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「誰がために鳩は鳴く」

Long Live the King...

 曇り空が広がっていた。


「……ハァッ、ハァッ……!!」

『アルテリア、もうよせ! それ以上魔法を使うな!!』

「……くっう!!」

『アルテリア!!』


 限界を越えて魔法を放ち続けた影響か、アルテリアの意識は朦朧としていた。それでも魔法を放たんとするが、ついに意識が途切れて彼女はその場に倒れ込んだ。


「アルテリア!!」

「……イギリスの終末対抗兵器(OVERPEACE)の意識反応がロスト! 戦闘不能です!!」

「……そんな、アルテが……」

「……くそっ!」


 曇天の空にポッカリと空いた穴からは眩い光が差し込む。その光を身に纏いながら、巨大な白き獣は咆哮した。


『……聞こえる!? コバヤシ君! お願い、返事をして!!』


 荒れ果てた市街地の瓦礫の中から、誰かの声が響き渡る。しかし、その声に()は答えない。瓦礫の中からは泥に塗れた手が突き出したままの状態で固まってしまっていた。


「日本の終末対抗兵器(OVERPEACE)の状態は!? まさかあの一撃で……」

「依然として意識反応は検出されません! 損傷率60%を越え、意識不明……戦闘続行不可能です!!」

「……ッ!!」


 フリスは膝から崩れ落ちる。彼女の隣に立つ七条も彼の名を叫び続けるが、彼は答えない。


 重い雰囲気に包まれる作戦司令室。司令室にある沢山のディスプレイの中の一つが、戦場の様子を映し出す……そこに映されているのは、あの白き獣に打ちのめされる子供達の姿だった。


「あうっ!」

「ああっ! カミーラ!!」

「ボサッとするな、キャサリン!!」

〈ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア!!〉


 吹き飛ばされたカミーラに気を取られて足を止めたキャサリンの前に飛び出し、ジルバは残された力を振り絞って獣の一撃を受け止めた。道路一面に亀裂が走るほどの攻撃を受け、彼の腕の骨は砕ける。


「ぐっおおおお!」

「ジルバッ!!」

〈ヴァルヴァルヴァルヴァルヴァルウウウウ!!〉

「……くっ!」


 ジルバが身を挺して攻撃を受け止め、白き獣に僅かな隙が生まれる。キャサリンはその隙を見逃さずに片足に力を込めて渾身の飛び回し蹴りを放つが、獣はそのままジルバを叩き伏せて飛び掛かる彼女を尻尾で迎撃した。


「……っがぁ!!」

「うああっ!!」


 勢いよく弾き飛ばされ、キャサリンはビルに叩き付けられる。白き獣は再び咆哮し、己の力をこの世界に誇示しているかのようだった。



「アフリカの終末対抗兵器、損傷率60%……碗部破損! キャサリンの損傷率は70%を突破……両者ともこれ以上の戦闘は危険です!!」

「キャシー……ッ!!」

「もういい、帰還しろ!」

『……』

「聞こえるか!? キャサリン、帰還するんだ!」

『……それは、駄目よ。まだ、この体は……動ける……』

「これ以上戦えば、お前は!!」

『ここは、私の生まれた場所……自由の、国……』

「……ッ!!」

『私たちの、USA(アメリカ)なんだから……!!』


 キャサリンはボロボロになりながらも立ち上がる。


「……世界のみんなの前で、カッコ悪いところ見せられないじゃない……!!」


 傷だらけの体に力を込めてキャサリンは白き獣を睨みつける。


 獣は四つの眼球で彼女を見据え、その靭やかな四肢に力を滾らせる。そして手負いのキャサリンに蹂躙せんとするが、その瞬間に上空からキムの奇襲を受ける。


「何処を見ている、このドンブゥル(けだもの)が!」

〈……ッルル〉

「この生命が尽きるまで、俺は止まらないと思えッ!!」

〈ヴルルルァァァアアアアア────!!〉


 キムが死力を尽くして放つ拳の乱打を頭部に受けても、獣は僅かによろめくだけだった。長い尻尾でキムを縛り上げて地面に叩きつけ、そのまま大きな亀裂が走る程の力で踏みつけた。


