「コリアンドジャポネーゼ」
コストカットは先進国の嗜み。
「戦いを忘れた男にキム様のお言葉は届きません」
「それもそうだな……」
アミと言う名前のキムのパートナー。濃い紺色の髪をストレートに伸ばし、色白な肌と鋭い目付きが眩しい美少女だ。まるで人形のように整った目鼻立ちに俺は無意識に息を呑んだ。
「……ッ」
「どうした?」
「いえ、少しアレと目が合っただけです。少々気分を害しましたが問題ありません。キム様を見て忘れます」
おお……そちらのパートナーはそういうタイプの子ですか。なるほどなるほど、キツイ性格してますね。嫌いじゃないですよ。
「ではこのあたりで失礼いたします、日本の皆様。ごきげんよう」
「あ、ご丁寧にどうも……」
「……」
フリスさんはアミさんを何か言いたそうな顔で見つめるが、彼女はぷいっと後ろを向く。この二人は仲が悪いのか? やだなぁ……こういうのは。せめてこの世界では日本も韓国も仲良くして欲しい所だよ。
『現在の日韓関係は過去最悪です。韓国では首相はおろか明星天皇すら侮辱されています』
聞きたくないよ、そんな情報! 世界がやばくなってるのに仲悪いとか本当にどうしようもねぇな!!
「……そうだ、言い忘れていた」
「ん?」
「コバヤシはとても強い男だった。アイツになら背中を預けてもいいと、思えるほどにな」
「……あ、そう」
「お前はどうなんだ?」
この野郎、返事に困る台詞を投げかけやがって……上等だよ。
精神状態:『不良』→『平常』。特定対象への対抗心が発現。
戦士としての心得とか覚悟はお前に比べると全然だけどな、この世界のみんなを守りたいって気持ちは負けてねえんだよ! それに俺はこのアメリカに渡ってる途中も、お前がスヤスヤ寝てる間にも夢の中で地獄の特訓してきてんだよ! やれる事は全部やって此処に来たんだ! 俺にだって男の子の意地があるんだよ!!
いいか、よく聞け! 一度しか言わねぇからな!!
「俺は!」
「タクロウさんも強い人です!」
だが俺が返事をする前に、フリスさんが大きな声で返した……
「え、あの……」
「この人も戦えます! 記憶を無くしても、どんなに恐ろしい敵を前にしても絶対に逃げない人です! 貴方にも、あの人にも負けないくらい強くて立派な人なんです! 馬鹿にしないで!!」
「……」
「キム様、戻りましょう」
韓国を担う二人はそれ以上何も言わずに去っていった。珍しく感情的になっているフリスさんに俺はちょっぴり困惑する。
お、おおう……この子、意外とハッキリ言うタイプなのね。
「……あっ」
「あ、ありがとう、フリスさん」
「え、ええとですね……! あのっ、今のは……!!」
「いいのよ、フリスちゃん。貴女が言わなきゃ、私が言っていたから」
「サトコさん……」
「あの子たちも悪い子じゃないんだけどね……」
……本当に、フリスさんは可愛いなぁ。
そんなに顔を赤くしなくてもいいんだよ、君のお陰で俺も自信が持てたよ。ありがとう、フリスさん。そしてサトコさんも昨日までとは見違えるくらいに素敵なお姉さんになりましたね。とても素敵です、好みです。
『無理に彼らと交流を深める必要はありません』
うむむ、アミ公もあの二人にはちょっと刺々しいな。キムの反応を見るにタクローとはそこまで仲悪くなさそうなんだが……
「ま、ああ言っちゃったんだから……勝つしかないな」
「タクロウさん……」
「そうね、貴方にも頑張ってもらうしかないの……辛い戦いになるでしょうけど」
負けられないな、本当に。この二人の為にも、そして家で待ってる明衣子や親父の為にも!
「……ところで、一つ気になってたんですけど」
「?」
「?」
「俺たちの設備だけ、やたらショボくないですか?」
本当に今更だけどね、気になってたからね!
他の国はロボとか専用の武器のメンテナンスに使われるであろう未来的な設備とか用意されて凄いことになってるし、国から派遣されたであろう専属の技術者さん達が慌ただしい感じで動き回ってるんだけど……
日本にだけそういう カッコいいの が一切用意されておりません。
ガレージの隅っこに畳が敷かれ、その上に座布団とお茶と茶菓子に数冊の漫画。そして 意味ありげな黒いケース が置かれているだけです。
おかしくね!?
