「ガレージキッズ」
「……」
「げ、元気だしてください……タクロウさん! 大丈夫です、誰も気にしてませんから!!」
「ソウカナー」
「そうよ、気にしないで。あのブレイクウッド指揮官は本当に気にも留めてないわ。彼女は優しい人だから」
「ソウスカー」
中央棟に用意された終末対抗兵器用の整備区で俺は盛大に凹んでいた。
精神状態:『不良』
あのシリアスな雰囲気であの醜態! 心臓止まるかと思ったよ! フリスさん達が居てくれなかったらマジで心停止してた! こっちをガン見するみんなの顔が今も脳裏に焼き付いてるよ!!
しかもその会議中、指揮官の人のボインがひたすら気になっていたとかもう惨め過ぎる!!!
『キャサリン・ブレイクウッドと結婚した場合、キャロライン・ブレイクウッドも貴方の親族になります。今の内に交流を深めておくのも』
やめろぉ! 今の俺にそれはただの追い討ちだぞ!? どんな顔してあの人と仲良くなればいいんだよ!!
「……そ、それにしても凄い所だね」
「……ですね。アメリカ支部の整備施設は世界でも一番の広さですから」
「その機能もとても充実しているものね。日本も見習って欲しいところだけど……流石にそれは高望みね」
軽く周囲を見渡すだけでとにかく膨大な情報が飛び込んできて、俺は圧倒されるしかなかった。
他のオーバー・ピースが使う武器やら、それぞれに用意された専用の設備やら、どう見てもロボットにしかみえない凄まじい代物が一つのフロアにすっぽりと収まっている。広いし凄いしヤバいし……もう完全に映画のワンシーンだよ。
「皆、どんな風に戦うんだろうな」
「終末対抗兵器によって戦い方にもハッキリと違いが現れるから、詳しく説明すると日が暮れちゃうわね……」
「あれとか完全にロボットですよね? 乗り込んで操縦する感じの……」
「ですね。あのロボットはロシアが開発したサーシャさん専用の〈武器〉です」
「あれは……何だろ、杖? あれを振り回して戦うのか??」
「あの杖はイギリスのアルテリアさんの武器ですね。アルテリアさんは魔法で戦うんです」
「魔法使い……ってやつ?」
「そうですね……私たちは彼女をそう呼んでいます」
メモリミテート・ルームで終末対抗兵器について少し勉強したが、本当に千差万別多種多様といった感じだ。ロボットのパイロットに、魔法使い……そして俺みたいな変なの。
……いややっぱりおかしいよ、この見た目。せめて戦闘用スーツとして後から着込むとか、そういうのが良かったよ。最初からこの姿は流石にどうかと思うよ。
「俺の武器は……この身体か」
「はい、タクロー……いえ、タクロウさんの武器はその身体です。説明が難しいのですが、その身体は貴方の意思を戦う力に変換する機能が備わっています」
「ふーむ……」
「つまり、貴方の意思の力がそのまま貴方の強さになるの。無責任に聞こえるかもしれないけれど……全ては貴方次第なのよ」
意思がそのまま力になるか……。
『貴方の分類は第一種全領域対応型。極限まで強化された身体機能を駆使した近接戦闘及び物理攻撃に特化しています。第一種の特性により、意思の強さで能力が変化する機能が搭載されています』
アミ公との戦闘訓練でも色々と練習したな。強く殴りたいと思えば腕が変形して、飛びたいと思えば足からロケットのブースターみたいなのが生える。咄嗟の思いつきでとんでもない所から変なのが生えたりとこの身体には正に無限大の可能性が秘められているようだ。
『全ては貴方次第です。貴方が諦めない限り、私は貴方の勝利を確信しています』
アミ公がこの身体について説明する時はいつも機嫌が良さそうだ。確かに自慢に思うのもおかしくないくらいに超スペックだよね。
「本当に凄いね、タクローくんの身体は」
「……本当にね。でも貴方の詳しい身体構造については機密事項が多くて私にもわからないの。フリスちゃんもね」
「私たちが知っているのは、貴方の身体の治し方だけなんです……」
しかしこんな身体を誰がどうやって生み出したんだ。生まれた時からこのスペックだった訳じゃないだろうし、やはりタクローが終末対抗兵器になった〈10年前〉に何かがあったんだろう。
『……』
アミ公は10年前について聞こうとすると必ず黙り込む。喋りたくないのか、それとも彼女も知らないのか……まだまだ俺の知らない事は多いな。
「……まぁ、今はいいか。今はとりあえずあの〈世誕〉って奴をぶっ倒すしか無いわけですね」
「軽々と言ってくれるな」
俺の前にスポーツ刈りのイケメンが現れてまるで吐き捨てるような口調で言った。
「えーと、アンタは」
「……キムだ。大韓民国の守護を任されている」
あっ、そうそう! キムさんだ。そういや絢爛交歓祭の部屋や、トランプで騒いだ大広間でもあんまり話さなかったな。
「お前、知らないんだろ? あの化け物のことを」
「……そうだな。見た目が気持ち悪くて、物凄い強いということしか知らん」
「……」
キムは俺を鋭い目つきで睨みつける。おおう、何か気に障ること言ったかな……。
『問題ありません』
その台詞ほど信用出来ないものはないと思うよ、アミ公! お前は本当に人の気持ちがわからんな!?
「大丈夫なのか? こいつに戦わせて」
「……大丈夫よ。彼は戦えるわ」
「……だといいな。期待は出来そうにないが」
「日本は彼に二度も救われているの……それだけで戦力としては十分信用に足る存在だと思うわ」
「そうか、ならいい。ただし言っておくが今回の敵は強いぞ? 戦士ですらないサオジョンでも倒せる日本の〈終末〉のように甘くない」
「……」
まぁそうだよね、普通はそう思うよね。指揮官の人は敢えて話題に出さなかったんだろうけど、今の俺はただの小林くんだからね。そりゃ『こいつに戦わせて大丈夫か?』とか思いますよね。
貴方の気持ちはよくわかります……ごもっともでございます。
「足を引っ張らないように努力はするよ」
「それは頼もしいな」
「ただし、これだけは言わせてくれ」
「何だ?」
ならば受け取るがいい、これが小林くんのお返事だ。
「俺がヤバくなったら見捨ててくれていい。でもアンタが危なくなったら助けてやるから安心してくれ。タクローならそうするだろうからな」
「……!」
俺は確かに戦士じゃない。コバヤシ・タクローじゃない。キムや他のみんなと違って、敵の恐ろしさを何も知らない。
でもな、それがどうした。
戦って勝たなきゃ皆死ぬし、逃げたら封印されるし。もうね、開き直るしかねえんだよ。ヘタレで情けない小林くんだけどな、やるしかねえと腹をくくる時が来たんだよ! そうしないと、明衣子と親父が待ってる日本まで帰れないだろうが!!
「キム様、そこまでにしましょう」
「……アミ」
「今の彼に何を言っても無駄です。彼には貴方のように戦う者としての覚悟も矜持もございません」
キムのパートナーらしき紺色の髪の女の子は俺に冷たい目線を向けながら言った。
「ガレージキッズ」-終-
\SATOKO/\KOBAYASHI/\Frith/