「ぐぁぁあああああああああ!」

〈ヴァァアアアアアアア!!〉


 キムは血を吐きながら苦しみ、その身を守る鎧からはメキメキと嫌な音が鳴り出す。獣はそのまま鎧ごと彼を踏み抜こうと力を込めるが、その瞬間に獣の顔面に青白いエネルギー弾が命中する。


 〈ガッ!!〉


 白き獣の顔面に高出力のエネルギー弾が連続して叩き込まれ、ついに眼球の一つが破壊される。流石の獣も大きく怯み、その隙にキムは這這の体で脱出する。


「韓国の終末対抗兵器、損傷率70%を越えました! これ以上の戦闘は危険です!!」

「……何なのですか、あの悪魔は」

「……」

「……一体、何なのですか……!?」


 ディスプレイに映し出される白き獣の姿に戦慄し、彼のパートナーのアミは青ざめた顔で叫ぶ。


 日付は5月1日、ゴールデンウィーク。


 世界の人々が歓迎する大型連休、その一日目に突然現れた〈世誕〉と呼ばれる敵意ある侵略者。ライオンとも、狼とも、虎とも表現できない白光を纏いし異形の獣の前に世界中の終末対抗兵器が次々と敗北していった。既に戦う力が残っているのはほんの数人だけ……それも全員が負傷している。


 そして……残された彼らがあの白き獣に敗北した瞬間、この世界は滅亡する。


「……ここまで、かしらね」


 ついに七条の口から諦めの感情が漏れ出す。ディスプレイには半壊した灰色の機動兵器が白き獣に向けて遠距離射撃をしている姿が映し出されていた。


 しかしどれだけ顔面に攻撃を集中させても、初撃で眼球を潰した以上の目立ったダメージは与えられない。



「ううううっ……!!」


 それでもサーシャは白き獣に向かってエネルギー弾を撃ち続ける。離脱用に残された最後のエネルギーも全て武器に回し、彼女はひたすらトリガーを引き続けた。


「あぁぁああああああ!!」

『サーシャ、もういいの! 離脱して、お願い!!』

「あぁああああああああああああ!!!」

『サーシャ!!』


 サーシャは叫びながらトリガーを引き続けた。彼女の搭乗する〈エカチェリーナ〉は既に走行はおろか身動きすら満足に取れない。脱ぎ捨てたくても緊急パージ用のレバーが破損している為、もはや彼女に退路はないのだ。そして武器に回した最後のエネルギーもついに底をつき、彼女は戦う力すら失う。


 カキン、カキン……


「……ッ」

『サーシャ!!』

「……ごめんなさい、メディ」

『……ッッ!!』


 サーシャは装甲の隙間から覗く空を見上げ、静かに涙を流した。


 白き獣は動けなくなったエカチェリーナを睨みつけ、ゆっくりと歩を進める。だがそんな獣の眼前にキャサリンは上空から降り立ち、ふらつきながらも獣の行く手を阻んだ。


「……ハーイ、ホワイトビースト。何処へ行くの?」

〈……ヴルル〉

「この先には、行かせないよ……」


 獣の後方で負傷していた九龍も最後の力で立ち上がり、血を吐く彼の隣に血まみれになったジョージがふらふらと近づいてくる。


「……よう、九龍。まだ、生きてるか?」

「……お前こそ、無理をしないで寝てろ。酷い有様だぞ」

「はっ、冗談だろ? 女の子があんなに頑張ってるのに……寝てられるかよ」

「……そうだな」

「……という、わけだ。アメリカに借りを作るのは気に入らんからな」


 そこへキムも現れる。使い物にならなくなった装甲を脱ぎ捨て、傷だらけになった身体で吐血しながらも彼の闘志は折れていなかった。そんなキムの姿を見て九龍は心底呆れたような表情を浮かべる。


