プロローグ「開幕10割」
ここから本編になります。温かい紅茶、もしくはMONSTERを用意してお楽しみ下さい
黒煙、悲鳴、サイレンの音、破壊された高層ビルに荒れた街並み……
かつてそこにあった日常が跡形もなく破壊される。そんなゾッとするような光景をタワービルの屋上から見下ろしながら、俺は呆然としていた。
『皆さん、見えますか!? 彼です……ようやく彼が来てくれました!!!』
報道ヘリコプターに乗った角の生えた美人リポーターが興奮気味に言う。おかしいな、俺の知ってる人間には角なんて生えない筈なんだけど。
『……聞こえる? 聞こえるなら返事をしなさい』
頭の中に声が響く。聞き慣れている筈の声なのに、俺には違和感しか感じられない。そりゃそうだ、この人は似ているだけで あの人とは別人なんだから。
「あ……はい、聞こえてます。沙都子先生」
『先生はやめなさい。何度も言うけど、私は貴方の担任でもなければ教師でもないわ』
「……そうすか」
『とにかく現実を受け入れて、目の前の相手をよく見なさいコバヤシ君……アレが貴方の倒すべき敵よ』
「……敵、ねぇ」
俺はうんざりしながらズシンズシンと地ならしを立てて近づいてくる〈敵〉を見る。
ズズゥゥゥ……ンン
パッと見ただけで相手の身長は100mオーバー。つるっぱげで目が六個もある筋肉モリモリマッチョマンの大巨人だ。それと対峙する俺、小林君の身長は168㎝。
「勝てるか!!」
俺は叫んだ。
勝てるわけないだろ、どうしろっていうんだよ! 混乱している内にヘリコプターで運ばれたと思ったら、この始末! この絶望的なフィジカル差でどうしろというのかね!?
『勝ちなさい、コバヤシ君。それと来る途中でも伝えたけど……戦闘放棄や敵前逃亡は封印処置よ』
そしてこの返答である。鬼か。
俺の知ってる沙都子先生は優しくていつも相談に乗ってくれて、俺が傷ついてる時は励ましてくれる女神様みたいな人だったのに、こっちのサトコさんと来たら……ご覧の通りだよ!!
「あんなの相手にどうすればいいんだよ!?」
『戦いなさい』
「どうやって!?」
『大丈夫、自分の力を信じなさい。例え貴方の話したことが本当だったとしても、貴方は私たちに残された最後の希望……〈終末対抗兵器〉のコバヤシ君なのよ』
だから終末対抗兵器って何!? そこの説明もろくにしませんでしたよね!?
「自分を信じなさいって言われても……」
〈敵〉が迫りくる中、俺はじっと自分の手を見る。
何度思い返しても、俺は昨日までごく普通の人間だった。妹も、オヤジも、安藤や田中、ボブ……学校のみんなが普通の人間だった筈だ。
「もう小林君の面影も何もねーじゃねえか!!」
だが、目が覚めると俺は生身と機械が融合したような恐ろしいバケモノの姿になっていた!
見てよ、この顔! 真っ白い仮面みたいな顔にギョロリとした青い目! 髪は!? 眉毛は!? 耳と鼻はどこにいった!? 人間としての面影は何処へ!?
『コバヤシ君、前を見なさい! 敵が貴方を狙っているわ……戦闘態勢を!!』
「はぅああっ!?」
『駄目よ、逃げちゃ! 戦いなさい!!』
「ムリムリムリムリ、やっぱりムリィイイィィィ!! 本当に俺は戦ったことなんてないんだってばぁあああ!!」
『大丈夫、私を信じて!!』
「俺の話を信じてくれないサトコさんの何を信じろっていうんだ!?」
巨人さんはその大きくてギンギラギンな沢山の目で俺を睨みつける。
そしてもう何と表現したらいいのか……とりあえずバカでかい右腕を振り上げる。なるほどそうですか。わかりました、完全に理解しました!
僕、ここで死ぬんですね!!
「あぁぁぁぁあー! やばーい、死ぬー! 潰されちゃうううううー!!」
『落ち着いて! 例え貴方が私たちの知っているコバヤシ君じゃなくても』
「うわぁあああああー! もう駄目だぁあああああああ!!」
そして大巨人さんは振り上げた腕を、俺に向かって振り下ろす……。
『貴方がこれまでの記憶を失っていても、自分の使命を忘れてしまったとしても、戦闘経験がゼロに戻っても、今の貴方が本当に彼とは別人の ヘタレ小市民 だったとしても!!』
「あの、最後」
『貴方が負ける可能性は……ゼロよ!!』
サトコさんが言ったその言葉が頭に響いた瞬間、俺の視界はでっかい拳で埋まった……
プロローグ「開幕10割」-終-
\KOBAYASHI/