「夢よりも遠い明日」
バトートゥーデッサイダデステニーデデデデ
「……っ!!」
〈世誕〉の反撃を受けてダウンしていたキャサリンが意識を取り戻す。
「痛っ! ……っとにもう!! いきなり何よ、何が起こったの!?」
『しっかりしろ、キャサリン! 聞こえるか!? 返事を』
「あ、ダディ!」
『大丈夫か!?』
「当たり前でしょ! 何が起きたかわかんないけど、そう簡単にあたしがやられるわけ」
ドグシャァッ
鈍い音が聞こえた。キャサリンが音のする方を向くと、〈世誕〉の攻撃を受けて吹き飛ばされるコバヤシの姿が彼女の目に飛び込んできた。
「コバヤシ……ッ!!」
『待て、キャサリン! あいつは危険だ、距離を』
「ごめん、少し黙ってて!」
『駄目だ、行……ブツン』
キャサリンは伝書鳩との通信を一時中断した。ボロ人形のように宙を舞うコバヤシを助けようとするが、そうはさせないと言わんばかりに〈世誕〉が彼女の行く手を阻む。
〈ヴァルルルルル!〉
「!!」
〈世誕〉が繰り出した攻撃を上体を思いっきり反らせて回避し、海老反りになった勢いをそのまま乗せたサマーソルトキックを相手の顔面に叩き込む。〈終末〉であれば致命的なダメージを受けていたであろう彼女の蹴りを受けても〈世誕〉はあまりダメージを受けていなかった。
「ほんっっとにタフねぇ!」
「駄目よ……キャサリン! そいつに接近戦は……!!」
ボロボロの姿で倒れるカミーラの忠告を受け、キャサリンは少し距離を取る。
「そんなこと言われても……今のあたしには殴る蹴るしか能がないのよ!」
〈ヴルルルルルァアアアアアー!〉
「くっ!!」
ギャキイイイイイン
〈ヴァアアアッ!〉
彼女に襲いかかろうとした〈世誕〉の死角から大きな槍が突き出した。槍先は白き獣の胴体に突き刺さるが、僅かに食い込んだだけで致命傷を与える前にその肉に食い止められた。
「……ちっ!」
瓦礫の中から現れたキムは思わず舌打ちする。すぐに槍を引き抜こうとするが胴体部の肉にガッチリと槍先を取られて抜き取る事もできなかった。
〈ヴァアアアアアアアアアッ!〉
「くそっ!!」
キムは仕方なく槍を手放して後退り、〈世誕〉の反撃を間一髪で回避する。突き立てられた槍は肉の力で押し出されて地面に落ち、獣の後ろ脚に踏み折られた。
「……急所を狙ったはずなんだがな、化物め」
〈ヴァルルルルルル!!〉
「キム!」
「すまないな、カミーラ……俺もこうして相手を貫くしか能がない。その取り柄も、たった今無くなったがな……」
〈ヴアアアアアアアアアアアア!!〉
凄まじい咆哮を上げ、〈世誕〉は大きな前脚で殴りかかる。
「っ!!」
キムは咄嗟に防御姿勢を取ったが、ガードの上から圧倒的なパワーで捻じ伏せられて後方の建物に叩き付けられた。
「キムーッ!!」
「……くっ」
「ちょっ、カミーラはじっとしててよ! その傷で動いたら危ないよ!!」
「こんな傷、気にしてる場合じゃないでしょ……!」
〈ヴァルルルルルルル!!〉
「来るよ、キャサリン!」
「……!!」
ゴオオオオッ!
〈世誕〉がキャサリンとカミーラに襲いかかろうとした時、上空から猛烈な炎が降り注ぐ。
〈ヴァアアアアア!!〉
「えっ!?」
「この炎は……!」
「グルルルルルル!!」
炎に怯む白き獣の目前に、燃え盛る炎の翼を背負いながら黒いドラゴンが降り立つ。傷だらけになりながらも黒いドラゴンは猛々しい咆哮を上げ、全身に炎を纏わせて巨大な獣に殴りかかった。
「グルルルラァァアアアアアアアアアアアアー!!」
〈ヴァァアアアアアアアアアアアーッ!!!〉
ドガッ、バキッ!
〈ヴァルルルルルウウウウー!!〉
ゴシャアッ!