「……お前は、寝てろ。棒子」

「貴様が言えた言葉か……死に損ない」

「俺も、まだ……やれる。腕は使い物にならんが」

「お前は寝てろ」「ジルバ、寝てろ」「流石に寝てろよ!」

「ははっ、それは無理だよ……ほら、()()()()だって……」


 周囲の瓦礫や、廃ビルの中から傷だらけになった 終末対抗兵器(OVERPEACE)が続々と姿を現す。彼らの頭には各々の 伝書鳩(戦友)調整者(パートナー)からの悲鳴にも似た制止が響き渡るが、皆が黙って通信を切った。



「そんなっ……戦える状態じゃ……!!」


 司令室のオペレーターも思わず口を抑えて涙ぐむ。彼らにはもう戦う力は殆ど残っていない。それでも、誰一人として撤退しようとはしなかった。だが、そんな彼らの姿を嘲笑うかのように白き獣は満身創痍の終末対抗兵器を一蹴する。


 あまりにもどうしようもない、絶望的としか言いようのない光景を前についにオペレーターも目を塞ぐ。


「……タクロウさん……タクロウさん……タクロウ……さん……」


 フリスは震える声で彼の名を呼んだ。何度も、何度も。意識のない彼にその声が届かない事がわかっていても、彼女は呼び続けた。


「……タクロウさん……!!」


 彼女は何度も思い返した。彼が戦場に向かう前に言った言葉を……彼がいつも口にする言葉を。そして彼女はまだ信じていた。


 彼、小林拓郎は絶対に負けないと。


 七条はそんなフリスの姿に思わず歯を食いしばる。だが何度も彼の名を呼ぶ彼女を見ている内に、無意識に七条も彼の名を呼んだ。届かないとわかっていても……。


「……コバヤシ君……」

「……タクロウさん!!」


 いつしか彼を呼ぶ声に力が入り、七条の目にも涙が浮かぶ。そして彼の名を呼ぶ二人の声が重なった……


「……コバヤシ君!」

「……タクロウさん!」


「「────立って!!!」」


 その瞬間、白き獣の近くにあった瓦礫の山の一つが消し飛んだ。


「……!? この反応は!?」

「何だ! 何が起きた……」

「そんな……有り得ません! 日本の、日本の終末対抗兵器(コバヤシ)が……!!」

「どうした、はっきりと言え! 日本の彼が何だって!?」


 オペレーターのコンソールには、コバヤシのエネルギー反応を視覚化したグラフに〈unmeasurable -測定不能-〉の文字が表示されていた……



「ふふふ……そう、それでいいんだよ」


 廃ビルの屋上で戦いを見守っていたアトリは、瓦礫の中から立ち上がった()の姿を見て微笑んだ。


「もっと願って、もっと信じて……その体は、君の願いを叶えてくれる。君の願いが世界を変える……」


 立ち上がった彼の瞳に青色の炎が灯り、背中から()()()()()()()()が生える。


〈ヴァルルルルルルゥウウウ!!〉


 白き獣はその姿を目の当たりにした瞬間に全身を強張らせ、唸るような声をあげた。


「さぁ、タクロー君。見せつけて……その力を」

「……」

「この世界に、()()()()に。だって君が……」

「……あぁぁあぁあああああああああ─────!!」

「ふふふ、ふふふふふっ」


 感極まったアトリは立ち上がり、コバヤシに向かって満面の笑みで叫んだ。


「君こそが、この〈ラクエン〉の王様なんだから!!」


 白き少女(アトリ)の祝福を受け、全身に青色の光を纏わせながら……楽園の王は白き獣に突撃した。



「誰がために鳩は鳴く」-終-


三\(`・ω・´)/       >KOBAYASHI<三

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