変危険です」
【……警告、警告。損耗レベルの上昇を確認。損耗レベル3。臨界点間際。これ以上の放置は非常に危険】
だからどうヤバイのか教えてくれない!?
損耗レベルとか臨界点とか表示されても馬鹿にはわからないのよ!?
「このままだと……タクローが爆発してしまいます!」
>爆発!?<
小林くん爆発しちゃうの!? 何それ怖い!!
「そこまでやばかったのか!?」
「は、はい。だから急いでください!」
「お、俺の体に一体何が!?」
「わ、わかった!」
「早くしないと……タクローが! タクローが……!!」
「あの、もしもーし……」
「だ、大丈夫です! タクローには私が着いてますから!!」
【……警告、警告、警告】
>だから説明ェェェェェェイ!!<
誰でも良いから説明してくれやぁ! 小林くんの体に何が起きてるんだって聞いてんのよぉ!!
「あの……フリスさん。僕、死ぬの?」
「だ、大丈夫です! タクローの体はちゃんと私が〈調整〉して治しますから!!」
「あの……フリスサン。メンテナンスって何……?」
「お父様、急いで! もうタクローの記憶が曖昧になっています! このままだとタクローが……!!」
「よし、準備出来たぞ! 頑張れ、タクロー! もう少しの辛抱だぞ!!」
「えーとね、んーとね」
「ああっ、タクローの言語中枢に異常が! 曖昧な言葉しか言えなくなって……!!」
「うおおおお、タクロー! 生きろ! お父さんより先に駄目になるんじゃない!!!」
【……警告、警告、警告】
俺の話を聞けェェェェェー!!!
説明もなしにシリアスな空気に浸ってんじゃないよ! フリスさんも何で泣きそうになってんだよ!! そして親父は俺を抱えて何処に向かおうとしてるの!? 教えて、とにかく教えて!?
「しっかりしろ、タクロー! 今からフリスさんが治してくれるからな!!」
「……」
「ああっ、タクロー! しっかり……返事をしてください! 駄目、まだ壊れないで!!」
「頑張れ、タクロー! 頑張れぇ! まだ壊れるんじゃなぁぁぁい!!」
【……警告。コバヤシ・タクローの】
「三人共、俺のこと馬鹿にしてるよね?」
【……】
その沈黙は馬鹿にしてるって事ですね、アミダ様?
◇◇◇◇
「……何だ、意識がハッキリしてるなら言ってくれればいいのに。心配して損したぞ」
「心配してくれてありがとうございます、クソ親父。体が治ったらとりあえず本気で殴るけど良いよね?」
俺は親父に抱えられて謎の部屋まで運ばれた。
16年生きてきたけど、自宅に地下室があるなんて知らなかったわ。あと、廊下に音声認識システム搭載の隠し扉があるのも知らなかったわ。大丈夫? 凄いお金かかってそうなんだけど、親父の安月給で何とかなったの……?
あ、そういえばこの家は俺じゃなくてタクロー君の家だった。あまりにも違和感なく馴染んでるからもう完全に我が家と認識してたぜ!
「身体は自分で動かせるか?」
「寝起きに比べれば少しは、動けるようになった……かな。あだっ、あだだだだだだ!」
「全く、仕方ないなぁ……」
「何だよ、親父。てかこの部屋は一体……」
「お父さんが脱がしてやるしかないか」
……えっ?
精神状態:『平常』→『注意』。精神が平常から注意に悪化。
「は? 親父、何言って……」
「暴れるな、今からお父さんがタクローを 丸裸 にしてやる」
「え、待って? 何を」
「暴れるなって……もう慣れっこだろう?」
俺に何をする気だ、親父ィィィィイ────ッ!?
うぉおおおおお! 触るなぁ! 俺の服に手をかけるなぁ! やめてぇ、お父さんやめてぇえー! 脱がされるぅ! 俺の服が親父に脱がされてるぅう!!
「やめるぉ! 親父ィ、やめるるぉおおおお!!」
「暴れんなよ、暴れんなよ!!」
「アッ──────────!!」
……気が付けば俺は服を親父にひん剥かれ、生まれたままのあられもない姿を超合金のケダモノの前に晒していた。
「うっ、ううっ……!」
あられもないっていっても、何かSFメカ成分多めの何だか凄みのある肉体になってますけどね。本当に母さんはどうやって今の俺を生んだんだろうな……不思議でしょうがねえわ。
「……うぐっ、えぐっ……!!」
「何で泣いてるんだタクロー、本当に大丈夫か?」
「泣くに決まってんだろうが、バカヤロー!」
親父にいきなり怪しい部屋に連れてこられたと思ったら、無理矢理服を脱がされたんですよ!? 誰だって泣くわ! まさか親父が そんな奴 だなんて思いもしなかったよ!!
そして無理矢理穿かされたこの趣味の悪い ビキニパンツ は何だよ!
誰得だよ、誰が得するんだよこんな展開!!
「泣くな、これもタクローの体を想ってのことなんだ」
「ひでぇ、ひでぇよ親父! これが親父のすることかよ!? ていうか何だよこのパンツは! 息子にこんな趣味悪いもん着せんなよ!」
「親父だから出来るんだよ! それにそのパンツは〈コバヤシ専用高シンクロ調整装衣二型-武-〉っていうタクロー専用の大事な装備なんだよ! それがないと始まらないんだよ!!」
何がだよ!?
「どうですか、お父様……準備の方は」
「とりあえず服は脱がしておいたよ、後は……」
「はい、私に任せてください……お父様」
あれ、フリスさん!?
どうしたの急に現れて……おい親父何処へ行くんだ、息子の服をひん剥いて何処へ行くんだよ! 何かフリスさんの顔がちょっと赤くなってるんですけど!? ねぇ、ちょっと!!
「ああ、そうだ。言い忘れてた……」
「!?」
「頑張れ、タクロー! 今日ぐらいは勝てよ!! いつもヒィヒィ言わされて情けないからな!!!」
「どういうことなの!?」
何だこの状況。いきなり親父に服を脱がされて……そして何故か頬を染めてそわそわしている幼馴染と謎の部屋で二人きりにされてしまったんだが。
「タクロー……」
「アッハイ、何でしょうか」
「……あのドアの向こうに調整槽があるので、先に入って待っていて貰えますか? その……私も着替えますから……」
「えっ??」
「あの……流石に、私でも脱ぐのを見られるのは……ちょっと恥ずかしいですから……」
俺、小林くんは何となく察した。
相変わらず展開について行けないが、頬を染めるフリスさんを見て察した。そして彼女がブレザーを脱ぎ、胸元のボタンを外し始めたのを見てふとこんな事を考えてしまった。
「あ、あの……タクロー?」
「アッハイ、向こうで待ってたらいいんですね? わかりました……いてっ、いてててて」
「あっ、ご、ごめんなさい! 今の貴方はっ……」
「大丈夫、大丈夫! ちょっとくらいは動けるから!」
ひょっとして俺、大人の階段登ろうとしてるんじゃないでしょうか??
精神状態:『注意』→『平常』。精神が注意から平常に回復。一時的な興奮状態。心拍数の上昇を確認。
「大人への階段」-終-
\OYAJINGER/×KOBAYASHI×\Frith/




