「小林」
似てるけど中身は全然違うと気づいた時のショックって割と深刻ですよね。
「あぁいやぁあああああああーっ!!!」
俺は情けない悲鳴をあげつつ二人のパンツをガン見しながら落下していた。
現在、上空数百メートル地点。正確な位置は小林くんの知能では計測不可能……
【現在地点……スワノモリ町西区の上空500mを落下中……】
あ、出たわ。
しかし便利だなー、この視界の文字。気になるあの子のスリーサイズも測れるし、身体の状態を逐一教えてくれるし、現在地もパッと出てくるしね。
ちなみにサトコさんに〈探求者の眼〉を使ってこっそりサーチングした結果がコレになります。
個体名:七条 サトコ
性別:女性
種族:人類種A型
年齢:24歳
対象との関係:専属オペレーター
身長:170㎝
体重:61㎏
スリーサイズ:B94 W62 H90......
>バスト94<
>ウェスト62<
>ヒップ90<
という感じでセクシー極まる魅惑のボン・キュッ・ボーン! ありがとうございます、ありがとうございます! 眼福です!!!
うーん、小柄で清楚な見た目だけど実はワガママボディなフリスさんとは好対照だな。ふふふ。
そして気になる年齢は24歳。うんうん、素敵なお年頃ですよ。24歳とかまだ全然許容範囲内じゃないですか、ははははー。悪いな、田代。お前より先に俺が知ってしまったぜ☆
……とまぁ〈探求者の眼〉の素敵な機能をさくっと紹介させていただいたわけだが、そんな便利なお目々を持つ小林くんが居るのは上空500m。
>死ぬわ!!<
くそおおお! 何が『お願い、コバヤシ君!!』だぁ! 戦う前にもう負けちゃってるよ! こんな高さから落ちて無事でいられるわけ無いだろうがぁあああー!!
【……最適な着地点を検索中……完了。着地点まで後……200m……】
着地点まで後200mって……あ、なんか矢印出てる。
あれか、あのビルかー……いつの間にあんなビル出来たんだろー。はえー、立派なビルだなぁ。設計士と建築士の匠の技が光りますね。なるほど、わかりました!
あのビルが僕の墓標になるんですね!!
「あぁああああぁぁあああー!!」
【着地点まで後……100m……】
やだもうお目々様、こういう時は正確に測定しなくていいから! 死ぬまでの時間を数字で正確に表されるとか何の拷問だよ! あぁー! やだぁあああーっ!!
【着地点まで後……50m……】
もう終わりだぁ!!
こんな最期ありかよ。あんまりだよ、お母様。僕はね、そりゃー良い子とは言えませんでしたよ? 可愛い子でも無かったですよ。
でもこんな扱いは酷すぎませんか? 酷すぎませんか?!
【着地点まで……後……】
明衣子……ごめんよ、クズ兄貴で。最後まで言えなかったけどさ、俺……お前の事を世界で一番かわいい妹だと思ってたんだ。
迎えに行くのも嫌々じゃない、本当は自分から望んで行ってたんだ。
明衣子が大人になるまで守ってやるつもりだったけど……どうやら無理らしい。ごめんね。それと君に猫耳が生えた時、実は内心で『メイコチャンカワイイヤッター!!』とか大喜びしてました。ごめんなさい、今から死にます。
親父……ゴメンよ、クズな息子で。最後まで言えなかったけどさ、俺……親父を尊敬してたんだ。
立派に俺達を育ててくれたし、色んな所に連れて行ってくれた。
魚の釣り方や、自転車の乗り方、火の起こし方に、絶対にバレない女子更衣室や女湯の覗き方なんてのも教えてくれたな……。ありがとう、親父。女湯は死ぬまで覗けなかったけど……死ぬ前に凄い経験が出来たよ。ありがとう、先に死にます。
沙都子先生……今までありがとうございました。貴女に会えて本当に良かったです。
俺が大人になった時には告白しようとか無謀なこと考えてすみませんでした。
あと、先生の胸を見ながら下着の色を勝手に想像してすみませんでした。どうかいい人を見つけて、幸せになってください。僕はこれから、死にます。
そして……フリスさん。
俺は今日、君に初めて会ったけど……一目見た時から……君が
【……0m……】
ドゴシャァァァン!!
そして俺はタワービルに墜落した。
何か 凄い派手な音 がしたけど、上空500mから小林くんが墜落したらまぁこのくらいの音と衝撃はするもんだろう。自分の身で確かめる事になるとは死ぬまで思わなかったが……
……
ああ……、でも……しゃぁーねえな。
俺がいなくても、明衣子はしっかりしてるし親父もいるし……
『……ぇる……』
思ったより死ぬまでの時間って長いんだな。
一瞬でぶつんっと意識が途切れるのかと思ったが……何かまだ意識がハッキリしてる。
うわぁ、嫌だなこれ……嫌だなぁ……。
『ばや……こぇる……』
なんか、聞こえるな。何だろう……声か? 女の人の声……聞いたことがあるような……誰の声だっけ??
『コバヤシ君、聞こえる!? 聞こえたら返事をして!!』
!? この声は……沙都子先生!?
