5-11 ニューヨーク
いつの間にか夏休みが終わっていました。
―――アメリカ、ニューヨーク
ブルックリンの大通りに面するとある喫茶店。2人は喫茶店のテラス席で逢瀬を楽しんでいた。
「ここのコーヒー、相変わらず美味しいわね。毎日飲みたいわ」
「よくもまあ砂糖もミルクも入れないで飲めるよな。俺には苦過ぎて到底飲めない。無理して飲まなくてもいいんだぞ?」
「何言ってんのよ。コーヒー豆の味が一番よく分かるから美味しいんじゃないの。これだからお子様は・・・」
「はぁ?言っとくけど、俺の方が年上だぞ」
「別に1歳も変わらないでしょ。それに、あなたはここが他人より未熟なの」
彼女は頭を指差しながらそう言った。
「何を・・・!」
「あ、そうそう。今度新しく映画が公開されるわね。名前は、えっと・・・」
「ヒズ・ガール・フライデーだろ?」
「そう、それ。あれ見に行きたいの」
「じゃあ今度、そこの・・・」ブオオォォォォンン
「ごめん、飛行機のエンジン音でよく聞こえなかったわ」
「何でこんなところを飛行機が飛んでいるんだ?」
2人とも空を見上げる。編隊を組んだ飛行機が、上空を飛行していた。
「きっと出撃するんじゃない?方角的に、西海岸の方」
「にしては、何だか地上に近づいていないか?エンジン音も大きくなってるような」
その異常な様子に、周囲もざわつき始める。そして、次の瞬間・・・
ドオオォォォンッ!
ズドオォォォンッ!!
「な、何!?」
突如、爆発音が比較的近くから聞こえてきた。周囲も騒然とする。爆発音はひっきりなしに起こる。何が何だか分からないうちに、街中で警報が鳴り響いた。
「敵襲だ!!外にいると危ない!みんな地下に隠れろ!!」
誰かが大声でそう叫ぶ。辺りは大混乱に見舞われた。
「て、敵がここまで空襲に来たのか!?」
「それより、地下ってどこよ!?」
「ええっと、あっちに地下鉄がある。そこに行こう!」
彼女の手を取り、混乱する人々を押しのけて地下鉄へと向かった。
この日、空襲警報がアメリカ全土で鳴り響いた。新型長距離戦略爆撃機がヨーロッパ方面から侵入し、首都ワシントン、ニューヨーク、ボストン、デトロイト、ダラス、カンザスシティ、サンフランシスコなどを襲った。標的となった工場や造船所、市街地などは焼夷弾によって焼け焦げた。特に、市街地への空襲は人々に恐怖を植え付け、心的ショックで複数人が亡くなった。アメリカ空軍は各地で爆撃機の迎撃を試みたが、戦闘機では届かない高高度を飛行していたため、迎撃は困難だった。
その爆撃機の正体は、日本軍が開発したばかりの超大型爆撃機、富嶽。6発の高出力エンジンを搭載し、航続距離は1万8000キロメートルである。
富嶽は日本を出発した後、ソ連領を爆撃しながら西進し、ドイツで補給を受けて大西洋を通ってアメリカを横断したのだ。
アメリカを空襲した爆撃機がドイツ軍のものではなく、日本軍のものであることをアメリカ国民が知るのは少し後のことだった。