「ホワイト・ビースト」
FATAL K.O.
『コバヤシ君、しっかりして! コバヤシ君!!』
「……はっ!」
いつからか〈世誕〉の声は聞こえなくなり、俺を心配するサトコさんの声が耳に飛び込んできた。
「だ、大丈夫です!」
『貴方は一旦、帰還しなさい! 今の貴方にこれ以上の戦闘は無理よ!!』
「大丈夫ですって! 俺も戦えます!!」
『駄目よ、コバヤシ君! 帰還しなさい!!』
俺が謎の声と激しくなった動悸に混乱して動けなくなっている間に戦いは始まっていた。20人を越すオーバー・ピースの集中攻撃を受け、〈世誕〉はその場から一歩も動けないままタコ殴りにされる。
「……」
『コバヤシ君!!』
「……わかりましたよ。これ以上、足手まといになりたくねえし」
サトコさんの言う通りに俺はアメリカ支部に戻ることにした。
『帰還するのですか?』
「仕方ないだろ。笑いたきゃ笑えよ」
『私にそのような機能はありません』
戦ってる途中でさっきみたいに動けなくなるとどうしようもないし……俺が参加しなくても〈世誕〉は皆に倒されるだろう。
精神状態:『平常』→『不良』
まだまだ俺はコバヤシのようには戦えないらしい。
実を言うと『俺って強いんじゃね?』という自信があった。二回も〈終末〉をあっさり倒したし、アミ公との訓練もあって格好良く活躍出来ると思っていた。そうして調子に乗った結果がこれですよ。油断してピンチになるわ、何度も味方に助けられるわ……トドメにいきなり動けなくなるわ。もう情けねぇよ、みんなに合わせる顔がないよ……!!
「すみません、俺……」
『……いいの、貴方はよく戦ったわ。今の貴方は彼じゃないんだから』
「……」
『早く帰ってきなさい。フリスちゃんも貴方を心配しているわ……』
……この人は本当にサトコさんなのか? 昨日までとはまじで別人だぞ、まるであの沙都子先生じゃないか。
「じゃあ、情けないですけど……俺は」
『……警告。すぐに戦闘態勢に移行して救援に向かってください』
「え?」
────ギャキイイイイイイイイン!
突然、大きな音が鳴り響いた。
聞いたことのない音だった……まるで、物凄い力で堅い何かが砕かれたような。俺がふと〈世誕〉の方を向くと、こっちに向かって吹っ飛んでくる大きな黒いナニカが見えた。
『警告、高速で接近する物体アリ。回避行動を』
「うおおおおおおっ!?」
ドガァッ!!
俺は咄嗟に身を躱して黒いナニカを回避する。
『コバヤシ君!?』
「だ、大丈夫です! 何だ、一体何が……」
吹っ飛んできたナニカをよく見ると……輸送機で見た大きなロボットの上半身だった。
「……は?」
え、ナニコレ。え、これって……中に人が乗ってる奴じゃ……
〈ヴァルルルルルァアアアアアアアアアアア─────ッ!!〉
俺がもう一度〈世誕〉の方に意識を向けると、皆が〈世誕〉に吹き飛ばされていた。
あの場所で何が起こったのかわからなかった。さっきまで〈世誕〉を圧倒していた終末対抗兵器達が、逆に捻じ伏せられている。ある人は尻尾で吹き飛ばされ、ある人は前脚で踏み潰され、ある人は体当たりで近くの建物ごと潰されていた。
『多数の終末対抗兵器に損傷アリ。戦闘続行不可能な個体も』
「……何だよ、あれは」
『このままでは危険です。至急、救援に向かってください』
冗談だろ? 何だよ、さっきまで皆が勝っていたじゃないか。普通はあそこで終わるもんだろ? だって、皆は俺より強い終末対抗兵器なんだぞ??
「……何なんだよ!」
その皆が、たった一匹の〈世誕〉にやられていた。
〈世誕〉と同じくらいの大きさのロボットもその動きに対抗できずに体のパーツを次々と破壊され、最後は頭を吹き飛ばされて破壊される。俺の近くに吹き飛んできたロボットも、あの化物の攻撃で上半身が千切れ飛んだってことなんだろう……
精神状態:『不良』→『平常-』。戦闘意欲が上昇。〈世誕〉に対する攻撃性が増加。
「……くそったれ」
『駄目よ、コバヤシ君! すぐに離脱しなさい!』
「くそったれが!」
『アレと戦っては駄目────……』
ブツン。
サトコさんの通信が途切れる。俺の意志を読み取ってアミ公が切断したのか、それとも無意識の内に俺が切ったのかはわからない。
『……どうしますか?』
「……言わなくてもわかるだろ。俺はコバヤシだぞ?」
不思議な事に俺の中には〈世誕〉への恐怖はなかった。俺よりも活躍した終末対抗兵器が負けた事や、皆の攻撃がまるで効いていない事への絶望感よりも……
「皆を助けに行くに決まってるだろ!!」
新しく出来た友達を傷つけられた怒りの方が遥かに上だった。
『……ゼロタイムシフタを発動。着地点を指定……』
「ぶっ飛べぇぇー!!」
〈世誕〉の顔面に狙いを定め、俺は音を置き去りにする程のスピードで体当りした。
────ダゴォンッッ!!
