「あの世界の中心で」
「お前も、俺たちと同じコバヤシ・タクローだ。いや、コバヤシ・タクローだったんだ」
コバヤシ一号の言葉が更に俺を混乱させていく。
「……ほぁ?」
「だが、ある日突然……お前は眠っていた筈の小林拓郎と繋がってしまった。そして今までコバヤシ・タクローとして過ごしてきた記憶を全てオリジナルの記憶で塗り潰しちまったんだ」
「えっ、おっ?」
「有り得ないんだよ、そんなことは……でもお前はそれが出来てしまった。光る海で眠っていた小林拓郎の意識と、お前は完全に同調したんだ。そして自分が小林拓郎であると信じ込んじまった……」
……メモリア・マル? オリジナル?? あー、駄目。あー、駄目駄目駄目。あーっ、あーっ! もう俺の理解能力限界突破したわ!!
「……ごめん、ちょっと理解が追いつきません」
「くっっそ、やっぱり駄目だったか! そうだな、俺って馬鹿だもんな!!」
「おい、ちょっと」
「そうなんだよなー! それでいて妙に頑固で融通利かないんだよ! 自分の常識とか理解を越えた話をするとすぐ思考停止するんだよなぁーっ! あー、もう腹立つぅ、誰に似たんだこのヴォケは!!」
「えっ、ちょっと酷い……」
「いいか! あんまり時間が無いからよく聞け……そして今は納得しろ! 細かいことは置いといてとにかく納得しやがれ!!」
なんか知らないけどコバヤシ・タクロー達に物凄い怒られている!
どういうことなの!? 納得、納得ってそんな……無理言うなよ! 俺もう頭の中が混乱してあばっ……
「フリスが好きか!?」
コバヤシ一号は言った。その言葉に俺は硬直し、思いっきり目を見開いて反応してしまった。
「好きか! 嫌いか!?」
「え、ええと……」
「嫌いならそれでいい、このまま俺たちとコバヤシの園で一緒にいようぜぇ!」
「そうそう、楽しいよ! コバヤシの園!」
「おいでよ、コバヤシの園!」
「楽しいことが一杯だよー!」
>お断りします!<
「冗談じゃねぇ、こんな寂しい世界でお前らと何しろって言うんだ!!」
こんな寂しいところでコバヤシ達と暮らすなんて冗談じゃねえ! まだアミ公とお勉強した方がマシだ!!
「なら、フリスは好きかぁ!?」
「……で、でもあの子はっ!」
「わからねーか!? お前がそのコバヤシ・タクローなんだよ! 他の誰でもねぇ、お前がタクローだったんだ!! どういう訳かオリジナルの記憶に囚われておかしいことになっちまってるけどなぁー!!!」
コバヤシ一号は俺の胸ぐらを掴みながら怒鳴りつけるように言う。
「あの子が見てるのは他の誰かじゃない、お前だ! お前を見てるんだよ! あの子は今までお前と生きてきたんだ、お前があの子の隣に居たんだ!」
「アミダもな! 基本的にポンコツだけど良いところもあるんだよ! ポンコツだけどなぁ!!」
「フリスだけじゃないぞ、メイコちゃんもだ! あの超絶可愛い猫耳天使にくっっそ雑なデザインしてるオヤジンガー! 最高の親父だったよなぁ!!」
「婆ちゃん様の事も忘れんなよ!? 今までどれだけあの人に助けて貰ったと思ってんだ! 婆ちゃん様はお前を本当の孫みたいに大事にしてくれてるんだぞ!?」
「花嫁候補でおっぱい大きなキャサリンさん! 無口だけど超可愛いサーシャちゃん! そんでアルテリアちゃんに……」
「そして、サトコさんもだ! あの素敵なサトコお姉さんだぞ、わかってるな!!」
「ついでにあのクラスのバカ共もな!! ああ、思い出すだけで嫌になってくるけどさぁ……」
「「「みんな、あの世界でお前と生きてきたんだよ!!」」」
コバヤシ達の言葉を聞いて、俺の頭の中に見覚えのない光景が次々と浮かんできた。
何だ、これは……記憶? タクローの、記憶か……!? だ、駄目だ……頭が、頭が割れそうだ! 待って、ちょっと待って……俺は、俺は……小林……!!
