プロローグ「フリス・クニークルス」
祝え! 白ビキニの妖精誕生の瞬間である!
「……うん、よし。いいぞ、もう大丈夫だ」
俺はとある部屋で精神統一に励んでいた。
「来いよ! かかって来い……見せてやるよ。小林くんの本気を見せてやるよ!!」
俺が居るのは〈ウテルス〉と呼ばれる薄い青色に光る謎の液体が満ちるプールが設置された部屋だ。
謎のプールの中で顔の怖いサイボーグ怪人がポツンと一人。うーん、シュール。
『タクロー、もういいですか?』
「ヘェア!?」
『あの……こちらの用意はもう……」
「え、ええと……ごめん! もうちょっと時間を!!』
【……報告、コバヤシ・タクローのステータスに】
「お願いだから今はそっとしておいてくれないかな、アミダ様?」
はい、肝心なのはここから。このウテルスとかいうプールの設置された謎の〈地下プール室〉の薄い曇りガラスの向こうにですね……
フリスさんがスタンバってるわけですよ。
それでね、今の僕の姿を見て下さい。ビキニパンツですよ。
〈コバヤシ専用高機能調整装衣二型-武-〉とかいう大層な名前ついてるちゃんとした装備なんだそうですけどね?
どう見てもただのビキニパンツですよ。
特撮ヒーロー番組に出たら間違いなく敵勢力行きの怪人がね、ビキニパンツ一丁でなんか光ってる怪しいプールの中にちゃぽんと浸かってるわけですよ。
>どういうことだよ!<
あの〈終末〉をぶち転がしてから、色々あってこの部屋に強制連行された。俺は家族に説明を求めようとしたが、明衣子は話を聞いてくれねえし、ロボ親父には……
『頑張れ、タクロー! 今日ぐらいは勝てよ! いつもヒィヒィ言わされて情けないからな!!』
だとか目をビカビカ光らせながら応援されるだけだった。
勿論、最初は意味がわからなかったんだが……この部屋に入る前に会ったフリスさんの表情とこのビキニパンツを見てこれだけは察したね。
俺、小林君は今────……
『では、失礼します。あまり力を入れないでくださいね、タクロー』
男としての覚悟と度量を試されているのだと。
「いあ、大丈夫ですよ? 最初は緊張しましたけどー」
「〈調整〉は貴方にとって何よりも重要な事なんです。だから緊張を解いて、何も怖いことありませんから……」
「はい、もう大丈夫です。だから心配しなくても俺はァァァッァ─────!?」
優しい声で緊張を解してくれるフリスさんの方を向いた瞬間、俺は思わず絶叫した。
「え、あの……どうしたんですか!? タクロー!!」
振り向いた先には、白ビキニ姿のフリスさんがいた!
「だばっ、だばばばばばばぁい! だばばばぁぁい!」
「……だ、大丈夫ですか?」
彼女のビキニ姿を見た俺は思わず目を見開いて奇声上げながら震え上がった!
何、何なのあのボディ! 16歳だろ、高校生だろ!? 馬ッッッ鹿じゃねぇの!? 青少年の何かが危ないどころじゃないよ、歩く青少年殺戮兵器だよ!
青少年絶対殺すウーマンだよ!!
「あばばばばばばばっ!」
「た、タクロー……?」
身長155cmの小柄な身体にバスト88cm! 脱いだら凄いとかいうレベルじゃねぇ、『脱いだから死ね』と言わんばかりの暴君的プロポーション!
その青少年絶対殺すボディに白ビキニですよ! 完全に殺しに来てるよ!!
「ふぅわわわわわわわわわわっ!!」
だ、駄目だ! 落ち着け、ひとまず落ち着くんだ俺……!
「……ぬんぬぬぬっ……ぬっ!」
精 神 統 一!
あの御姿が刺激的なら見なければいいんだ! 目を逸らして呼吸を整えろ! 精神統一、精神統一、精神統一ゥゥウウウウウ!!
「あ、あの……」
「……大丈夫だ、問題ない」
「……本当に?」
大丈夫だよ! ちょっと心臓張り裂けそうになったけど何とか大丈夫だよ! 大丈夫なんだよぉ!!
