6-3 東京会談(後編)
年内に完結させたい(多分無理)
「はい。軍国主義、全体主義的な社会のままではいつか国が崩壊します。未来では、多くの国が民主化しています。ソビエト連邦も1990年の崩壊で民主化しています。……この世界ではどうなるか分かりませんが」
天皇は転生者であるため、この時代のことも未来のことも知っている。史実では、ソ連は第二次世界大戦に勝利したものの、その後の冷戦や経済の停滞、ゴルバチョフの改革などによって連邦が維持できなくなり、15の構成国全てが独立しソ連は崩壊。旧東側諸国は民主化した。また、アラブの春によって、イスラム教の国々も民主化し、現代では民主主義が最も採用されている政治形態だと言える。
(バカな……愚かな国民に政治など任せられるわけがない!政治体制の変更など、余計な混乱を招くだけだ)
「もし国民が政治をするとなると、あなたの立場はどうなるんですか?せっかく天皇中心の国を築いたというのに」
ヒトラーは内心そう思いつつ、聞いてみた。
「内閣総理大臣の任命、条約の承認、開戦・終戦の決定などの、最終的な決定権を持ち、国家機関として枢密院を存続させることで政治に干渉できるようにします。全てを任せてしまっては、国家が暴走しかねませんから」
あくまで、形としての民主主義が重要なのであり、政治の裏は国民には見えない。天皇はそれを利用するつもりだ。
「なるほど……」
「それで、あなたは戦後どうされるおつもりですか?ナチ党による独裁体制を続けるのでしょうか?」
「そのつもりでいます。私が国家運営を続ければ、民も安心でしょう」
その体制がいつまで持つのだろうか、と天皇は気になったが、構わず話を続けた。
「そうですか。話を戻しますが、アメリカとソ連が降伏した場合、世界大戦は終結します。できれば年内に終結させたいのですが、それは可能でしょうか?」
「アメリカは分かりませんが、ソ連ならこのままいけば降伏は確実だと思います。ソ連はまともに兵器生産ができなくなっており、赤軍の反抗も弱まってきました。アメリカは……果たしてあの国が降伏なんてするのでしょうか?」
「本土に上陸しなくても、空襲の継続と、大統領を無力化できれば降伏すると思います」
「そうですか。まさか、米ソ英仏の大国を全て降伏させるなんて、数年前の私なら思いもよりませんでしたよ」
2人は談笑を交え、会談は終わりを迎えた。
戦後処理や日独の利害調整などについて話し合われたこの出来事は『東京会談』と呼ばれ、戦後に大きな影響を残す重要な出来事となった。