6-4 敗走
あけましておめでとうございます(激遅)
1941年8月4日。ソ連の臨時首都ゴーリキーに中央軍集団の先鋒が到着し、ゴーリキーのソ連軍守備隊と交戦状態に突入した。しかし、ゴーリキーの備蓄物資はすぐに底をつき、弾薬、砲弾、燃料なしというソ連にとって絶望的な状況になった。だが、赤軍の士気は祖国防衛プロパガンダによって異常に高まっており、逃亡などをする兵士もおらず文字通り死ぬまで戦い続けた。ゴーリキーの攻防戦には多くの民兵も参加したが、両軍の犠牲者が増えるだけとなった。この頃、ソ連首脳部は東のウラル山脈を超えた場所にある都市、チェリャビンスクへと疎開し、そこを次の臨時首都とする準備を始めていた。なので戦略的に価値がなくなったゴーリキーを守る意味はなく、ただドイツ軍を足止めして侵攻を遅らせるだけであった。
だが、赤軍はゴーリキーの戦いで大きな失態を犯してしまった。ゴーリキー側面で軍の指揮をしていたパーヴェル・クロチキン上級大将が、戦闘中にも拘わらず指揮を放棄。そのままゴーリキーから逃亡し、チェリャビンスクの方へと向かったのである。結果的に、指揮統制が崩壊してまともな抵抗ができなくなり、逃げ遅れた赤軍が包囲ないし殲滅され、20万人の将兵を失った。クロチキン上級大将は逃亡の途中で行方不明となり、なぜ逃亡したのかは分かっていない。
―――ソ連臨時首都、チェリャビンスク
「同志スターリン、こんなところにおられたのですか!」
市内のとあるパーティー会場。そこに、勢い良く扉を開け慌ただしい様子で入ってきた1人の男がいた。その格好はこの会場にそぐわない将校の制服。その男の正体は、ジューコフ元帥だ。スターリンがこのパーティー会場にいると聞いてやってきたところ、話の通り会場の奥の方にスターリンが座っていた。酒に酔いながら踊ったり騒いだりしている男女を、スターリンの故郷のグルジアワインを片手に見て楽しんでいた。それを見たジューコフはスターリンの方に一直線で向かった。
「おーどうしたのだね?ジューコフ元帥」
「こんなところで、何やっているのですか!」
「何って、見ての通りパーティーじゃないか。私は酒で酔っぱらってる人間を見るのが好きでね」
スターリンはワインを嗜みながら言った。
「前線では、未だ大量の死傷者を出しながら撤退しています。パーティーなどしている場合ではありません!」
「別にもうどうだっていいじゃないか。もし戦争が終われば我々は全員殺される。どうせ死ぬのだから、それまで楽しんでいる方がいいだろう」
「つまり、敗北は絶対ということですか?」
「そうだ。元帥も前線の状況を把握しているだろう。キエフ、レニングラード、スターリングラード、モスクワ、ゴーリキー……我々は数え切れないぐらい負けている。西から東からも追い詰められているのだ。欧米の連合国がどうにかしない以上、必ず負ける。元帥も戦いのことなんて忘れて、酒を飲もうじゃないか」
「…………」
ジューコフには、その場の雰囲気の狂気さが分かった。