「大丈夫です」
「わ、わかりました……それでは私も〈調整槽〉に入りますね」
「ええと、君が入っても……大丈夫なの?」
「どうしてですか?」
「……いや、だって……この色だよ?」
「タクローの目の色と同じ綺麗な青色ですよ? ふふ、私の好きな色です」
あぁ、はい。同じ色、そうだね……この青い目は俺が受け継いだ数少ない母さん要素だったね。
「ええと、もう一つ聞きたいんだけどさ……」
「はい、何でしょう」
「フリスさんは何で、その……水着姿なの?」
「こ、これは水着じゃないですよ!」
>水着じゃないの!?<
「いや……どう見てもその、白ビキニにしか……」
「えっ! ビ、ビキニなんてそんな大胆な水着……私には」
フリスさんは顔を真赤にして恥じらうような素振りを見せるが……その姿は大胆じゃないのか? あと左肩の〈赤い刺青〉が気になるんですけど……綺麗な柔肌にそんなの入れていいの?
「こ、これは調整者用の〈新型調整用装衣-神楽-〉という装備でして……決して水着ではありません」
「……え、マジで?」
「……やっぱり水着に見えますか?」
水着にしか見えません!
何処をどう見ても白ビキニ……あ、よく見たら右胸とパンツの部分に意味ありげな〈赤い刺繍〉がある。成る程、確かにただの水着じゃなさそう……
いや、やっぱりただのビキニ水着にしか見えねえよ!!
「……気になりますか?」
「えっ! いやっ! 全然、気になりません! 凄く似合って……じゃなくて!」
「……ふふっ、似合ってますか」
「あばっ! あのっ、決してやらしい意味じゃなくて、凄く……綺麗だなって!」
「ありがとうございます。貴方にまたそう言って貰えると、着てよかったと思います」
そして天使のようなこの笑顔!
何なの、この娘!? 駄目、もうこれ以上彼女には付き合えないわ! 健全な青少年である小林君の大事な何かが危ない!!
「……では、失礼しますね」
「えっ、あっ……」
謎の液体に満たされたプールにフリスさんも入ってくる。
「……ッ!」
俺は思わず後ろを向いたが、フリスさんは何の躊躇もなく俺に抱きついてきた。
「あばっ!?」
「何だか、緊張しますね。ずっと貴方とこうしてきたはずなのに……」
……ずっと!? ずっと貴方とどうしてきたの!?
ちょっとタクロー君!? 君は今までこの娘と何をどうしてきたの!?
「少し、ドキドキします……」
俺は少しどころじゃないです!
もう心臓が止まりそうです! それにフリスさんが抱きついてきたから柔らかいのがむんにゅーっと当たって背中がやべぇ!
これから何が起きるんだ……一体、何が始まるんです!?
「では、始めます……〈接続〉開始、認証コードは〈0081〉」
「え、なに? コネクショ……?」
「……調整者登録名称、フリス・クニークルス」
彼女が言葉を言い終えた直後、俺の身体が青く発光した。
【……認証コード及び調整者登録名称を確認……完了。調整享受態へと移行……】
「ほあっ!? 何の光!?」
「……まだ動かないで、タクロー……ッ!」
【……完了。〈エンヴリヲ〉との接続を許可】
そして俺の全身を覆う装甲のような物がガシャガシャと音を立てながら展開する。
「うわわうわわわっ! 待って、ちょっと待って待って! 何かヤバい、俺の身体が何かヤバいってぇ!!」
「……始めます!」
────ずぷんっ。
フリスさんはそう言って、装甲が開いて剥き出しになった俺の身体の中に手を突っ込んだ……
どうしてこんな事になったんでしょうね。
自分でもよくわかりません。正気を取り戻してから、この謎のプール部屋でこうなるまでのあれこれを思い出してもさっぱりわかりません。
理解が追いつかないというか、納得したくないというか……。
それでも今一度、思い出してみよう……俺が彼女とこうなるまでの経緯を。こうなるに至ったあらましを。
とりあえず俺が真っ先に思い出せたのは〈痛み〉。
俺の全身を蝕む……正体不明の激痛だった……
プロローグ「フリス・クニークルス」-終-
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