「コバヤシの園」
おいでよ、コバヤシの園
「……ここは?」
気がつけば俺は大きな白い木が一本だけ生えた真っ白な世界に居た。
「おい、アミ公……?」
メモリミテート・ルームかと思ってアミ公の姿を探すが見当たらない。どうやらあの部屋ではないようだ。
俺は……そうだ、あの〈世誕〉とかいう化物に殴りかかったんだった! そうそう、思い出してきたぞ!! みんながやられたから、俺は怒ってあいつの顔に全力で殴りかかってー……
返り討ちにあったんだっけか。
って何だそりゃあ! この身体は意志の力がそのまま強さに変わるんじゃねえのかよ!? 俺はイメージしたよ、全力でイメージしたよ!? この気持ち悪い拳に想像できる限りのパワーを注ぎ込むイメージをして叩き込んだんだよ! この気持ち悪いサイボーグみたいな……
「……あれ?」
自分の手をよく見ると何かが違っていた。え、どういうこと? この手のひら……生命線があるよ!?
「え、え??」
生命線どころじゃねえ、ちゃんと手相がある! 薄っすらと動脈が透けて見える……この手は! 間違いない、本当の俺の手だ!!
「うおおおおおー! うおおおおおおーっ、マイハーンド!! うおおおおおおおおおーっ!!」
俺は思わず自分の手に頬ずりした。手のひらから感じる頬の感触も今までとまるで違う。カツンとした金属音は鳴らないし、ヘルメットに触れているような堅い感触もしない……このぷにぷにした柔らかな手触りは間違いない。
これは本当の俺の顔だ!!
「うおおおおーっ! ラヴリーマイフェーェェェイス! うおおおおおおおーっ!!」
何ということでしょう。〈世誕〉にぶっ飛ばされたと思ったら、元の自分の身体を取り戻したではありませんか。
この肌触り、そして文字の浮かばないクリアな視界、そして小さい頃の骨折を治した時に出来た手術跡。俺の身体だ、間違いなく偽り無くっ! この小林拓郎くんの肉体だぁあ────っ!!
「イ゛ェアアアアアアアア! やったぞ、ママーン!! イ゛ェアアアアアアアアアー!!」
……って待て、待て待て。何かおかしいぞ?
確かに体の感覚はしっかりとある。足が地面に触れている感じはするし、頬を抓れば痛みも感じる。視界も良好、地平線の彼方まで見渡せる……。
なら、ここは何処だ?
俺はさっきまで〈フリスさんの居る世界〉でコバヤシ・タクローとして戦っていた筈だ。それなのにどうしてこんな所に居るんだ? え……ひょっとして死……
「ここは……」
「天国じゃないぞ? 残念だけどな」
「!?」
後ろから誰かの声がした。驚いた俺が背後に振り返ると……
「よう、はじめまして」
そこには、コバヤシ・タクローが立っていた。
かっこ悪いともカッコいいとも付かないサイボーグボディ……そしてよく見たら微妙に愛嬌のあるエ●ァ何とかみたいな顔。見間違いようがない……ついさっきまで俺が入っていた身体だ!
「……」
「なんだその間抜けた顔は、親父そっくりだなオイ」
「……お前は、一体……」
「俺はお前だよ。お前と同じ小林拓郎の未来の姿……かな?」
「へ?」
「成れの果てって言ったほうが正しいかもしれねえな……ははっ」
タクローは頭をポリポリと掻きながら言った。どういうことだよ。未来の姿……? 成れの果て……? 何を言ってるんだこいつは?
「未来……ってなんだよ。意味がわからねえぞ? っていうか……ていうかさぁ! ここは一体何処だよ!! 何でいきなりこんな所に……っ!!!」
「此処は……そうだな。説明が難しいが、俺たちみんなで使ってる共有意識空間……って奴かな? アミダの使うあの部屋とはまた違うぞ」
「は!? それってどういう……」
「そう、俺たちで使っている不思議空間だ」
「……え?」
「ああ、俺たちのな」
「……は??」
「ようこそ、俺たちの世界へ」
気がつくと俺の周囲には、数人のコバヤシ・タクローが立っていた。全員同じ姿、同じ声、そして……
「「「はじめまして、俺はコバヤシ・タクローだ」」」
全員が同じ名前だった。
「……」
「まぁ、そんな顔になるよなぁ」
「俺もそうだったしな」
「うん、俺も」
「俺もだ」
頭がおかしくなりそうになった。混乱した俺は過呼吸気味になり、思わずその場でへたり込んだ。
「はぁ……はぁ……何だよ……何なんだよ……ッ! はぁ、はぁ……何、何……ッ!!」
「お、大丈夫か? 深呼吸しろよー、リラックスだ。リラ~ックス」
「はい、ご一緒にー……ヒー、ヒー、フーッ! ヒー、ヒー、フーッ!!」
「ヒー、ヒー、フー……ヒー、ヒー……ヴォエッ!!」
「うわあ、吐くなよ!!」
「ていうかその呼吸は出ちゃうやつだろ! スーハー、スーハーにしてあげろよ!!」
「あっ、ごめん!!」
「これくらいでだらしねぇな!」
「メイコちゃんが見たら死ねって言われるぞ!?」
うわー……うわぁー……うわぁああ……うわぁぁぁあああーっ!!
このノリよ! このノリ、そしてこの反応……間違いなく俺だ! まじでこいつら全員俺かよ!!
「なるほど、やっぱりお前は俺たちと少し違うんだな」
「……何が、だよ!」
「そのまんまの意味だよ、見た目からして違うしな……お前は特別ってわけか」
「……!?」
「ていうか小林拓郎ってニンゲンはこんな顔してたんだな……」
「うーん、フッッツーな顔だなぁ」
「もうちょっとイケメンかと思った」
>それを言うな!<
ちくしょー、コバヤシ・タクロー共め! そうだよ、フッッツーの顔だよ……イケメンとは口が裂けても言えねぇ親父そっくりのモブ顔だよぉ! チクショーめ!!
「意味がわからねぇことを……!」
「まぁ、そうだろうな。俺も最初はそうだった……全てを理解した今でも、正直納得したくない」
「……?」
「でも聞いてくれ、とても大事な話なんだ。お前に関する……な」
俺が最初に会ったコバヤシ……便宜上〈コバヤシ一号〉とでも呼ぼうか。そいつは俺の顔をじっと見つめながら言った。
「お前は多分、何らかの理由で自分が異世界か何かに飛ばされたと思っているだろう」
「……そうだろ? だって、俺は」
「そこがまず間違ってるんだよ」
何を言ってるんだコイツは。間違ってる? え、間違ってるって何だよ……??
「……は?」
「あれは異世界じゃない。間違いなく、お前が住んでいた世界だ」
「え、ちょっ」
「正確に言えば……小林拓郎っていうニンゲンが住んでいた世界の遙か未来……気が遠くなるほど未来の世界だな。西暦何年とか、数字で現すのも馬鹿馬鹿しくなるくらいに……」
「ま、待って。いきなりそんなこと言われても……ッ!!」
「いいから聞け。こっからが一番、いっちばん大切なことだ。ちゃんと聞けよ? しっかりと頭に叩き込め……いいな??」
コバヤシ一号は青い目をギラつかせて言った。既に頭の中が限界間近の俺は混乱しながら、ただただそいつの言葉に耳を傾けるしかなかった。
「コバヤシの園」-終-
\KOBAYASHI/\KOBAYASHI/\小林/\KOBAYASHI/\KOBAYASHI/




