6-5 対立
―――チェリャビンスク、赤軍最高司令部
「はぁ……もはや政府はあてにならない。私が決断せねば……」
ジューコフ元帥は部屋の中で一人悩んでいる。
先週、ドイツ軍によってバクー、エレバンなどが陥落し、コーカサス地方を完全に失ったのだ。バクー油田は、撤退前に施設を全て破壊したため枢軸国による復旧は当分先だが、ソ連は石油の供給不足に陥っている。また、ウラル山脈西方のウファやオレンブルクなども陥落して、ドイツ軍がここから300キロ先の地点まで迫ってきている。
肝心のスターリンは心身を病み、スヴェルドロフスク(エカテリンブルグ)近郊の別荘で療養中という状況だ。
「もはや抗戦は不可能。無意味な戦いをやめて早く停戦したが、同志スターリンの様子では到底無理だ。こうなったら……」
ジューコフはあることを画策した。
「ジューコフ元帥、ドイツ政府と連絡が取れました!こちらとの交渉に応じるようです」
「おぉ!やったか!」
数日後、ジューコフにそのような知らせが届いた。実は密かにドイツと交渉の準備をしており、ついにドイツがそれに応じたのだ。
交渉の結果、次の条件や事項が決められた。
・枢軸国軍と赤軍は停戦すること
・赤軍は全ての権益を放棄すること
・赤軍はソ連政府打倒に協力すること
・赤軍は全ての戦時捕虜を解放すること
・ソ連政府崩壊後に赤軍は武装解除して無条件降伏すること
・ソ連政府崩壊後に赤軍幹部らをドイツ本国へ移送すること
この密約は、ソ連にとって敗北を意味しているが、ジューコフは「このまま全員死ぬよりはマシ」と思いこれを承諾した。かくして、赤軍は枢軸国と講和し、ソ連政府打倒に乗り出した。
―――スヴェルドルフスク、スターリン別荘
「ん、何だこの音は……?」
別荘で療養中のスターリンは、外の変な音に気が付いた。遠くで爆撃音か砲撃音が鳴っているのだ。前線がもうこんなところまで移動したのかと不安に思っていると、秘書官が慌てて入ってきた。
「た、大変です!!あの……」
「何だ、落ち着いて状況を伝えろ」
「じゅ、ジューコフらが枢軸国との停戦し、更に政府打倒を宣言しました!これは、クーデターです!」
スターリンはあまりの衝撃に言葉を失い、沈黙が続く。
「ジューコフめ……!あいつも粛清しておくべきだった。大粛清の時にな……!」
そして、スターリンは怒りの言葉を呟いた。
「ここからの脱出は可能か?」
「ここは既に赤軍に包囲されています。我々の戦力は皆無に等しく、制空権もないため脱出は難しいと思われます」
「そうか。ならば……」
陸路、空路共に断たれたスターリンにもはや選択肢はなかった。