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「力の代償」

大いなる力には大いなる責任が伴う。そして代償も……

 目の前に映るのは、白い砂漠。


 周りを見回しても白い砂だらけ。人の気配はない。生き物の気配もない。


 あるのは白い砂と、変な形の岩と、雲一つない……ただ青いだけの空。


 此処は、何処だ? 俺は……ええと、確か自分の部屋で寝たはずだ。じゃあ、これは夢か。


 そりゃ夢だよな。俺はこんな白い砂漠に見覚えはないし、こんな砂漠で一人でポツンと居る理由もない。


 こんな白い砂と岩しかない、寂しい世界で……


【……ぁよう……】


 ……何だ? 誰かの声がする


【……よぅ、おぁ……う……ふふ……】


 何だ、上手く聞き取れない。


 誰だ? 誰かが俺に話しかけてくる。


 最初は曖昧にしか聞こえなかった誰かの声は、徐々に頭の中に響くようになっていく。


【……おはよう、はじめまして。もう一度、肉体を得られた気分はどう? この星の民よ】


 ハッキリと聞こえた、女の子の楽しそうな声。でも声の主の顔を見る前に、俺の視界は真っ白な光に包まれた……。


 ……

 ……

 ……


「うーん……うぅーん……はっ!」


 目が覚めると、もう次の日の朝になっていた。


「……ああ何だ、夢か。良かった……」


 さっきまで見ていた光景が夢だったことに俺はホッとした……が、顔を覆っていた自分の手を見て物凄く重い溜め息が出た。


「畜生め、こっちの悪い夢はまだ覚めねえのか……」


 直視するだけで憂鬱になる機械のような両腕、そして人間だった頃の面影を何一つ残していない頭部。最悪だ、今日も最悪の目覚め……


【……警告、警告、警告。コバヤシ・タクローのステータスに】


「あー、はいはい。おはよう、アミダ様。寝起きから気分が悪いってのね? 教えてくれなくてもわかっ……!?」


 次の瞬間、俺の全身に激痛が走った!


「……なっ、おっ……!? あだっ、あだだだだだだっ!!」

【……警告、警告、警告】

「な、何だっててててててっ!」

【……警告、能力開放の影響でコバヤシ・タクローの肉体各部に損耗を確認。至急、調整を……】



 診断結果:『G』……『危険』。損耗レベル2。肉体各部及び内部構造に異常アリ。これ以上の放置は危険。迅速な調整を要求。



「かっ、体……体がっ……がっ!!」


 目が覚めた途端に襲ってくる謎の激痛に俺は悶絶した。


 やばい、やばい、やばい! この痛みはやばい! これは命に関わる奴!!



【……警告、警告、警告】


 >WARNING<>WARNING<>WARNING<


「体ァ、いてぇよぉおおお────!!」


【……警告、警告、警告】


 >WARNING<>WARNING<>WARNING<



 視界が赤い【警告】の文字だけじゃなくていかにもヤバそうな黒と黄色の警戒標識のようなパネルと【WARNING】の文字が大量に表示される!


「あだっ、あだだだだだだ……あかーん、死ぬー……いたーい! いたーい! いたーい!!」


 >頭痛<

 >肩こり<

 >胸焼け<

 >腰痛<

 >その他<


 サ○ンパスでもどうしようもねぇ! っつーレベルで全身の筋肉とかもう全部が痛みだした。その辛さたるや、タフネスが取り柄の俺ですらベッドから起き上がれずに


「体がいてぇぇえょぉおおおお────!!」


 とか言いながら悶え苦しむレベルのヤバさだ!!


「体がぁぁぁ────っ!」

「うるっっっさいなぁ! バカ兄貴!!」


 あ、明衣子ちゃん! おはようございます、今日も可愛いですね!


 でも今の俺にバカ兄貴はやめて!?


「めーいーこーぉー」

「うわっ、何よ……どうかしたの?」

「体いたーい」

「あ、そう……」

「まじでいたーい、死ぬー」

「……じゃあ死んじゃえば?」


 >死んじゃえば?<



 精神状態:『注意』→『要注意』。精神が注意から要注意に悪化。



 ああもう、泣きそう。明衣子ちゃんの口が悪いのは知ってるけど、この状況で死ねはマジでやめて?


「ううっ、じゃぁ死にます……さようなら……」

「……冗談だってば。本気にしないでよ」

「ううっ、うぅうううっ!」

「ちょっ、何で泣いてるの!?」


 そりゃ泣くよ! むしろ何で泣かないと思ったの!?


「えー……そんなに痛いの?」

「……うん、まじで起きられない」

「何処が痛いの?」

「んとねー、何かねー……もう全身痛ァァァッ!!」


 明衣子が軽く俺の背中をポンと叩く。そして背中から広がるように全身を激痛が走った!!


「あばああああーっ!」


【……警告、警告、警告】


「ちょっ、ちょっと……本当に大丈夫!?」

「だから起きられないくらい痛いんだってばぁ! 本当に兄ちゃんの話聞かねーな!!」

「だって兄貴、何やっても死なないし……」

「死ななくても痛いの!」


 あーもー、本当にひでーなこの妹。母さん似の美人じゃなかったら全力でほっぺ抓ってたよ! いやもう、美人とか関係なしにほっぺ抓ってやりたいよ!!


 でも、そんな君をお兄ちゃんは何よりも大事に思っています!!


「でも兄貴、フリスちゃんに()()()()()()()()()大丈夫なんじゃないの?」

「な、何が!?」

「え……その、ほら……」

「何だよ!?」


 急に明衣子の反応がおかしくなる。何だ、一体どうした。何で兄貴の前で顔を赤くしてんの?