「……ッ!」
「もう一度、聞くぞ! お前はフリスが好きかぁ!?」
コバヤシ一号がそう言った時、俺の頭の中に色んなフリスさんの表情が浮かんだ。
『ふふふ、タクロー』
喜んでいる顔、悲しんでいる顔、照れている顔、そして……ええと、とりあえず真っ赤になっている顔。
『約束してくださいね?』
『今日も絶対に勝って、私の所に帰ってくるって……』
まだ見たこともないフリスさんの色んな表情が、俺の頭の中に次々と浮かんできた。
『それでも私は、貴方の────』
彼女とどんな会話をしていたのかまではわからなかった。でも、タクローがその時に何を思っていたのかは伝わってきた。ああ、そうか……タクローは、いや……俺は……。
「嫌いって言ってみろぉ!」
「コバヤシの園の民にしてやるぜぇえー!」
「そ、そんなの……」
「どうなんだぁ! 小林ィィィ!」
「好きに決まってるだろうがぁああ────!」
俺はコバヤシ達の前で自分の気持ちを正直に叫んだ。
「初めて会った時から、好きになってたよ! 完全に惚れちまってるよ! 優しいし、可愛いし、スタイル抜群だし、ずっと傍に居てくれて、俺を励ましてくれて……ッ! 俺なんかの為に、俺なんかの為にっ!!」
「当たり前だ! 彼女はお前が好きなんだから!!」
「ああ、チクショー! 思い出せねぇよ……タクローの記憶なんて断片的にしかわからねぇ! あと納得できねぇ! 今の俺の記憶がおかしいなんて、俺が自分を小林拓郎だと思い込んでるだなんて言われても納得できるかよ!!」
「うるせぇ、納得しろや!」
「出来るかぁぁー! いつも美味しいカレーを作ってくれる明衣子の姿が! 舌に残る明衣子カレーの味が他人の思い出だなんて、認められるわけねぇだろぉおおー!!?」
コバヤシの園に木霊する俺の魂の叫びにコバヤシ達も騒然としていた。奴らは知らないのだ。あの明衣子が作ったカレーの味を。フリスさんの居る世界の明衣子はカレーが作れないのだから。
「でも……でも、今は……今だけは我慢してやるよ! お前らの言葉を信じてやるよ!!」
「小林……ッ!」
「みんなが、俺を待ってるからな……!!」
だが、今はただ受け入れるしかない。耐えるしかない。俺がすべきことは今は遠き思い出のカレーを懐かしむ事ではないのだ……
「……わかってるな、小林ィ! 今、フリスの世界がどうなってるか……わかってるなぁ!!」
「ああ……わかってるよォ!」
「よぉおおし、ならさっさとアイツをぶっ倒して来い!」
「男ならぁ!」
「惚れた女のためにぃ!!」
「強くなれぇ!!!」
大勢のコバヤシ達の激励を受け、心に熱いものが灯った。
そうだ、俺は言った……フリスさんに『この世界を守る』と。
あの時はタクローへの申し訳なさと彼女の気持ちから逃げるために思わず口走った言葉だった。沙都子先生への想いを捨てられずに、彼女の告白に応えられないからそう言った。彼女が好きなタクローの為に、戦おうと思っていた。
でも今は違う。俺は惚れた女の為にあの世界を守るんだ! 彼女の為に戦うんだ!!
(今日から俺は、彼女を……あの世界を守る最強のコバヤシになるんだ!!)
その熱い決意を胸に抱いた瞬間、俺の体が青く輝き出した。
「うおっ、眩しっ!」
「よーっし、行って来い! 小林ぃー!!」
「あっ、ちょっと待って!? まだ聞きたいことが……!」
「おら、行けよ! さっさとぶっ倒してこい!!」
「待てよ! もうちょっとだけ」
「「「「早く行け!!」」」」
ドゴォ!!
それでも気になったあれこれをコバヤシ達に聞こうと思ったが、奴らは俺の身体をアッパーカットで打ち上げ、大空高く吹き飛ばした。
「あばぁああああ────ッ!!」
吹き飛ばされていく内に視界は眩い光に包まれ……再び俺は意識を失った。
「あの世界の中心で」-終-
\\KOBAYASHI//




