「大好きな貴方のために」
プロローグになります。温かい紅茶、もしくはMONSTERと一緒に楽しんでいただけたら光栄です。
────空は、晴れていた。
雲ひとつない晴天、青い空から注ぐ陽光は 静かに町を照らし出す。
だが、照らされたのはもはや町ではない。墓場だ。これは 戦い に巻き込まれた者たちの墓標なのだ。
「なぁ、俺は……勝ったんだよな」
廃墟の中で一人呆然と佇む男。
その姿は人と呼ぶにはあまりにも歪で、頭部に髪もなければ瞼もなく、顔は焼け焦げた鎧のような皮膚に覆われていた。剥き出しになった双眸にぼんやりと灯す蒼い光はまるで悲しみの涙のようにも見える。
「俺は……勝ったんだろ? この国を、世界を救ったんだろ? なぁ……!?」
彼は抱きかかえた少女に声をかける。しかし、少女は何も答えない……彼女の命はとうに尽きていた。
「俺は、俺は……!」
少女の淡い紫の長髪は乱れ、美しかったその顔も片目が潰れてしまっている。
「……あぁぁああああああああああ!!!」
一人残された異形の男は彼女を抱きしめて慟哭する。
少女だけではない。共に闘った仲間も、血を分けた妹も、育ててくれた父親も、笑いあった友でさえも一人残らず死に絶えた。この町には、いや、この世界にはもう彼を除いて生き残った者は誰もいない。
「何が、最強だ! 何が無敵の力だ……こんな、こんなもの……!!」
「……ううん、確かに君は 最強だったよ。✛✛✛✛君」
彼以外が死に絶えた廃墟、彼の愛しき者たちが眠る墓地、彼が滅ぼした〈巨人〉が横たわる かつてニッポンと呼ばれた島の一都市。
誰もいなくなった筈の✛✛✛✛町で、誰かが男に声をかけた。
「だから、世界はこうなった。君は、何も悪くない……この世界が君を受け入れられなかっただけなの」
「……ッ!!」
「そんなに悲しまないで。君の悲しむ顔は見たくないの」
「お前、お前は……っ!!」
「ここからまたやり直せばいい。君にはその力と、その資格があるんだから」
異形の男は、落ち着いた口調で自分を諭す白い髪の少女に掴みかかる。世界を終わらせる程の力を誇った〈巨人〉すら討滅した異形に胸ぐらを掴まれようとも、少女は動じなかった。
「こんな世界で一人残されて……どうしろっていうんだよ! 俺は、彼女に……みんなに生きてほしくて戦ったんだぞ!? 」
「あの巨人を倒す為には君の力を全て開放しなければならなかった。そして、実際に巨人は呆気なく倒された……君は〈終の巨人〉から世界を救ったんだよ?」
「その力で、その力のせいでみんな……みんなが死んだんだよ! 一緒に戦ってくれた仲間まで……! これじゃ、これじゃ俺もこの化け物と変わらないじゃないか!!」
「でも彼女が願った通り……君だけは生き残った。それでいいじゃない」
白い髪の少女の言葉に、異形の男は愕然とする。
無言のまま彼女を離し、既に息絶えた愛する者を抱きしめながら男は崩れ落ちる。そして、縋り付くようなか細い声で言った。
「……俺ごと、消してくれ」
「……どうして?」
「頼む、消してくれ。お願いだ……もう、俺は……俺は……」
異形の男の嘆願を聞き、白い髪の少女は悲しそうな表情をする。
「今の君なら、ここからでも新しい〈ラクエン〉を築けるのに……?」
「……頼むよ、早く消してくれ」
「……✛✛✛✛君。ボクは」
「さっさと消してくれよ! もうお前の顔なんて見たくないんだ! 俺は、お前が大ッッ嫌いなんだよ!!」
白い髪の少女は何かを言い出しかけたが、咄嗟に噛み潰した。そして寂しげな表情を浮かべながら幾何学的な赤い紋章が刻まれた右手をかざす。
「願わくば次の世界が、君の望んだラクエンになりますように……」
少女は胸を刺すような感情に心を焦がしながら呟くが
「……俺は、お前の用意した楽園なんて要らない。これまでも、これからも……」
異形の男は少女を真っ向から拒絶した。
彼女の右腕を起点として、異形の男を、この町を、この世界を包み込む程の眩い閃光が放たれる。
少女の放った光は、孤独な男と、誰も居なくなった世界のすべてを飲み込んだ────……
少しでも興味を持って頂けたなら幸いです。
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