「えっ、あ!?」
『聞こえてるわね!?』
「アッハイ……ええと、ちゃんと聞こえますよ。沙都子先生……」
『……先生はやめて』
「あれ、先生の声が……頭の中に直接……あれ!?」
『貴方の頭部に搭載されている通信機能に介入して、コバヤシ君の〈脳〉に直接話しかけているの』
「な、なるほど……すげー……って、あれれ?」
俺、死んでない!?
「え、あっ、あれ!?」
あの高さから落ちたんだぞ!? それなのに体に少し埃がついてるだけで全然怪我してない……痛いところもない。どういう事だ、俺の体は一体……!?
【……〈討滅対象〉を確認、〈戦闘態〉へと移行……能力抑制コード〈01〉から〈05〉まで解除】
何だ、戦闘態……? 能力抑制……はて? 何のこと??
【……形態移行に伴いステータス表示を戦闘用に変更。出力開始……完了】
HP:9999/9999
EN:9999/9999
魔法力:『C+』
運動性:『B+』
装甲値:7000
地形対応:『S』全領域対応。
戦闘系統:タイプA+。近接戦闘特化型。
使用可能武装:-
使用可能技能:-
戦闘可能時間:無制限
【……迎撃準備完了】
【第一種全領域対応型終末対抗決戦兵器-J型-】
あ、何かまた視界が変わった!
ええと、体力とか精神力とかをゲージで表したパネルが出てきて、ええと……ごめん説明ムリ。難しい。
【OVER PEACE】
うわ、英語! ちょっとお目々様、俺は英語苦手……
【-OVER PEACE-】
あっ、ありがとうございます。本当に便利ですね……ええと、オーバー……ピース? サトコさんが言っていたやつか!!?
【-Awakening-】
キィィィィィィィィィィン
「うおおっ、何だ!? 体の中から音が……って眩しっ!! 体が光って眩しい!!! 」
『コバヤシ君、今の貴方は……この世界の誰よりも強いわ』
「え、ちょ! 何が起きてるの!? 俺の体に何が……」
『今の貴方は、誰にも負けない!』
「あのせん……サトコさん、説明を……」
『手加減は要らないわ、コバヤシ君……あの クソヤロー をぶちのめして! この国を救って!!』
>だから、説明ぇぇぇぇえええー!!<
いやなんかサトコさんテンション上がってそれどころじゃないみたいですけどね、とりあえず説明して!?
『既に〈終末〉も貴方の存在を感じている筈よ! 住民の避難もさっき完了したわ……好きなように迎撃して!!』
「ええと……」
『遠慮しなくていいの! 今までの貴方がそうしてきたように……!!』
(その今までがわかんないから困ってんだよ畜生ぉおおおおおー!!)
もうやだ、このサトコさんおっぱい大きくて美人なだけの残念な人だよ! 人の話全然聞いてくれないよ、何が専属オペレーターだよ!!!
せめて僕の体に何が起きてるのかくらいは教えてくれない!!? ねぇ! ねぇ!! ねぇ!!!
「ええと……あの……」
『どうしたの、コバヤシ君?』
「とりあえず体がめっちゃ光ってるし、キリキリキリって変な音が聞こえてきて只事じゃないことはわかるんですけどね……」
『ええ、今の貴方は〈戦闘態〉に移行したわ。その状態の貴方は』
「どうやって……戦えばいいんですか?」
俺の言葉を聞いたサトコさんは急に静かになった。
『……』
「……あのー、もしもーし」
『本当に、彼とは違うのね。貴方は』
「えっ?」
『何でもないわ……ごめんなさい……』
あれ、何かさっきと声色が違う。
あれ、何だろう……体のキリキリ音とは別の何かキリキリしたイヤーな感覚がお腹辺りから感じられる……。
「あ、あの……もしかして何か悪……」
『いいの、気にしないで。これから貴方をちゃんとサポートしますから』
「アッハイ……よろしくお願いしま」
『……来るわよ、構えなさい』
「えっ、あっ」
ズズゥゥゥゥ……ン
遠くからこっちに向かって直進してくる白くてテカテカして目が沢山ある顔からビームを放つ筋肉モリモリマッチョマンの変態。
精神状態:『不良』→『注意』……注意。精神が不良から注意にまで悪化。精神状態に問題アリ。
巻き上がる黒煙、遠くから聞こえる悲鳴、けたたましいサイレン音……
ズズゥゥゥゥ……ン
ただ歩いているだけで町が滅茶苦茶になる……そんな途轍もない化け物と、これから俺は戦わされるらしい。
「……よ、よーし!」
『……』
「サトコさん!」
『……何かしら』
「で、出来るだけ頑張ってみます!!」
『ええ、頑張ってちょうだい』
「で、でも俺喧嘩とかしたことないから戦い方がわからなくて」
『いい機会だわ、あのクソヤローと戦って身体で覚えなさい』
「あの……その、やっぱりちょっと怖いかな……って」
『……〈敵〉が来るわよ、コバヤシ君』
サトコさんは俺の必死な訴えを聞いても、びっくりするくらいに冷淡な返事をするだけだった。
「小林」-終-
/小林\