「グオオオオオオッ!!」
黒いドラゴンは白き獣に猛然と飛び掛かるが、灼熱の炎を纏わせたドラゴンの連撃を受けても獣はのけ反るだけで目立ったダメージは受けていない。逆に白き獣の攻撃は、一撃一撃が黒いドラゴンの身体を容赦なく引き裂いていく。それでもドラゴンは攻撃の手を緩めずに獣を攻め立てるが……
〈ヴァルルァアアアアアア!〉
ベギャァッ
「グルアッ!」
〈ヴァアアアアアアアアアア!!〉
腕に牙を突き立てられ、ガッチリと噛み掴まれた状態で周囲の建物に叩き付けられる。圧倒的としか言い表せない〈世誕〉のパワーを前に黒いドラゴンは為す術もなく捻じ伏せられ、何度も何度も地面に叩き付けられた末に軽々と放り投げられた。
「クーロン!!」
「グアアアアアアアアアアッ!」
満身創痍になった黒いドラゴンは赤い煙を全身から吹き出しながら変身解除される。傷だらけになって地に伏す九龍に駆け寄り、キャサリンは雄叫びを上げる〈世誕〉の姿を歯ぎしりしながら睨みつけた。
「がっ……は!!」
「大丈夫!?」
「……参ったな、これは……ごほっ、がはっ!」
「ほんっとに男ってヤツはどいつもこいつも……無茶し過ぎなのよ!!」
遠方からは断続的に〈世誕〉への攻撃が続いていたが、白き獣は鬱陶しそうに身を震わせるだけでまるで意に介していない。
「……何よ、ちょっとくらい弱りなさいよ! この怪物め!!」
こちらがどれだけ攻撃を加えようとも、あの怪物は決して倒れない。
流石に終末対抗兵器の攻撃を受けてノーダメージとは行かないようだが、その常識外れにも程があるタフネスの前にこちらのスタミナが先に尽きてしまう。今回の〈世誕〉はそのスピードやパワーも驚異的だが、終末対抗兵器の総攻撃を受けても倒しきれない底なしのタフネスと強靭な肉体が最大の武器となっていた。
〈ヴァアアアアアアア!〉
「何勝ち誇ってるのよ、あたしたちはまだ負けてないからね……!」
「……そうだな……、負けてないな……ッ!!」
「流石にあんたは休んで! あのジョージみたいに死んじゃうわよ!!」
その発言を耳にした九龍とキャサリンは目を見開く。
「……ッ! ジョージが、死んだのか……!?」
「……」
「……嘘でしょ?」
カミーラは自分を庇うように覆い被さっていた血塗れのジョージに目を向ける。〈世誕〉の一撃を受けそうになった時、咄嗟にジョージが身を挺して彼女の盾になったのだ……。
「本当に……男ってのは馬鹿よね。死ぬまで、治らないんだから……」
「ジョージ……ッ!!」
「……!」
《……勝手に、殺さないの》
ジョージの犠牲に悲嘆する三人の前に傷だらけの機動兵器がズシンと着地する。こちらに向かってくる〈世誕〉に向かってライフルを向け、数秒間エネルギーをチャージした後で発砲した。
――――カァオ!
弾むように独特な軽い音とは対照的に強力なレーザー光線が銃口から放射され、突撃してきた〈世誕〉の身体を大きく吹き飛ばす。
「ちょっとサーシャ! いきなりそんなのぶっ放さないでよ!!」
《……ジョージから生体反応が感知されてる。全然、死んでない。あとコバ……勝手に突っ込んだアショールも一応生きてる……多分》
「……」
「……ふーん、まだ死んでないんだ……へー……」
「カミーラ、酷い」
「……何回声をかけても、返事をよこさないあいつが悪いのよ! 何よ、生きてるなら……生きてるなら!!」
カミーラは涙がこぼれそうになっていた目を必死に擦って立ち上がる。キャサリンもホッと一息ついた後に〈世誕〉を睨みつけ、ギュッと拳を握りしめた。
『……っおい、キャサリン!! いきなり通信を切るな!!!』
「ダディ、動けそうなのはあと何人いるの?」
『……ッ!』
「ダディ?」
『それは』
《私たちを含めて後8人くらい。九龍はもう戦えない……アルテリアも、もう殆ど魔法が使えないみたい》
「……ごめん、ダディ。わかっちゃった」
『……そうか』
「止めたりしないでね? あたしたちは、絶対に負けられないんだから……」
『……』
娘の発言を聞き、彼女の父であり伝書鳩のレオンは沈黙した。
この戦いには25人もの終末対抗兵器が参戦したが、その殆どが無力化されてしまった。コバヤシを含めた近接戦闘を主体とする者達はおろか、遠距離攻撃型の者達も既に弾薬やエネルギーが底をついて戦えない。今動ける者達で、あの怪物を倒さなければならないのだ。
「……じゃあ、行くよ!」
ドゴォン!
「わわっ、何!?」
《……ランディが先に攻撃を仕掛けたみたい。他にも……》
〈ヴァルルッ!!〉
ドガアッ!
「ああもう、ここは息を合わせて……ってもういい! とにかくアイツをぶっ倒すよ!!」
「あー……血が足りないけど、頑張るしかないわね! 行くわよ、サーシャ!!」
《ウラズミェートゥナ……、男は空気を読まないから困る》
サーシャがエネルギー弾で〈世誕〉を牽制し、相手が怯んだ隙にキャサリンとカミーラが駆け出す。
「無理はしないでね、カミーラ!」
「今更なことを言わないで! とにかくアイツをやらなきゃ……!!」
〈ヴァルルルルルッ!!〉
「世界が今日で終わっちゃうじゃないの!!」
カミーラは何とか動かせる右腕から鞭を発生させ、キャサリンは勢いをつけて大ジャンプする。そして空中で更に加速し、青いオーラを纏わせながら〈世誕〉に飛び蹴りを放った。
「まだ、あたしたちの世界は終わらせないよ!」
〈ヴァルルルルルウゥ!!!〉
「あたしたちだって、姉さんやダディ……ママみたいな大人になりたいんだからーっ!!」
世界の明日を背負わされた子供達は、各々の心境を叫びながら〈世誕〉に向かっていく。
〈ヴァルルルルルァアアアアア────ッ!!〉
だが〈世誕〉と名付けられた白き獣はそんな彼らの祈りにも似た叫びを嘲笑うかのように、圧倒的な力で終末対抗兵器を叩き伏せていった。
「夢よりも遠い明日」-終-
三\Саша/ \Camilla/\Catherine/ \(`・ω・´)/三 /KOBAYASHI\