俺の亜高速タックルを受けて〈世誕〉は後方に吹き飛び、車に衝突した野生動物みたいに地面を転がりまわった。
〈ガアアアアアアアアッ!〉
「……っはぁ! どーだ、クソヤロー!!」
『着地点に到着、ゼロタイムシフタ解除。連続使用可能回数……残り1』
皆のところに到着した俺は戦闘態勢を取る。
「皆、大丈夫か!?」
「ぐっ……げほっ、げほっ……!」
「うぅ……」
周囲を見渡すと、終末対抗達はボロボロの姿で横たわっていた。負傷しているが全員まだ生きてる。
「……」
なら、ここで俺がアイツを倒せば皆助けられる……!
「意思の力が……そのまま強さになるんだったな? アミ公」
『はい、その通りです』
「本気でアイツを倒したいと思えば……俺一人でもやれるな!?」
『……可能性はあります。しかし今回の〈世誕〉は』
「なら、さっさとぶっ倒して終わらせるぞ!!」
俺の戦意に呼応して全身から青い光が吹き出す。体当たりで吹っ飛ばされた〈世誕〉は何事も無かったかのように起き上がり、ギリギリと地面を掻いて睨みつけてきた。
「覚悟しろ、化け物っ! この小林さんが相手を」
「……コバヤシ、駄目! 逃げなさい……!!」
「!?」
声のする方を見ると、破壊された建物の近くでカミーラさんが倒れていた。
「カミーラさん!」
「……ごほっ、今のアンタじゃ……!」
彼女を庇うようにして血まみれの誰かが体の上に覆い被さってる。その姿を見ただけで、俺は頭がどうにかなりそうになった。
「……!!」
「……駄目よ、早く逃げて……ッ!」
『警告、敵が接近してきます』
〈世誕〉は唸り声を上げながらゆっくりと近づいてくる。
「わかってるな、アミ公。こういう時に俺ならどうするか……もうわかってるな! だから黙って俺に力を貸せよ……!!」
『……了解しました』
四つもあるビー玉みたいな大きな目で俺を睨み、歯をギリギリと鳴らして威嚇する。俺も負けじと大地をドシンと踏みしめ、両拳に力を込めて睨み返した。
「……ブッサイクな顔しやがって。俺の友達に何てことしてくれんだお前このクソヤロー」
〈ブルルルルルッ、ヴルルルルルルルゥ!〉
「いきなり気安く話しかけてくれたと思ったら……返せ? 世界? 意味わかんねーこと言いやがって。知るか、そんなもん……俺が知ったことか!」
〈ヴルルルルルッ〉
「だが、お前はとりあえず今からぶっ飛ばす!!」
〈ヴァルルルルルァアアアアアアアアー!!〉
〈世誕〉が吠えたと同時に、俺は思いっきり駆け出した。
右手に想像できる限りのありったけのパワーを注ぎ込み、俺はただそいつ目掛けて走った。
「うおおおおおおっ!!」
右腕がガシャガシャと音を立てて変形し、元の何倍もの大きさに膨れ上がる。〈世誕〉もこっちに向かって物凄い勢いで突進してきたが、今の俺にはもうあいつの顔面にありったけのパンチを叩き込む事しか頭に無かった。
「歯ァ食い縛れェェェ! このクソヤロォォォォォー!!」
〈ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!〉
「今度はお前が、地べたを這いずる番だぁああああ─────ッ!!」
一瞬だった。文字通り一撃……一撃で勝負は決まった。
俺の全力を込めた一撃を額に受けてそいつは動きを止める。その時の俺は多分『勝った!』と思っただろう。あまりのパワーに地面がボコっと凹み、物凄い亀裂が走るくらいの力が籠もったパンチを顔面に叩き込んだんだから……。
『ザッ……、コバヤシ君ッ!!』
再び通信を繋いだサトコさんの声も届いて、無意識に表情が緩む。完全に俺は勝った気分でいた……
────ドグシャッ
でも〈世誕〉は俺のパンチを受けても僅かに怯んだだけで、気がついた時にはもう俺の身体は鈍い音と共に明後日の方向にぶっ飛ばされていた。どんな攻撃を受けたのかも……わからなかった。
『……、被弾……損傷、大。戦闘続行……支障……』
そしてコンクリート造りの大きな建物に顔面から突っ込んだ所で、俺の意識はプッツリと途切れた。
『────ッ!!!』
最後に聞こえた悲鳴のような叫び声が、誰のものなのかもわからなかった……
「ホワイトビースト」-終-
三\(`・ω・´)/Σ\KOBAYASHI/三




