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「クズの本領」

やめてよね。クズとクズが本気になったら、僕が勝てるわけないじゃない。 たくろー。

「グワーッ!!」


 突然豹変した安藤と田中に殴り飛ばされ、俺は窓際まで吹っ飛んだ!!



【……警告。コバヤシ・タクローの肉体に物理攻撃による損傷発生。ステータスに大幅な変化アリ】


 損傷判定:小。日常生活に僅かな支障を来たす可能性アリ。


【……警告】



「コバヤシィ……お前、コバヤシィ……」

「あ、ちょっと待って……」

「ついに本性を表したなぁ……死ぬ準備は出来てるかぁ……?」


 やばい、こいつら凄い怒ってる! この目はマジで俺を殺す気だ!!


 しかし何故急に……俺はただ『フリスさんは大胆な子』だって正直に話しただけなのに!!


「い、いきなり何だよ!?」

「やっぱり手を出してるじゃねーか、コラァァァーッ!」

「ちゃっかり幼馴染から彼女にクラスアップしてるじゃねーか、コラァァァァーッ!」

「え、いや、手を出してないよ!? 彼女の方からいきなり上に乗っかって」

「きぇぇぇぇぇあああああーっ!!」

「ほわあああああああああーっ!!」


 今の発言がまずかったのか、安藤と田中は天を仰ぎながら奇声を上げる!


「な、何だよ!?」

「あはぁっ! もう無理ぃ! コイツもうコロス、ブッコロス!!」

「てめぇの命は今日で終わりだぁ! 生きて帰れると思うなよぉぉ!?」

「うぇぇぇぇっ!?」



【……警告。コバヤシ・タクローの肉体に物理攻撃による損傷発生。ステータスに大幅な変化アリ】


 損傷判定:中。肉体機能に一時的な障害が発生。運動能力低下。


【……警告】



 俺の視界にデデンと大きく【警告】の文字が表示される! どうやらマジでヤバい状況にあるらしい!


「お、落ち着けお前ら! お前らにも居るだろ!?」

「あぁん!?」

「おぉん!?」

「ほ、ほら……俺にもフリスさんが居るんだからいい加減、お前らにも彼女が」

「ホワァァァァァァァーッ!」

「うおおおおおっ!?」


 痺れを切らした田中が何処からか持ち出した釘バットで殴りかかってくる! 俺は咄嗟に回避したが、窓レールが田中のパワーで思い切り凹んでしまった!


「おまっ……! それは駄目だろ!? それは死んじゃう奴だろ!?」

「お前は此処で死ぬんだよぉぉぉぉ!」

「やっちまえ、田中ァァァァ! 俺が許す! もう殺せ! ブッ殺せぇぇぇ!!」

「ホアアァァァァァァァ!!」


 あ、なるほど! わかりました! その反応で完全に理解しました!



 >こいつらまだ彼女いないんだ!!<



 そりゃ怒るよね! 彼女いないのに女の子といい感じになってる風な事言われると殺したくなるよね! でも、それならこの世界の俺はどうやって今日まで生きてこられたのかな!?


「遺言はあるかぁ、コバヤシィ」

「言うなら今の内だぜぇ……コバヤシィ」


 釘バットを構えた田中と拳を鳴らす安藤が目を血走らせながら俺に近づく。


「……あの」

「よし、ならば死ぬがよい」

「祈れ、せめて楽に逝けるようにな!」

「 待 て や !」


 ……何故だ。家では家族に見限られ、今度は学校で友人に殺されかけている。俺が一体何をした!?


「とりあえず俺の話を聞いてくれませんか! 俺たち友達だろ!?」

「聞いてやろう、ただし遺言だ」

「長いと感じれば言い切る前にコロス」

「言い切った後でもコロス」

「このド畜生共が!!」


 はっ、待てよ。俺は何か見落としていないか……こいつらには()()彼女がいない。


 それはつまりこいつらはまだ女に飢えているということで……これだ! いける、いけるぞ……、こいつらが()()()()()()()()()()二人だとすれば!!!



【……コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ。隠された特殊技能が一時的に発現】



 精神状態:『要注意』→『不良』。精神が要注意から不良まで回復。

 特殊技能:『口巧者』『限定読心術』『カリスマ』



 先程までの赤色の文字と違い、視界に青色の文字が浮かび上がる。どうやら危険な状況に置かれた時は赤色、精神が安定したり打開策が浮かんだり良い状況の時は文字が青くなるようだ。


 いや、でも……うん。色々とツッコミたいところがあるんだけど今は置いておこう。


「……本当に、俺を殺す気か?」

「うむ、コロス」

「はい、コロス」

「俺にはフリスさんという幼馴染が居るのに?」


 俺の発言に二人は硬直。数秒後、再び目にどす黒い殺意の炎を灯して俺に引導を渡すべく掴みかかってきた。


「ぶっ、ぶっ殺してやらぁぁぁーっ!!」

「つまり、俺は()()池澤クリスタル女子学園の生徒と交流を持っているということだ」

「だから何だぁ、コラァアアアアアアアアアアアアーッ!」

「自慢か!? 自慢かぁ、おら自慢かぁ!? 遺言がそれとは見損なったぞコバヤシィイイイイイイ!!

