5-10 講和(後編)
「見てみろこれを!こんなふざけた内容で、奴らは講和しようなんて思っていない!アメリカの領土は13州に限るだって!?極東の猿の分際で、そんなことができると思っているのか!」
ルーズベルトは顔を真っ赤にして、激昂した様子でハルに向かいそう言った。
「では、もっと良い条件で交渉を・・・」
「交渉など奴らは応じる気がない。するだけ無駄だ」
「ですが、このまま戦い続ければ戦争はより悲惨に・・・」
「もうこれはどちらかが勝ち、どちらかが消滅するかの戦争だ。我々にはとっておきの秘密兵器があるのだから、心配することはない」
「秘密兵器?」
「ああ。アインシュタインが提案してきた新型爆弾のことだ。今、秘密裏にその新型爆弾を開発しているのだ」
そう言いながら、ルーズベルトは新型爆弾の資料をハルに見せる。
「これを開発して飛行機に載せて落とせば、一発で街ごと吹き飛ばすことができるらしい。どうだ、素晴らしいと思わないか?」
「もしこれを開発したとして、一体どこに落とすのですか?太平洋での制海権、制空権は共に失っていますが」
「・・・敵の占領地ならどこでもいい。一発落としてみて、効果を試してみたい」
「じゃあ日本軍が西海岸に上陸したら?そこに落とすのですか?」
「それをやって勝てるのなら、落とすかもしれない。敵が占領した時点で、もうそこはアメリカじゃないからな」
「・・・」
ハルは言葉を失う。ルーズベルトは、敵の占領地なら自国領でも新型爆弾を落とせると言っているのだ。どれだけの人が犠牲になるのか計り知れない。目の前の人物が本当にアメリカ大統領なのか疑ったが、これが現実だ。
「もうあなたにはついていけません。大統領、辞表を書いてきてもいいですか?」
「本当に辞めたいのならそれでもいい。国務長官の席は空席になってしまうが、私が兼任するから問題ない」
「分かりました。最後に私から一言。あなたはアメリカ人によって殺されるべきです。では、失礼しました」
そう言い捨ててハルは部屋を出ていった。
「何だあいつは・・・私の信頼できる部下だと思っていたのだがな。まぁいい。この講和の要求文書をプロパガンダに使い、国民の士気を上げよう。いかに奴らが愚かか国民に知らしめるのだ」
―――日本、麹町区
「陛下、アメリカ政府が講和の申し入れを拒否するとの声明が」
近衛文麿首相からそう報告が入った。
「そうか・・・計画通りだ。では参謀本部に伝えてくれ。『次の作戦を実行せよ』と」