『問題ありません』
ふざけんな!!
「ほら、キムさん達にも凄いの用意されてるよ? 武器ラックみたいな、何かよくわからないシャワールームみたいな、何か専属のカウンセラーみたいな人も……」
「……ですね」
「コバヤシ君には、ああいうのが必要ないのよね」
「必要ないの!?」
「タクロウさんはその……ええと、調整するだけで全快してしまうので」
「貴方は他の国の子たちのように、入念なチェックや専用の設備を用意する必要がないの。貴方に必要な設備と言えば……調整槽くらいね」
本当に凄いね、タクローくんの身体! あの謎のプールとフリスさんの白ビキニだけあればいいんですか! すげぇ、日本の終末対抗兵器すげぇ!!
「武器も……貴方の身体そのものが強力な武器になるので……」
「この漫画は何だよ……これ読んで時間を潰せと?」
「いいえ、この漫画にはちゃんと意味があるわ」
「どういう意味があるんですか?」
「貴方の戦闘力は全て貴方の意思……つまりイメージ力に左右されるの。だから漫画やアニメを見てイメージ力を養えば……」
「あー……なるほど。漫画のキャラクターの技とかにインスピレーションを得られれば、それが俺の戦闘力アップに繋がると」
「そういうことよ」
ということなので俺はとりあえず用意された漫画を読んでみた。わー、懐かしー! AR○Sだ! 親父の本棚にあったなー……確かこの漫画も主人公の意志の力がそのまま戦闘力になるんだったね。あ、やべえ……この巻はヒロインが生死不明になって主人公が暴走するやつじゃん! 縁起悪ッ!!
「……それでも畳と座布団はあんまりだと思いますよ」
「予算カット……だそうです」
「カットしすぎじゃない!? こんな扱いでいいのか、日本!!」
「言いたいことはわかるけど……日本のお偉いさんはこれでOKしちゃったのよね」
「ナンデ!?」
「天皇陛下のお声がなければビニールシートとパイプ椅子だけになっていたそうよ……」
「おかしいよ、日本! そんな低姿勢だから舐められんだよ!!」
必要なくてもそれっぽい設備くらい用意してもらおうよ! このだだっ広いガレージに畳敷いて茶を啜るだけとか笑われるしかねえじゃん!?
『同感です』
アミ公もそう思うよね!? よし、じゃあ戦いが終わったら直訴しに行こうぜ!!
『政府に簡易調整槽の設置を要求しましょう。待機中にフリス・クニークルスの調整を受ければより万全な状態で戦闘に臨めます』
それは駄目ぇぇぇ────っ!!
◇◇◇◇
「フィラデルフィア上空に多数の反応を確認! 〈護衛体〉です!!」
中央棟の作戦司令室。コンソールを操作するオペレーターの一人がブレイクウッド指揮官に報告した。
「実体化までは?」
「〈哲学者の匣〉の予測演算によるとあと15分です!」
「C-Ⅵの操縦士に通達、終末対抗兵器に戦闘準備をさせるように伝えろ」
「了解しました。今すぐ……」
「集まった終末対抗兵器は25人か……随分と減ったな」
オペレーターが通信部に支持を出す中、ブレイクウッド指揮官の隣に立つ黒スーツの男性は険しい表情で言った。
「事情があって此方に来れなかった者も居たからな、仕方がない」
「……また厳しい戦いになりそうだな」
「それでも、戦えるのはあの子たちしかいないのが現実だ。もし私が代わりになれるのなら、喜んでそうしよう」
「お前なら……どんな敵が相手でも蹴散らしてくれるだろうな」
「勿論だ。妹と違って、私は父親似だからな」
ブレイクウッド指揮官はその言葉を最後に沈黙した。隣に立つ黒スーツの男性、レオンはそんな彼女の顔を見つめながら何かを言おうとしたが、喉元まで来たその言葉を彼は苦しげに飲み込んだ。
「……」
「言いたいことがあるなら正直に言った方がいいぞ、お義父様。それが遺言になるかもしれないからな」
「相変わらず手厳しいな、キャロラインは」
「死んだ親父殿そっくりで申し訳ない。これでも丸くなった方なのだがね」
キャロラインは意地悪な笑みを浮かべてレオンを弄る。オペレーター達はそんな二人の微妙な距離感に何とも言えない感情を抱かされながらもコンソールを睨みつけていた。
「コリアンドジャポネーゼ」-終-
\SATOKO/KOBAYASHI>Frith< \김/\아미/