「要するに……だ。俺は頼めるんだぜ……?」

「あぁぁぁん!!?」

「ヒャア、もうガマンできねぇ! コロス!!」


「女子学園の女友達を、お前たちに()()()()()()()ことをなぁ!!」


 その一言を聞いた二人は即座に俺を放す。


 田中はごほんと咳払いしながら目を泳がせ、安藤は服装を正して正座する。二人の目には既に殺意の炎は消え失せ、まるで神に教えを請う教徒のような、モーゼにすがる民草のような眼差しを向けてくる。


「……まぁ、その なんだ」

「悪かったね、ちょっと……興奮しちゃってて」


 やはりこいつらが変わったのは姿形だけのようだ。


 わかる、わかるぞ……俺には貴様らの考えていること、求めているものが手に取るようにわかる!


「まぁ、任せ給え。さっきは俺も悪かったよ、いやお前らのが悪いけどね? やっぱり言っちゃいけないことだったみたいだからさ……うん。あー、痛かったなー……本当に痛かったぁ」

「すみません、コバヤシさん!」

「許してください、お願いします!」


 深々と土下座する安藤と田中を見て、俺の腹の虫も収まった。


 だがそれと引き換えに、何か人間として大切なものを失ってしまった気がする。ごめんなさい、フリスさん。許してください、フリスさん。


 俺は君の事も、君の友達の事も何も知らないけど……今を生き残るためなんだ。


「顔を上げなさい、出会いに飢えし哀れな子羊共よ。そして俺のありがたーいお言葉を、耳かっぽじってよーく聞きなさい……」

「……」

「……」

「俺 に 任 せ ろ」

「「やっぱりお前は親友だぁああああー!!!」」


 二人は涙を流しながら抱きついてきた。ああ、友情ってなんだっけ。友達ってなんだっけ。


「……ふっ、流石だぜ。コバヤシ」

「やっぱりアイツは俺達の希望だな」

「アイツのクラスメイトであることを誇りに思うぜ」


 見てくださいよ、さっきまで密かに殺気を向けていたクラスメイト達の豹変ぶりを。もう涙が止まらねえよ……



「はーい、みんなおはようー。席についてー」


 おっと、クズ共と遊んでる間にもうHR(ホームルーム)の時間か。


 こいつらの変わらぬ人間性とポジションを考えると、このクラスの担任も沙都子先生で間違いないだろう。


(色々と酷い世界に来ちゃったけど、あの沙都子先生が居てくれるなら頑張れるな……)


 小さい頃に母さんを亡くした俺にとって、沙都子先生は母親と姉の中間にいるような人だった。


 こんな事いうと天国の母さんは傷つくかな。でも、本当に俺はあの人に救われたんだ。あの人に会えなかったら、俺は今頃どんなクソヤローになっていたことか……


「おはよー、先生。今日も綺麗だよ!」

「あらやだ、ありがとう! さっすが見る目あるわねぇー!!」


 そうだ、沙都子先生はどうなってるんだろう……あらやだ、俺ドキドキしちゃってる。



【……報告。コバヤシ・タクローのステータスに変化アリ】


 精神状態:『不良』→『良好』。良好から良好に変化。一時的な興奮状態。


【……良好】



 あんな美人な先生にケモ耳や尻尾が生える所を想像すると興奮しちゃうよね。妹も あの破壊力 だったし当然、沙都子先生も凄い事になってるだろうなぁ。


「えー、うふん。これからぁ、出席とりまぁーす☆」

「……ん?」

「名前を呼ばれたらちゃんと返事シてねぇ? 返事しないとチューしちゃうわよぉ!」


 >誰だ、こいつは!?<


 え、何? 誰このオカマ! ドレッドヘアーで眼鏡かけた色黒のオッサンが猫撫で声で出席取ってる! え、どういうこと!? 俺達の沙都子先生は!?


「……なぁ、今日は先生お休み?」

「ん? 何が?」


 俺は隣に座るツルッパゲの宇宙人みたいな奴に声をかけた。確かこの席に座ってたのは鈴木って奴だったな……あんまり喋ったことないけど確かそんな名前だった。


「今来てるじゃん、何いってんだ」

「え、あれじゃなくてさ。沙都子先生だよ」

「は? サトコ?? 誰それ」

「いやいや、担任だよ! 俺たちのクラスの担任でおっぱい大きいメガネ美人の……」

「このクラスの担任はあのオカマだよ?」

「ホア?」

「おっぱい大きいメガネ美人が、この学校の教師になるわけないだろ。アホかね君は」



 _ 人人 人人 _

 > 神は死んだ <

  ̄ Y^Y^ Y^Y  ̄



【……警告、警告、警告。コバヤシ・タクローのステータスに急激な変化アリ。状態異常発生。状態異常発生】



 いやいや、待って? おかしくね? どうして沙都子先生があんな濃いオカマ野郎になるんだよ。面影ないとかいう次元じゃないよ、性別違うよ。


「はい、コバヤシくーん」

「……」

「コーバヤーシくーん?」

「……」

「もう、仕方ない子ね。そんなに先生のチューが欲しいなら……」

「はい! 僕は此処に居ます、マイグレートティーチャー!!」

「はいはーい、コバヤシくん出席っと。うふふ、今日のコバヤシくんは大胆ねーぇ。先生ドキっとしちゃうわ☆」


 ああ、この喋り方は確かに沙都子先生だわ。


 あの人、酔っ払ったりテンション上がるとこんな口調になるんだよな。流石にチューはしてくれなかったけど、上機嫌になると左手でほっぺを触ってニコニコする癖は先生そのまんまだわ。



 精神状態:『良好』→『危険』……危険値。精神が良好から危険値まで悪化。精神に多大な異常アリ。思考放棄。自殺の可能性大。

 状態異常:『絶望』



 その時、俺はこの世界が間違いなく〈地獄〉なのだということを改めて認識した……。



「クズの本領」-終-


\安藤//KOBAYASHI\\田中/

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