「べ、別に……何でもない」

「はぁ!?」

「何でもないっつってんのよ、バカ兄貴!」

「え、待って……ちょっ、助けて!? まじで今動けな……」

「知らない!」


 そして明衣子は動けない兄様を残して一階に降りていった。さて、どうしよう……。


 マジで、今日が俺の命日になるかもしれない!


「明衣子ちゃーん? あのー……」


 何とか気合で体を動かし、ベッドに座るが立ち上がれない。何なんだよ、本当に……この痛み尋常じゃねぇぞ……!


「めーいちゃーん?」


 中学生時代に五人の修羅(ふりょう)に囲まれて情け無用の強制胴上げで弄ばれた挙げ句、地面に背中から落とされた時でもここまで痛くなかった。次の日全身打撲で地獄を見たが、それでも何とか動けるくらいの余裕はあった……


「めぇーいちゃぁーん!」


 だが今は立ち上がる事すらできぬ。できぬのだ……。


「めぇぇぇぇぇぇいちゅぁぁぁああああああ────ん!!」


 だから助けて! お兄ちゃんを助けて! 何でも言うこと聞きますから!!


「はーぁーいー! 呼んだかな、お兄ちゃん!!」


 そして現れたのは親父だった。


 お手軽落書きロボと化した親父が裏声で気持ち悪く笑いながら俺の部屋に入ってきた……。


「……」

「どうした、タクロー。まるで不発した劣化ウラン弾みたいな顔してるぞ」


 どんな顔だよ!? 本気で返事に困るような微妙な例え方やめてくれる!?


「……親父ィ、体痛い」

「そりゃそうだ。お前、昨日 〈調整(メンテナンス)〉サボっただろ」

「何? めんて……?」

「うん、メンテ。フリスさんがあんなに心配して声かけてくれたのになぁ、馬鹿だなぁ……お前」


 ……そういえば昨日、フリスさんが部屋に戻ろうとする俺を引き止めてくれたなぁ。


 ええと……んんと……



『えっ!? ま、待って タクロー! その前に早く〈調整槽(ウテルス)〉へ……!!』

『いやもう、明日でいいよ……明日の朝ね。とりあえず今日は寝かせて……』

『だ、駄目です! このままだと貴方は……!!』

『……頼むよ。今は、休ませてくれ……何かもう、限界なんだ』



 疲労困憊だった俺は、彼女を無視して部屋に戻った。そういえばあの時のフリスさん……何だか悲しそうだったな。


「幼馴染の誘いを断った報いだな、バカ息子め」

「……うるせー、俺だって一杯一杯だったんだよぉ……! どうして俺があんな、あんな……!!」

「……まぁ、この国を救うっていう大仕事を任されたんだからな。仕方ないよなぁ」


 親父はそう言って俺の隣に座った。


 親父が座った途端にベッドはみしりと音を立て、何かギシギシと軋んでいる……あれ、今の親父体重何kgあるの?


「でもな、こう考えてみろ」

「……どう考えろってんだ?」

「お前の救ったこの国に、誰が住んでいるのか」

「……そりゃ、その……」

「そしてその国に住む誰かが、お前のために何をしようと思っているか……とな」

「……」

「この国を救うのはお前しかできないけどな、それでもそんなお前のために何かをしてあげたいって人はいるんだよ。彼女みたいにな」


 勘弁してくれよ、親父。なんで今そんな台詞言うんだよ……ただでさえ体痛くて泣きべそかいてんのにさぁ。本当、マジでこの親父さぁ……。


「……わかってるよ」

「わかってないよな。そりゃそうだ、お前みたいなガキが大人の言うこと素直に聞くわけないもんなー」

「……クソ親父」

「ま、覚えておくだけでいいさ。とりあえず今はな」


 親父はそう言い残して部屋から出ていった。くそぅ、わかった風な口利きやがって……


「……あれ?」


 ん、待って? 親父、俺を置いていくの? 俺は今動けないんだよ!? ちょっ、待って!!


「ちょっ、親父! ベッドから起きんの手伝ってくれよ!!」

「えー、面倒クセェ」


 >このクソ親父が!<


 そうだったよ、畜生! この親父は良い事言うけど肝心な所が抜けてるんだよ! 忘れてたよ、アンタはそういう親父だったよぉ!!


 でも助けて! 可愛い息子を助けて! 今こそ頼れる父親の一面を俺に見せて!!


「親父ぃいいー!!」

「 う る さ い 」


 >このクソ親父がぁ!!<


 あー、あーもー! 妹といい……親父といい……本当に何なんだよ!


 俺、本当に頑張ったんだよ!? なのにこの仕打ち! グレてやる……グレてやるぅ!!


 ガチャ


 頭の中を負の感情で一杯にした俺の部屋にドアを開けて 誰か が入ってくる。


「どの面下げて戻ってきやがったコラァ! このボケカスゥ! ニポンを救った俺にこんな扱い……もう絶対に許さねぇからなぁ!?」


 軽くダークサイドに堕ちかけていた俺はその誰かに思い切り怒鳴りつけた。


「あ……あの……」

「……ホア?」


 俺の部屋に入ってきたのはフリスさんだった……。


 おお、ジーザス。


「……」

「ご、ごめんなさい……タクロー……私……」

「……おはようございます、フリスさん。あの……俺……」

「私、その……下で、待ってますから……」

「あ、あの……」


 フリスさんは悲しそうな顔で俺の部屋から出ていった……


「……うう、うううっ!」


 泣いた。俺は一人、ベッドの中でうずくまりながら……大声で咽び泣いた。



「力の代償」-終-


\KOBAYASHI/

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